レセルピンの最も注目すべき副作用は抑うつ状態です。レセルピンは小胞モノアミン輸送体(VMAT)を阻害することで、シナプス小胞へのノルアドレナリン、セロトニン、ドーパミンなどの神経伝達物質の取り込みを抑制します。その結果、これらのモノアミンがシナプス小胞内で枯渇し、神経終末における神経伝達物質が減少することで、抑うつ症状が引き起こされると考えられています。
実際には、レセルピンによるうつ病誘発作用については疑問視する声もあります。精神科医以外の医師による観察では66%がうつ病と報告されましたが、DSM診断基準に照らし合わせて再評価すると、実際にうつ病とされたのは20%程度でした。また、アカシジア(静座不能)などの錐体外路症状がうつ病と誤診されていたケースも多く報告されています。
厚生労働省の重篤副作用疾患別対応マニュアルでは、レセルピンはβ遮断薬やカルシウム拮抗薬とともに、薬剤惹起性うつ病を引き起こす可能性のある降圧薬として記載されています。
レセルピンは中枢神経系のドーパミンも枯渇させるため、パーキンソン症候群などの錐体外路症状を引き起こします。具体的な症状には以下のようなものがあります。
📌 振戦(震え):安静時に手足が震える症状
📌 固縮(筋硬直):筋肉が硬くなり、関節の動きが制限される
📌 無動(運動緩慢):動作の開始が遅くなり、全体的に動きが鈍くなる
📌 仮面様顔貌:表情が乏しくなる
📌 姿勢反射障害:バランスを保つことが困難になる
これらの症状は、脳の錐体外路系という運動調節システムにおけるドーパミンの減少によって発現します。黒質と呼ばれる領域でドーパミンを産生する神経細胞の機能が抑制されることで、運動制御の障害が生じるのです。
適切な量で用いない場合はパーキンソン症候群などの副作用のリスクが高まるため、少量から開始し、投薬後の患者の状態に十分注意する必要があります。
レセルピンは交感神経系の活動を抑制するため、副交感神経の活動が相対的に優位となります。その結果、以下のような消化器系の副作用が発現します。
🔸 胃腸蠕動運動の亢進:腸の動きが活発になりすぎる
🔸 胃酸分泌の増大:胃酸が過剰に分泌される
🔸 消化性潰瘍の悪化:胃潰瘍や十二指腸潰瘍が増悪する可能性
このため、レセルピンは消化性潰瘍や潰瘍性大腸炎の患者には禁忌とされています。レセルピンの添付文書では「本剤に含まれるレセルピンは交感神経系の活動を抑制するため、副交感神経の活動が優位となって胃腸の蠕動運動は亢進し、胃酸分泌も増大するので症状が悪化するおそれがある」と明記されています。
消化器症状が出現した場合は、速やかに投与を中止し、適切な潰瘍治療を行う必要があります。予防的にプロトンポンプ阻害薬(PPI)やH2ブロッカーなどの胃酸分泌抑制薬の併用を検討することも重要です。
レセルピンは降圧薬として使用されますが、心血管系にも様々な副作用を引き起こす可能性があります。
💓 徐脈:心拍数の減少
💓 心拡大・心不全:心臓の拡大や心機能の悪化
💓 起立性低血圧:立ち上がった際の血圧低下によるめまいや失神
💓 房室ブロック:心臓の電気伝導障害
💓 末梢性虚血:レイノー様症状など末梢循環障害
特に高齢者では、起立性低血圧による立ちくらみ、めまい、失神などを起こすことがあり、転倒のリスクが高まります。また、急激な利尿は急速な血漿量の減少と血液濃縮をきたし、脳梗塞などの血栓塞栓症を誘発するおそれもあります。
レセルピンは標的組織へ分布してから消失するまでの時間が短いにもかかわらず、効果が長く続くという特徴があり、これを「ひき逃げ効果」と呼びます。このため、副作用が出現した場合でも、薬剤を中止してから症状が改善するまでに時間がかかることがあります。
レセルピンには以下のような禁忌事項があります。
⚠️ うつ病・うつ状態及びその既往歴のある患者(特に自殺傾向のあるもの)
⚠️ 消化性潰瘍、潰瘍性大腸炎の患者
⚠️ 電気ショック療法を受けている患者
⚠️ テトラベナジンを投与中の患者
⚠️ 妊娠初期または妊娠している可能性のある女性
レセルピンの動物実験(ラット)で催奇形作用が報告されているため、妊婦への投与は禁忌とされています。また、母乳中へも移行するため、授乳婦への投与も避けるべきです。
独自の視点:適用外使用の可能性
興味深いことに、レセルピンには適用外ではあるものの、抗ヒスタミン薬やステロイドでも改善しない蕁麻疹の重症例に対して効果があるという報告があります。これは肥満細胞内のセロトニンを枯渇させるためではないかと考えられています。このように、レセルピンの強力な作用を活かした治療法も存在しますが、厳密な患者選択と慎重な経過観察が必要です。
現在、レセルピンは副作用「重篤なうつ状態の出現」があるため、臨床で処方されることがほとんどなくなっています。実際、アポプロン錠・散(第一三共株式会社)は2019年3月をもって販売中止となりました。
厚生労働省「重篤副作用疾患別対応マニュアル 薬剤惹起性うつ病」では、レセルピンを含む降圧薬によるうつ病の早期発見・早期対応について詳細な情報が記載されています
レセルピンの作用機序や歴史的背景については、Wikipediaの解説が参考になります