鎮静薬の種類と一覧:医療現場での適切な選択と使用法

医療現場で使用される鎮静薬には多くの種類があり、それぞれ異なる特徴と適応があります。ベンゾジアゼピン系からプロポフォール、デクスメデトミジンまで、各薬剤の特性を理解していますか?

鎮静薬の種類と一覧

鎮静薬の基本分類
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ベンゾジアゼピン系

GABA-A受容体に作用し、鎮静・抗不安・健忘作用を発揮

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非ベンゾジアゼピン系

プロポフォール、デクスメデトミジンなど調節性に優れた薬剤

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特殊用途薬剤

ケタミンやバルビツレート系など特定の場面で使用

ベンゾジアゼピン系鎮静薬の特徴と種類

ベンゾジアゼピン系鎮静薬は、γアミノ酪酸(GABA)A受容体に存在するベンゾジアゼピン受容体を介して効果を発現します。この系統の薬剤は鎮静、抗不安、健忘、抗痙攣、筋弛緩作用を有し、医療現場で広く使用されています。

 

主要なベンゾジアゼピン系鎮静薬の一覧:

  • ミダゾラム(ドルミカム®)
  • 短時間作用型で水溶性
  • 拮抗薬(フルマゼニル)が存在
  • 前向性健忘作用あり
  • 投与時の痛みが少ない
  • ジアゼパム
  • 長時間作用型
  • 筋弛緩作用が強い
  • 血管痛のリスクあり
  • フルニトラゼパム
  • 強力な催眠作用
  • 前行性健忘のリスク
  • 依存性に注意が必要

ミダゾラムは現在も頻用される薬剤で、局所組織に及ぼす傷害作用がきわめて少ないことが既存のベンゾジアゼピン系注射薬に比べて大きな利点となっています。効能として麻酔前投薬、全身麻酔の導入および維持、集中治療における人工呼吸中の鎮静、歯科・口腔外科領域における手術および処置時の鎮静が承認されています。

 

ただし、48~72時間以上の持続投与が行われた場合、蓄積した代謝産物や脂肪組織から血中への移行により、中止後も鎮静効果が遷延することがあります。また、長期投与後の突然の中止で離脱症候群を引き起こすリスクがあるため、慎重な管理が必要です。

 

非ベンゾジアゼピン系鎮静薬の一覧

PADガイドラインでは、ICU入室期間やせん妄のリスク因子を考慮し、ベンゾジアゼピン系薬剤より非ベンゾジアゼピン系薬剤の使用を推奨しています。

 

プロポフォール
プロポフォールは日本集中治療医学会の調査で、国内のICUにおける鎮静薬使用頻度が最多の53%を占めています。主な特徴は以下の通りです。

  • 作用発現がすみやか
  • 鎮静レベルの調節性が良好
  • 脂肪製剤のため12時間ごとの注入ライン交換が必要
  • 使用量:0.3~3.0mg/kg/時
  • 強力な鎮静作用を有する静脈麻酔薬

副作用として呼吸抑制、循環抑制(徐脈、低血圧)、血管痛などが報告されています。

 

デクスメデトミジン(プレセデックス®)
デクスメデトミジンは α2アドレナリン受容体作動薬で、使用頻度は19%となっています。

  • 鎮痛・鎮静作用を併せ持つ
  • 自然な睡眠に近い状態を維持
  • 刺激を与えると容易に覚醒し反応する
  • 使用量:0.2~0.7μg/kg/時
  • 交感神経抑制作用

副作用として血圧低下、徐脈、冠動脈痙攣などが挙げられます。特に循環器系の副作用に注意が必要です。

 

ケタミン塩酸塩
ケタミンは解離性麻酔薬として分類され、特殊な作用機序を持ちます。

  • NMDA受容体拮抗作用
  • 鎮静と鎮痛の両作用
  • 呼吸抑制が少ない
  • 循環動態への影響が軽微

ICUで使用される鎮静薬の選択基準

ICUにおける鎮静薬選択は、患者の病態、治療期間、合併症のリスクを総合的に評価して決定します。日本集中治療医学会の調査データを基に、使用頻度と選択理由を分析すると以下のような傾向があります。

 

短期鎮静(24時間未満)での選択基準:

  • プロポフォール第一選択
  • 作用発現が早い(1-2分)
  • 半減期が短く調節性良好
  • 覚醒が早い
  • デクスメデトミジン併用考慮
  • せん妄予防効果
  • 自発呼吸温存
  • 協調性の維持

長期鎮静(72時間以上)での注意点:

  • ミダゾラムの長期使用リスク
  • 代謝産物の蓄積
  • 離脱症候群のリスク
  • せん妄発症率の増加
  • プロポフォールの長期使用制限
  • プロポフォール症候群のリスク
  • 脂質負荷の問題
  • 感染リスクの増加

特殊病態での選択:

  • 腎機能障害患者:代謝経路を考慮した薬剤選択
  • 肝機能障害患者:薬物動態の変化に注意
  • 高齢者:薬剤感受性の増加を考慮

ICUの重症患者では、腎機能障害や肝機能障害により鎮静効果が遷延する場合があるため、ウィーニング時には特に注意が必要です。

 

内視鏡検査における鎮静薬の使い分け

内視鏡検査での鎮静薬使用は、検査の種類、患者の状態、施設の体制により選択が異なります。胃カメラや大腸内視鏡で用いられる鎮静薬・鎮痛薬の種類と特徴を詳しく解説します。

 

催眠鎮静薬の使い分け:

  • ミダゾラム
  • 催眠作用、鎮静作用、抗不安作用、健忘作用
  • 副作用:嘔気、嘔吐、呼吸異常、血圧低下
  • 短時間検査に適している
  • ジアゼパム
  • 筋弛緩作用が強い
  • 副作用:血栓性静脈炎、血管痛
  • 作用時間が長い
  • フルニトラゼパム
  • 強力な催眠作用
  • 副作用:前行性健忘、過鎮静
  • 深い鎮静が必要な場合

鎮痛薬の選択:

  • ペチジン塩酸塩
  • 中枢性鎮静作用と鎮痛作用
  • 比較的安全性が高い
  • 多くの施設で第一選択
  • フェンタニル
  • 強力な鎮痛作用
  • 副作用:呼吸抑制、筋硬直
  • 慎重な用量調節が必要
  • ペンタゾシン
  • 拮抗性鎮痛薬
  • 副作用:血圧上昇、心拍数上昇
  • 特殊な症例で使用

プロポフォールの内視鏡での使用:
強力な鎮静作用を持つプロポフォールは、より深い鎮静が必要な症例で使用されますが、呼吸抑制と循環抑制のリスクがあるため、十分な監視体制が必要です。

 

内視鏡検査後の制限事項として、鎮痛薬使用後は通常1日間の自動車運転制限があります。これは薬剤の半減期と個体差を考慮した安全対策です。

 

鎮静薬投与時の安全管理と注意点

鎮静薬の安全な使用には、薬剤特性の理解と適切な監視体制が不可欠です。患者の鎮静深度、呼吸循環をはじめとしたバイタルサイン、呼吸状態を適宜評価し、「用量滴定」という投与概念が大切となります。

 

共通する重要な副作用と対策:

  • 呼吸抑制
  • 最も注意すべき副作用
  • パルスオキシメーターによる持続監視
  • 拮抗薬の準備(ナロキサン、フルマゼニル)
  • 用量滴定による慎重な投与
  • 循環抑制
  • 血圧低下、徐脈
  • 心電図監視と血圧測定
  • 輸液負荷や昇圧薬の準備
  • 高齢者や心疾患患者で特に注意
  • 薬剤特異的リスク
  • アナフィラキシーショック
  • 血管痛や血栓性静脈炎
  • 薬剤耐性や依存性

個体差への対応:
鎮静薬に対する反応には大きな個体差があります。年齢、体重、肝腎機能、併用薬剤、患者の身体状況により効果と副作用の程度が大きく異なるため、画一的な投与は危険です。

 

用量滴定の原則:

  • 最小有効量から開始
  • 効果と副作用を継続的に評価
  • 段階的な増量
  • 適切な鎮静レベルでの維持

スタッフの役割分担:
マンパワーの制約から、処置を行う担当医師以外の看護師、後期研修医、初期臨床研修医が鎮静を担当する現状があります。しかし、鎮静薬の使用には専門的な知識と経験が必要であり、適切な教育と訓練が不可欠です。

 

緊急時対応の準備:

  • 気道確保器具の準備
  • 拮抗薬の即座使用可能な準備
  • 蘇生薬剤と器具の整備
  • 緊急時対応プロトコールの整備

鎮静薬の適切な選択と安全な使用により、患者の苦痛を軽減し、医療行為を円滑に実施することが可能になります。しかし、その使用には常にリスクが伴うため、十分な知識と準備をもって臨むことが医療従事者の責務です。

 

日本麻酔科学会による医薬品ガイドライン
https://anesth.or.jp/users/person/guide_line/medicine
人工呼吸ケアにおける鎮静薬の詳細情報
https://www.kango-roo.com/learning/4361/