骨粗鬆症と診断された患者が整形外科で治療を受けた後、1年以内に77.6%が未治療に戻ります。
兵庫県は骨折リスクが高い地域です。端的に言えば、40歳以上の女性の大腿骨近位部骨折(太ももの付け根の骨折)発生率は全国1位(全国平均の120%)、男性でも全国5位と報告されています(2015年の全国調査データ)。神戸市はその兵庫県の中心都市ですから、骨粗鬆症外来を担う医療従事者の責務は他の地域より重くなります。
大腿骨近位部骨折は「予後不良の骨折」として知られています。骨折後1年で20〜25%の患者が死亡し、5年生存率は約50%にとどまるとの報告があります。これは肺がんや大腸がんと比較しても遜色のない深刻な数字です。さらに、骨粗鬆症による脆弱性骨折は「骨折の連鎖」を引き起こすことが知られており、一度骨折した部位以外でも再骨折リスクが約2倍に高まります。
現在の日本における骨粗鬆症の推計患者数は1,280万人、つまり国民の約10人に1人です。しかし実際に治療を受けているのはそのうち15〜20%程度にすぎません。骨折後であっても治療率はわずか22.4%にとどまり、残る77.6%は未治療のまま退院後を過ごすというデータが2025年12月の研究で明らかになっています。
つまり、骨粗鬆症の課題は「診断後の治療開始率」と「開始した治療の継続率」という2段階のギャップにあります。神戸・兵庫の医療従事者にとって、骨粗鬆症外来の意義を再認識することが、地域の超高齢社会対策の核心となります。
参考:兵庫県の骨折発生率と地域の骨粗鬆症対策の取り組みについて
あなたの骨、大丈夫?−兵庫県は全国トップの骨折リスク!|かつらぎ整形外科
骨粗鬆症の診断において、まず知っておくべきは「測定方法の違いが診断精度を大きく左右する」という事実です。健診や一部クリニックで広く使われている踵骨超音波法(QUS法)は簡便・被ばくゼロという利点がありますが、誤差が大きく、骨粗鬆症の確定診断には使用できません。これは原則です。
現行の骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン(2025年版)では、診断基準に用いる骨密度は腰椎または大腿骨のDXA法で測定したYAM値(若年成人平均値)が基本とされています。判定基準は以下のとおりです。
| 判定 | YAM値の目安 | Tスコア |
|---|---|---|
| 正常 | 80%以上 | −1.0以上 |
| 骨量減少(注意) | 70〜80%未満 | −1.0〜−2.5 |
| 骨粗鬆症 | 70%未満 | −2.5以下 |
ただし、骨密度の数値だけで診断が完結するわけではありません。脊椎か大腿骨近位部の脆弱性骨折既往がある場合は、骨密度にかかわらず骨粗鬆症と診断されます。また、それ以外の部位に脆弱性骨折があり、YAMが80%未満の場合も骨粗鬆症の診断が下ります。つまり「骨折歴+骨密度+骨代謝マーカー」を組み合わせた総合評価が診断の原則です。
骨代謝マーカーの活用も見落とせないポイントです。骨形成マーカー(PINP、BAP等)と骨吸収マーカー(NTX、CTX等)を測定することで、骨代謝回転の状態を把握し、薬剤選択や治療効果のモニタリングに役立てることができます。また、糖尿病・慢性腎疾患・COPD等の生活習慣病を持つ患者では、骨密度が正常範囲内でも骨コラーゲンの変性(骨質劣化)により骨折リスクが高いことが明らかになっています。これは意外ですね。
神戸市内の骨粗鬆症外来を持つ施設(神戸海星病院、神戸大学医学部附属病院、神戸労災病院、そうえん整形外科・骨粗鬆症クリニック等)では、DXA法の骨密度測定装置を導入しており、腰椎と大腿骨を同時評価できる体制が整っています。
参考:骨粗鬆症の診断基準・検査方法の詳細ガイダンス
骨粗鬆症外来 | 神戸海星病院(診断・検査・治療の概要)
骨粗鬆症の薬物療法は、この10年で選択肢が大きく広がりました。2025年7月に10年ぶりに改訂された「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2025年版」では、骨折リスクに応じた初期治療薬の選択が明確化されました。結論は「リスク層別化に基づくテーラーメード治療」です。
主要な薬物は以下に分類されます。
BP製剤(アレンドロネート、リセドロネート等)は依然として第一選択薬の位置づけです。費用対効果が高く、長期安全性データが豊富で、服用中止後も一定期間効果が持続するという特性があります。
一方、重症骨粗鬆症(Tスコアが−3.0以下または既存骨折が複数ある等)では、骨形成促進薬であるテリパラチドやロモソズマブからの「シーケンシャル療法(sequential therapy)」が推奨されています。骨形成促進薬で骨密度を大きく上昇させた後、骨吸収抑制薬に切り替えて効果を維持するという流れです。これは使えそうです。
デノスマブ(6ヶ月1回皮下注射)は強力な骨吸収抑制効果を持ちますが、投与を突然中断すると「リバウンド現象」と呼ばれる急速な骨密度低下と多発椎体骨折のリスクがあります。治療継続性の確保が特に重要な薬剤です。また、BP製剤・デノスマブともに、ごくまれに顎骨壊死(MRONJ)のリスクがあるため、歯科処置との連携も欠かせません。
薬剤選択の際に考慮すべき主なポイントを整理します。
参考:2025年版ガイドライン改訂のポイントと薬物選択の最新情報
10年ぶりに骨粗鬆症の予防と治療ガイドラインが改訂されました|いとう整形外科・ペインクリニック
骨粗鬆症治療の最大の問題点の一つは、「治療が始まっても続かない」ことです。大腿骨近位部骨折後に骨粗鬆症治療が開始されたとしても、1年後の治療継続率は45.2%。半数以上は1年以内に治療を中断しています。さらに治療開始率自体が4〜8%と報告されているケースもあり、そもそも骨折後に骨粗鬆症治療が開始されない問題も深刻です。
こうした現状に対して有効とされているのが、FLS(骨折リエゾンサービス:Fracture Liaison Service)です。FLSは1990年代に英国で発祥した多職種連携の仕組みで、脆弱性骨折を経験した患者を対象に医師・看護師・薬剤師・理学療法士・管理栄養士が連携し、骨粗鬆症の治療開始・継続・転倒予防を継続的に支援するものです。
兵庫県・神戸エリアでも、赤穂市民病院などでFLSチームが構築されており、退院後の治療継続率向上に成果を上げています。重要な点は、FLSが「急性期病院だけの取り組み」ではなく、地域のクリニック・薬局・リハビリ施設と連携する「地域完結型」の仕組みであることです。
OLS(骨粗鬆症リエゾンサービス)はFLSよりも広い概念で、骨折していない骨粗鬆症患者も対象に含めます。二つの仕組みは補完的な関係にあります。
神戸市内の骨粗鬆症外来においても、以下のような多職種連携の視点が重要です。
治療継続率の低さは、患者側の問題というよりシステムの問題です。医療従事者が仕組みを作ることで解決できます。
参考:FLSの概念・実装方法・効果についての詳細
骨粗鬆症リエゾンサービス(FLS)とは|日本骨粗鬆症学会 医療従事者向け解説
骨粗鬆症は整形外科・産婦人科の疾患という認識が根強く残っています。しかしこれは、骨粗鬆症を患者数1,280万人の課題として正確に把握できない原因にもなっています。神戸市内では川崎病院の骨粗鬆症外来が循環器内科医師によって担当されており、この特異な体制には科学的根拠があります。
「骨・血管連関(Bone-Vascular Axis)」という概念はまだ一般的な知名度は低いですが、現場の医療従事者には知っておいていただきたい重要な視点です。骨からカルシウムが溶け出すことで血管に沈着・石灰化が生じるという現象は、半世紀前に「カルシウム・パラドックス」として報告されています。そしてこの血管石灰化は、心臓カテーテル治療(PCI)や末梢血管治療(EVT)の成功率を大きく下げることが知られています。
さらに注目すべきデータがあります。骨粗鬆症があると心血管疾患の発症リスクが3.5倍になるという報告です。これは高血圧症(2.6倍)や脂質異常症(1.9倍)より高い数値です。逆に、心不全があると骨折リスクが6倍になるという報告もあります。
糖尿病との関係も見逃せません。骨密度が正常範囲内であっても、糖尿病患者は骨コラーゲンの終末糖化産物(AGEs)による「骨質劣化」が進んでいるため骨折リスクが高くなります。これが条件です。つまり、内科系・循環器系のかかりつけ医が骨粗鬆症スクリーニングに積極的に関与することが、地域の骨折予防に大きく貢献します。
欧米では家庭医・一般内科医が骨粗鬆症を管理することが定着しており、骨折発生数の減少が確認されています。日本でも2025年版ガイドラインや日本医師会のかかりつけ医向け研修で、内科医が骨粗鬆症に積極的に介入するよう明確に推奨されています。神戸で骨粗鬆症外来を充実させるには、診療科の垣根を越えた連携が欠かせません。
男性の骨粗鬆症患者が見落とされやすい点もここに関連します。推計1,280万人の骨粗鬆症患者のうち約300万人が男性(全体の約4分の1)です。プロトンポンプ阻害薬、ステロイド薬、抗てんかん薬などの長期使用者や、前立腺がんのホルモン療法中患者なども骨折リスクが高く、内科・泌尿器科・腫瘍科からの骨粗鬆症外来への紹介連携が求められます。
参考:神戸の骨粗鬆症外来と循環器疾患の関係についての解説
骨粗鬆症外来(循環器内科担当)|川崎病院(神戸市)