バイオシミラー一覧と承認済み治療薬の種類

バイオシミラーとは先行バイオ医薬品と同等性・同質性を有する後続品です。がん治療や関節リウマチ、糖尿病など幅広い疾患で承認されている製剤について、有効成分や薬価、医療費削減効果まで詳しく解説します。現在どのようなバイオシミラーが利用可能なのでしょうか?

バイオシミラー一覧と承認済み製剤

この記事の概要
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バイオシミラーの定義と承認基準

先行バイオ医薬品と同等性・同質性を有する後続品として厳格な審査を経て承認されている医薬品です

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国内承認済みバイオシミラー製剤

がん治療薬、関節リウマチ治療薬、インスリン製剤など19成分が承認され臨床現場で使用されています

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医療費削減への貢献

先行品より2〜3割安価に設定され、年間数百億円規模の薬剤費削減効果が期待されています

バイオシミラーの基礎知識と承認制度

 

バイオシミラー(バイオ後続品)は、国内で既に新有効成分含有医薬品として承認されたバイオテクノロジー応用医薬品(先行バイオ医薬品)と同等性・同質性を有する品質、安全性及び有効性を備えた医薬品です。平成21年3月4日に「バイオ後続品の承認申請について」が通知され、医薬品申請における新たな区分として位置づけられました。
参考)http://www.nihs.go.jp/dbcb/biosimilar.html

バイオシミラーの承認申請においては、新有効成分含有医薬品に準ずる資料の提出が求められます。製造方法においては独自に恒常性と頑健性のある製造方法の確立が必要であり、構造決定や物理化学的性質、生物活性、不純物等の品質特性、効力を裏付ける試験や薬物動態試験、毒性試験等の非臨床試験、臨床試験において同等性・同質性を示すデータが求められます。承認申請時に必要な資料は、ジェネリック医薬品が最大4種類に対し、バイオシミラーでは臨床試験成績を含む最大20種類に上ります。
参考)https://order.nipro.co.jp/pdf/BB0-B005-0043-00.pdf

バイオ医薬品は微生物や培養細胞を用いて生産され、高度に精製される遺伝子組換えタンパク質、ポリペプチド及びそれらの誘導体が対象となります。一方、従来型ワクチンやヘパリンなどの多糖類、わが国において審査経験・使用実績のない製品は対象外とされています。バイオシミラーの品質は、先行バイオ医薬品とは異なる細胞基材、遺伝子発現構成体、培養・精製工程、製剤化工程を用いて製造されるため、構造・組成、物理的化学的性質、生物学的性質、免疫学的性質、不純物について明らかにすることが求められます。​

バイオシミラー一覧:がん治療薬の承認製剤

がん治療領域では、抗体医薬品を中心に複数のバイオシミラーが承認されています。リツキシマブBS点滴静注(先行品:リツキサン)は2017年に協和キリンより、2019年にはファイザーより承認され、悪性リンパ腫の治療に使用されています。トラスツズマブBS点滴静注用(先行品:ハーセプチン)は2018年に日本化薬、第一三共、ファイザーから承認され、HER2陽性乳がんや胃がんの治療に用いられます。
参考)https://www.mhlw.go.jp/content/001437912.pdf

ベバシズマブBS点滴静注(先行品:アバスチン)は2019年にファイザー、第一三共より、2022年には日医工、セルトリオンより承認され、結腸・直腸がん、肺がん、卵巣がんなどの治療に適応があります。フィルグラスチムBS注(先行品:グラン)は2012年から2013年にかけて複数社から承認され、がん化学療法による好中球減少症の治療に使用されています。ペグフィルグラスチムBS皮下注(先行品:ジーラスタ)は2023年に持田製薬、ニプロより承認されました。​
これらのがん治療用バイオシミラーは、臨床試験において先行品と効果と安全性が同等であることが証明されており、薬価は先行品より概ね2〜3割低く設定されることで、薬剤費の削減に貢献しています。免疫チェックポイント阻害薬の後続品も承認・開発が進行中で、臨床現場の選択肢は確実に拡大しています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8814981/

バイオシミラー一覧:関節リウマチ治療薬の種類

関節リウマチ領域では、TNF阻害薬を中心に複数のバイオシミラーが承認され、臨床現場で広く使用されています。インフリキシマブBS点滴静注用(先行品:レミケード)は、日本で最初に承認された生物学的製剤のバイオシミラーとして2014年に日本化薬より、2017年にはあゆみ製薬、2018年にファイザーより承認されました。2ヶ月に1回、点滴で投与され、現在日本で認可されている生物学的製剤の点滴薬で唯一のバイオシミラーです。
参考)https://www.azuma-rheumatology-clinic.jp/features/biological-products/

アダリムマブBS皮下注(先行品:ヒュミラ)は、世界で最も使われている生物学的製剤のバイオシミラーとして2020年にFKBより、2021年に第一三共、明治製菓より、2023年にはセルトリオンより承認されました。関節リウマチの診断直後から使用可能で、自己注射により投与されます。エタネルセプトBS皮下注(先行品:エンブレル)は2018年に明治製菓より、2019年には東洋カプセルより承認され、日本で最初に承認された注射による生物学的製剤のバイオシミラーです。​
ウステキヌマブBS皮下注(先行品:ステラーラ)は2023年にFKBより、2024年にYDより、2025年にはセルトリオンより承認され、尋常性乾癬、関節性乾癬の治療に適応があります。これらの関節リウマチ治療用バイオシミラーは、先行バイオ医薬品との同等性・同質性が全て同じであると評価されており、患者の治療選択肢を広げることに貢献しています。
参考)https://pharmacist.m3.com/column/rheumatoid_arthritis/6752

日本バイオシミラー協議会のバイオシミラー一覧
こちらのリンクでは、最新のバイオシミラー承認情報がPDF版、Excel版で詳細に確認できます。

 

バイオシミラー一覧:インスリン製剤と糖尿病治療薬

糖尿病治療領域では、インスリン製剤のバイオシミラーが複数承認され、医療費削減に貢献しています。インスリン グラルギンBS注(先行品:ランタス)は2014年にイーライリリーより、2016年にはFFPより承認され、世界で最も多く使用されている持効型インスリンのバイオシミラーとして外来でのインスリン導入を簡単に行えるようにしました。本剤は先行品と同じアミノ酸配列を有する持効型溶解インスリンアナログ製剤です。
参考)医療費削減の味方~インスリンの「バイオシミラー」を知ろう~

インスリン リスプロBS注(先行品:ヒューマログ)は2020年にサノフィより承認され、超速効型インスリン製剤のバイオシミラーとしては国内初となります。インスリン アスパルトBS注(先行品:ノボラピッド)は2021年にサノフィより承認され、先発品と効果は同等であることが確認されています。
参考)インスリンアスパルトBS登場!専門医が教えるバイオシミラー【…

インスリンのバイオシミラーを選択した場合、1本あたりの薬価差は351円となり、3ヶ月に2本使用する患者の場合、1年で2,808円、5年で14,040円と差額が積み重なっていきます。個人レベルでは年間700円程度の自己負担削減ですが、1000人がバイオシミラーを選べば年間200万円の削減になります。その他、ソマトロピンBS皮下注(先行品:ジェノトロピン)は2009年に、テリパラチドBS皮下注(先行品:フォルテオ)は2019年に承認されています。​

バイオシミラー一覧:その他の治療領域と製剤

腎性貧血治療領域では、エリスロポエチン製剤のバイオシミラーが承認されています。エポエチン アルファBS注(先行品:エスポー)は2010年にJCRより承認され、ダルベポエチン アルファBS注(先行品:ネスプ)は2019年にJCR、三和化学、マイランより承認されました。これらは腎性貧血の治療に使用される造血刺激因子製剤です。​
希少疾患治療領域では、アガルシダーゼ ベータBS点滴静注(先行品:ファブラザイム)が2018年にJCRより承認され、ファブリー病の酵素補充療法に使用されています。眼科領域では、ラニビズマブBS硝子体内注射用(先行品:ルセンティス)が2021年に千寿製薬より承認され、アフリベルセプトBS硝子体内注射液(先行品:アイリーア)が2024年にグランドリバーより承認され、加齢黄斑変性などの治療に適応があります。
参考)富士製薬、バイオ後続品3製品の承認取得 目の病気向けなど -…

これらのバイオシミラーは、バイオ医薬品の特許が切れた後に他の製薬会社から発売される薬で、特許が切れた薬と同じように使うことができます。有効成分は分子量が大きく構造が複雑なため同一性を示すことは困難ですが、先行バイオ医薬品と品質、安全性、有効性において同等性・同質性を有することが証明されています。細胞培養技術を用いて生産される製剤も対象となり、高度に精製され品質特性解析可能な医薬品に適用されています。
参考)https://www.mhlw.go.jp/content/001380078.pdf

バイオシミラー一覧から見る医療費削減効果と今後の展望

バイオシミラーの普及は、医療費適正化に大きく貢献しています。厚生労働省の試算では、主要バイオ医薬品7品目のバイオシミラー普及率を50%に高めるだけで年間数百億円規模の薬剤費が節減できると報告されています。実際の医療現場においても、バイオシミラー導入による薬剤費削減効果が確認されており、ある病院では導入後3ヶ月間で薬価差による削減額が約2,300万円に達したという報告があります。
参考)全ての人にがん免疫療法が届く可能性ーバイオシミラーという選択…

患者の費用負担も低減され、高額なバイオ医薬品へのアクセスの向上が図れます。バイオシミラーの薬価は先行品より概ね2〜3割低く設定され、採用すれば薬剤費を着実に削減できます。日本乳癌学会が会員医師を対象に実施した調査では、使用をためらう理由として「先発品との製剤の同等性・同質性に懸念がある」が最も多く53.7%でしたが、実際には「同等性・同質性」とは品質特性において類似性が高く、品質特性に何らかの差異があったとしても最終製品の安全性や有効性に有害な影響を及ぼさないと科学的に判断できることを意味します。
参考)https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001514789.pdf

バイオシミラーの使用促進により、薬剤費の抑制は保険料や自己負担割合の急激な引き上げを防ぎ、国民皆保険を将来へ受け渡すうえで必要不可欠です。がん領域ではリツキシマブトラスツズマブに続き、免疫チェックポイント阻害薬の後続品も承認・開発が進行中で、臨床現場の選択肢は確実に拡大しています。医療の高度化、ドラッグ・ラグの解消、超高齢化社会により薬剤費を含む医療費は増加していますが、バイオシミラーは医療の標準化や医療経済効果に有用であるとされています。将来の子どもたちに使える医療資源を残しておくという視点からも、バイオシミラーの選択は重要な意味を持ちます。
参考)https://www.ge-academy.org/img/academic_jounal_sample/vol14-1/GE14_1_p27.pdf

厚生労働省のバイオシミラー使用促進ガイド
バイオシミラーの基礎知識と使用促進に向けた取り組みについて、厚生労働省の公式資料で詳細な情報が確認できます。