実は、キシロカインゼリー30mLを全量使うとリドカイン600mgになり、知らずに使い切ると中毒量を超えます。
リグノカイン塩酸塩(一般名:リドカイン塩酸塩)は、神経膜の電位依存性ナトリウムチャネルをブロックし、活動電位の伝導を可逆的に抑制することで局所麻酔作用を発揮します 。この作用機序は、知覚神経だけでなく運動神経にも及びます 。 kegg(https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00000126)
多くの医療従事者にとって「局所麻酔薬」というイメージが強い薬剤ですが、実はクラスⅠbの抗不整脈薬としても幅広く使用されています 。抗不整脈用途では心筋細胞のNa⁺チャネルを抑制し、心室性期外収縮や心室頻拍の治療に静脈内投与で使われます 。 mhlw-grants.niph.go(https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2003/000270/200301088A/200301088A0003.pdf)
つまり、同じリグノカイン塩酸塩が「局所麻酔」にも「抗不整脈」にも使えるわけです。
二重の適応を持つことで、投与経路・濃度・用量が使用目的によって大きく変わります。投与前に必ず「何のために使うか」を確認することが前提です。
anesth.or(https://anesth.or.jp/img/upload/ckeditor/files/2410_05_400_5.pdf)
プロカインと比較すると、リグノカイン塩酸塩は表面・浸潤・伝達麻酔効果がより強く、作用持続時間も長いことが特徴です 。これが臨床でこれほど広く使われる理由のひとつです。 anesth.or(https://anesth.or.jp/files/pdf/local_anesthetic_20190905.pdf)
投与量の管理が、安全使用の核心です。
リグノカイン塩酸塩には「極量」という概念があります。アドレナリン非含有液では3 mg/kg、アドレナリン含有液では7 mg/kgを超えないことが推奨されています 。体重60 kgの成人であれば、アドレナリン非含有で最大180 mg、アドレナリン含有で最大420 mgが目安です。 mhlw.go(https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11121000-Iyakushokuhinkyoku-Soumuka/24-4-3.pdf)
| 製剤種類 | 最大推奨用量(目安) | 備考 |
|---|---|---|
| アドレナリン非含有液 | 3 mg/kg(体重60 kgで約180 mg) | 濃度・用途に応じて調整 |
| アドレナリン含有液 | 7 mg/kg(体重60 kgで約420 mg) | 血管収縮で吸収遅延 |
| 産科への傍頸管ブロック | 90分あたり最高200 mg | 胎児徐脈リスクあり |
ここで注意すべきなのが「極量まで使えるわけではない」という点です 。極量は「これ以上は危険」という限界値であり、治療目標用量ではありません。また、複数の局所麻酔薬を併用する場合、それぞれの極量まで使えるのではなく、総投与量として管理する必要があります 。 nms-anesthesiology(https://nms-anesthesiology.jp/wp/wp-content/uploads/2023/06/2023%E5%B1%80%E6%89%80%E9%BA%BB%E9%85%94%E8%96%AC%E4%B8%AD%E6%AF%92-2nd.pdf)
外用薬にも同様の注意が必要ですね。キシロカインゼリーは1本30 mLで、全量を使用するとリドカイン600 mgに達します 。これは添付文書上の上限である100 mgを大幅に超えるため、口腔・咽頭処置などで使用する場合は使用量を意識的に管理する必要があります。 min-iren.gr(https://www.min-iren.gr.jp/news-press/shinbun/20130218_16342.html)
min-iren.gr(https://www.min-iren.gr.jp/news-press/shinbun/20130218_16342.html)
min-iren.gr(https://www.min-iren.gr.jp/news-press/shinbun/20130218_16342.html)
mhlw.go(https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11121000-Iyakushokuhinkyoku-Soumuka/24-4-3.pdf)
副作用発現率が用量に比例するという事実は、実臨床での「少し多めに使っても大丈夫」という油断を排除する根拠になります。これが原則です。
局所麻酔薬中毒は、血中濃度の上昇に応じて段階的に症状が現れます。
血中濃度の安全域は3 μg/mLとされており、5 μg/mL以上で中枢神経症状が、10 μg/mL以上になると痙攣などの重篤な症状が発現します 。安全域と中毒域の差がわずかであることが、この薬剤の難しさです。 min-iren.gr(https://www.min-iren.gr.jp/news-press/shinbun/20130218_16342.html)
fuelcells(https://fuelcells.org/topics/80799/)
pins.japic.or(https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00051126.pdf)
口や舌のしびれは麻酔部位以外に生じるしびれであり、最も多い初期症状です 。この症状が麻酔施行中・施行後に患者から訴えられた場合、中毒の可能性を真っ先に疑うべきです。 fuelcells(https://fuelcells.org/topics/80799/)
対応としては、①投与を即時中止、②気道確保・酸素投与、③静脈路確保、④痙攣が続く場合はベンゾジアゼピン系薬の投与、⑤心停止・心室細動には心肺蘇生・AEDを実施します。
局所麻酔薬中毒の解毒・治療に脂肪乳剤(イントラリポス等)静脈内投与が有効とされています。これは脂溶性の高いリドカインを血中で「脂質相」に取り込み、心筋・神経への移行を減らす「脂質救済療法(Lipid Rescue)」として、特に心毒性の高い症例で使用されます。
日本医科大学麻酔科:局所麻酔薬中毒の対応指針(極量・症状・対応フローを網羅)
禁忌と慎重投与の区別が、安全な投与判断の基本です。
抗不整脈用途での禁忌は、重篤な刺激伝導障害(完全房室ブロック等)のある患者です。心停止を起こすおそれがあるため、投与前の心電図確認は必須です 。 pins.japic.or(https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00051126.pdf)
| 患者背景 | リスク内容 | 対応 |
|---|---|---|
| 完全房室ブロック | 禁忌・心停止リスク | 投与しない |
| 重篤な肝機能障害 | 消失半減期が健常人の約3倍に延長 | 減量・慎重投与 |
| 重篤な腎機能障害 | 中毒症状が発現しやすくなる | 減量・観察強化 |
| 心不全・循環血液量減少 | 心停止リスク | 慎重投与 |
| 妊婦(後期)・産科患者 | 仰臥位性低血圧・麻酔範囲拡大 | 体位管理・減量検討 |
肝機能低下患者での消失半減期延長は特に見落とされやすいポイントです。約3倍に延長するという数字が示すように、肝硬変や重篤な肝疾患のある患者では同じ用量でも血中濃度が積み上がりやすくなります 。 pins.japic.or(https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00052270.pdf)
薬物相互作用にも注意が必要です。βブロッカー(メトプロロール、プロプラノロール、ナドロールなど)との併用でリドカインの血中濃度が上昇することが報告されており、用量調整が必要になる場面があります 。また、セントジョーンズワート(西洋オトギリソウ)含有食品はリドカインの代謝を促進し、血中濃度を低下させる可能性があります 。 pins.japic.or(https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00051126.pdf)
これは使えそうですね。術前問診でサプリメント・健康食品の使用確認も抜け漏れなく行うことが求められます。
製剤の種類が多い薬剤だからこそ、取り違えに注意が必要です。
リグノカイン塩酸塩は濃度・剤形・用途によって複数の製剤に分かれます。代表的なものを整理すると以下のとおりです。
kegg(https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00000126)
kegg(https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00000332)
carenet(https://www.carenet.com/drugs/category/local-anesthetics/1214001S1062)
min-iren.gr(https://www.min-iren.gr.jp/news-press/shinbun/20130218_16342.html)
特に「アドレナリン含有製剤」と「非含有製剤」の取り違えは、禁忌部位への投与(指・耳・鼻など末梢部位)につながる危険性があります。末梢循環が乏しい部位にアドレナリンが入ると壊死リスクが上がるため、製剤選択は用途と部位に対して必ず確認が必要です。
配合の問題も現場で起きやすいミスのひとつです。リドカイン塩酸塩はアルカリ性注射液(炭酸水素ナトリウム液など)と混合すると、リドカインが析出してしまいます 。溶液が白濁・沈殿しているのに気づかずに投与してしまうケースを防ぐため、配合前確認を徹底することが重要です。 pins.japic.or(https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00051126.pdf)
配合禁忌を知っておけば大丈夫です。
経口製剤の投与方法にも細かなルールがあります。口腔内麻酔を目的とする場合は「嚥下させずに口腔内に広げるだけにとどめる」、一方で胃部麻酔を目的とする場合は「速やかに嚥下させ、コップ半分の水で洗い落とす」という全く逆の指示になります 。目的によって指導内容が反転するため、患者への説明前に目的の再確認が必須です。 carenet(https://www.carenet.com/drugs/category/local-anesthetics/1214001S1062)
JAPIC添付文書情報(リドカイン注射液2%):禁忌・配合禁忌・相互作用を詳細に収載
全日本民医連・副作用モニター情報:外用薬を含むリドカイン中毒の実例と予防策