慢性副鼻腔炎は90日を超えて持続する副鼻腔の炎症性疾患であり、明確な診断基準の理解が適切な治療選択につながります。
主要症状として以下の4つが挙げられます。
さらに、後鼻漏(鼻汁がのどに落ちる症状)により咳や痰が誘発されることも多く、患者によっては副鼻腔炎の存在に気づかずに呼吸器症状のみを訴えることがあります。
診断においては、症状の持続期間が重要な指標となります。急性(30日未満)、亜急性(30-90日)、慢性(90日超)の分類に加え、年4回以上の急性エピソードを繰り返す再発性副鼻腔炎の概念も重要です。
CT検査では副鼻腔の陰影や粘膜肥厚が確認され、内視鏡検査により鼻茸の有無や炎症の程度を評価します。特に鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎では、IL-5などの炎症性サイトカインの関与が明らかになっており、病態理解と治療選択に重要な知見となっています。
慢性副鼻腔炎における抗菌薬治療は、急性増悪時と維持療法で異なるアプローチが必要です。
急性増悪時の抗菌薬選択
膿性鼻汁の増加や症状の急性増悪を認める場合、以下の抗菌薬が推奨されます。
投与期間は5-7日間が標準的ですが、症状の改善度により調整が必要です。
抗菌薬適応の判断基準
Infectious Diseases Society of Americaの提唱する抗菌薬開始基準は以下の通りです。
これらの基準により、不必要な抗菌薬投与を避けながら適切な治療介入が可能となります。
薬剤耐性対策
近年の薬剤耐性菌増加を背景に、培養検査に基づく適切な抗菌薬選択がより重要となっています。特に治療抵抗例では、起炎菌の同定と薬剤感受性検査の実施を検討する必要があります。
マクロライド系抗生物質の長期少量投与は、慢性副鼻腔炎治療の中核を成す治療法です。
作用機序と効果
マクロライド系抗生物質(主にクラリスロマイシン)の慢性副鼻腔炎に対する効果は、従来の抗菌作用ではなく、以下の多面的作用によるものです。
投与方法と期間
標準的な投与方法は以下の通りです。
特に鼻茸を伴わない副鼻腔炎において高い有効性が報告されており、第一選択治療として位置づけられています。
副作用と注意点
長期投与時の主な注意点。
投与開始前に心電図検査を実施し、定期的な肝機能検査により安全性を確保することが重要です。
保存的治療に抵抗する慢性副鼻腔炎に対しては、手術療法が重要な選択肢となります。
手術適応の判断
以下の条件を満たす場合に手術適応を検討します。
内視鏡下副鼻腔手術(ESS)
現在の標準的手術法は内視鏡下副鼻腔手術(Endoscopic Sinus Surgery: ESS)です。
術後管理では定期的な内視鏡クリーニングと薬物療法の継続が重要です。
生物学的製剤治療
鼻茸を伴う重症例に対する新しい治療選択肢として、生物学的製剤が注目されています。
IL-5は鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎患者の最大85%で検出される重要なサイトカインであり、生物学的製剤による分子標的治療は今後の治療戦略を大きく変える可能性があります。
慢性副鼻腔炎の治療成功には、患者の理解と服薬継続が不可欠です。効果的な服薬指導のポイントを整理します。
治療期間の説明
慢性副鼻腔炎の治療は長期間を要することを丁寧に説明する必要があります。
セルフケアの重要性
薬物療法と併用することで治療効果を高めるセルフケア方法。
市販薬との併用指導
患者が市販薬を使用する場合の注意点。
症状悪化時の対応
以下の症状出現時は速やかな受診を指導します。
これらは副鼻腔炎の合併症を示唆する可能性があり、早期の医療介入が必要です。
服薬継続のための工夫
長期治療における患者のアドヒアランス向上策。
慢性副鼻腔炎は適切な診断と治療選択により、多くの症例で良好な予後が期待できる疾患です。患者個々の病態に応じた薬物療法の選択と、継続的な患者指導により、症状改善と生活の質向上を目指すことが重要です。
参考:日本鼻科学会による急性副鼻腔炎診療ガイドライン
https://www.jrs.or.jp/