免疫性血小板減少症の禁忌薬と注意すべき治療薬

免疫性血小板減少症の治療において、どの薬剤が禁忌とされ、どのような注意が必要なのでしょうか?

免疫性血小板減少症の禁忌薬と治療上の注意点

免疫性血小板減少症治療の重要ポイント
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血小板輸血の禁忌条件

TTPやHITでは血栓症状を悪化させるため血小板輸血は絶対禁忌

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薬剤性血小板減少症

抗がん剤や特定の治療薬により誘発される免疫性血小板減少症に注意

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ステロイド治療の制限

感染症合併や糖尿病患者では副腎皮質ステロイドの使用に慎重な判断が必要

免疫性血小板減少症における血小板輸血の禁忌条件

免疫性血小板減少症(ITP)の治療において、最も重要な禁忌事項の一つが血小板輸血の適応判断です。特に血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)やヘパリン起因性血小板減少症(HIT)においては、血小板輸血が血栓症状を増悪させるため絶対禁忌とされています。

 

TTPにおける血小板輸血禁忌の理由:

  • 溶血所見(ビリルビンやLDHの上昇と貧血)の合併
  • 破砕赤血球の存在
  • ADAMTS13活性の低下
  • 血小板輸血により微小血栓形成が促進される可能性

HITにおける注意点:

  • ヘパリン投与開始5~14日後に発症することが多い
  • ヘパリン使用歴の確認が必須
  • 血小板輸血により血栓症リスクが増大

血液塗抹標本の確認は、血小板凝集、異常細胞、破砕赤血球の有無を確認する上で極めて重要です。破砕赤血球の確認は、止血治療に血小板輸血を使用可能(ITP)か、禁忌(TTP)かを判断する重要な材料となります。

 

血小板凝集が存在する場合は、採血不良やEDTA依存性血小板減少を考慮し、CBCの再検査、ヘパリンあるいはクエン酸採血での血小板数確認が必要です。

 

抗がん剤による免疫性血小板減少症のリスク

2025年3月に厚生労働省から発出された通知により、複数の抗がん剤で免疫性血小板減少症の副作用が新たに判明しています。これらの薬剤使用時には、定期的な血液検査による監視が不可欠です。

 

テセントリク(アテゾリズマブ):

  • 免疫チェックポイント阻害剤
  • 免疫性血小板減少症の新たな副作用が確認
  • 免疫関連有害事象として発現する可能性

タフィンラー・メキニスト:

  • ダブラフェニブメシル酸塩とトラメチニブの併用療法
  • 好中球減少症、白血球減少症の副作用
  • 定期的な血液検査による監視が重要

これらの薬剤による血小板減少は、薬剤性免疫性血小板減少症として分類され、原因薬剤の中止により改善することが多いですが、重篤な出血症状を呈する場合があります。

 

監視すべき検査項目:

  • 血小板数の推移
  • 出血症状の有無
  • 他の血球系への影響
  • 肝機能検査値(一部の薬剤では肝機能障害も報告)

副腎皮質ステロイド治療の禁忌と注意事項

副腎皮質ステロイドは免疫性血小板減少症の第一選択治療薬ですが、以下の条件では禁忌または慎重な投与が必要です。

 

絶対禁忌条件:

  • 重症感染症の合併
  • 活動性の結核感染
  • 水痘患者との接触歴がある患者
  • 生ワクチン接種予定または接種後間もない患者

相対的禁忌・慎重投与:

  • 糖尿病の合併(血糖コントロール不良例)
  • 高血圧症
  • 骨粗鬆症
  • 精神疾患の既往
  • 消化性潰瘍の既往

小児ITPガイドラインでは、粘膜出血のある新規診断ITP患者において、副腎皮質ステロイド治療が禁忌である場合、免疫グロブリン静注療法(IVIG)を推奨しています。

 

プレドニゾロン30mg/日以上投与時の注意点:

  • 日和見感染症のリスク増大
  • 入院治療の検討が必要
  • 感染症予防策の徹底
  • 定期的な感染症スクリーニング

副作用管理のポイント:

  • 日和見感染症の早期発見
  • 血糖値の定期的モニタリング
  • 骨密度検査の実施
  • 精神症状の観察

免疫グロブリン静注療法の適応と制限

免疫グロブリン静注療法(IVIG)は副腎皮質ステロイドと並ぶ免疫性血小板減少症の第一選択治療ですが、適応と制限を理解して使用する必要があります。

 

IVIG推奨例:

  • 副腎皮質ステロイド禁忌例
  • 緊急手術前(速やかな血小板数増加が必要)
  • 重症出血(Grade 4以上)
  • 粘膜出血を伴う新規診断ITP

投与量と方法:

  • 成人:人免疫グロブリンG 2,500~5,000mg(50~100mL)
  • 小児:100~150mg/kg体重
  • 点滴静注または直接静注

主な副作用:

  • 発熱(最も頻度が高い)
  • 悪寒
  • 嘔気・嘔吐
  • 頭痛
  • 稀に重篤なアナフィラキシー反応

慎重投与が必要な患者:

  • 腎障害患者(腎機能悪化のリスク)
  • 脳・心臓血管障害の既往(血液粘度上昇による血栓リスク)
  • 高齢者(生理機能低下により副作用リスク増大)
  • 血栓塞栓症の危険性が高い患者

IVIGによる治療効果は一過性であることが多く、引き続いて副腎皮質ステロイドによる維持療法を実施することが一般的です。

 

無又は低ガンマグロブリン血症患者での使用実績:
39例中7例(17.9%)に副作用が認められ、投与回数当たりの発生頻度は8.9%でした。発熱、悪寒、嘔気等の副作用が主に報告されています。

 

小児免疫性血小板減少症における特別な配慮事項

小児の免疫性血小板減少症治療では、成人とは異なる治療目標と配慮が必要です。2022年の日本小児血液・がん学会ガイドラインでは、以下の点が強調されています。

 

治療目標の相違:

  • 血小板数の増加が目的ではない
  • 重症出血の防止が最優先
  • 治療に伴う副作用の最小化
  • 健康関連生活の質(HRQoL)の維持

ファーストライン治療の選択:

  • 副腎皮質ステロイドとIVIGを同程度に推奨
  • 患者の状況に応じた個別化治療
  • 家族への十分な説明と同意

セカンドライン治療:

特殊な状況での管理:

  • ワクチン接種後のITP発症例
  • Helicobacter pylori除菌の評価
  • 脾臓摘出後の感染管理
  • 副腎皮質ステロイドとリツキシマブ投与時のワクチン適応
  • ITP合併妊婦から出生した新生児の管理

生活管理のポイント:

  • 接触スポーツの制限
  • 外傷リスクの回避
  • 感染予防策の徹底
  • 定期的な血小板数モニタリング

小児では成人に比べて自然寛解率が高いため、慎重な経過観察も重要な治療選択肢となります。出血症状が軽微または無症状の場合、積極的な治療介入よりも定期的な経過観察を選択することも多くあります。

 

緊急時の対応:
重症出血時には、血小板輸血、IVIG、メチルプレドニゾロンパルス療法などの緊急治療を迅速に実施する必要があります。特に頭蓋内出血や消化管出血などの生命に関わる出血では、血小板数20,000/μL以上を目標とした積極的な治療が推奨されます。

 

日本小児血液・がん学会の2022年小児免疫性血小板減少症診療ガイドライン
原三信病院による特発性血小板減少性紫斑病の詳細な疾患ガイド