成人における体液量は体重の約60%を占め、その内訳は細胞内液が40%、細胞外液が20%となっています。この比率は臨床現場で体液管理を行う上での基本となる重要な数値です。例えば体重60kgの成人男性であれば、総体液量は36L、細胞内液が24L、細胞外液が12Lという計算になります。
参考)体液の量はどれくらい?|体液の成分と働き
細胞外液の20%という割合は、細胞内液の40%と比較すると1:2の比率であり、この関係性は体液恒常性の維持において重要な意味を持ちます。細胞外液が減少した際には、細胞内液がリザーバーとして細胞外へ移動し、循環血液量を補う役割を果たすためです。
参考)輸液の基礎知識
体液量には個人差があり、性別や年齢によって変動します。成人女性では脂肪組織の割合が高いため体重の約55%が体液となり、新生児では体重の約70〜80%、高齢者では50〜55%程度に減少します。
参考)生理学・生化学につながる ていねいな生物学 - 羊土社
体液量と細胞内外の分布に関する詳細な解説(看護roo!)
細胞外液の20%は、さらに間質液(組織間液)と血漿に分けられ、その比率は3:1となっています。具体的には、体重の15%が間質液、5%が血漿という内訳です。この8:3:1(細胞内液:間質液:血漿)という比率は、輸液療法を実施する際に必ず覚えておくべき重要な数値とされています。
参考)体液の分布と浸透圧|生理食塩水と5%ブドウ糖液など|血漿浸透…
間質液は細胞と細胞の間を満たす液体で、細胞外液のうち約75%を占めます。一方、血漿は血液の液体成分であり、細胞外液のうち約20〜25%を占め、循環血液量の維持に直結する重要な要素です。
参考)https://www.chugaiigaku.jp/upfile/browse/browse205.pdf
毛細血管壁を介して、間質液と血漿の間では水分や電解質の交換が行われています。毛細血管の内皮細胞は水やイオンを通過させますが、血漿タンパク(アルブミンなど)のような高分子物質は通過しにくいため、血漿と間質液ではタンパク質濃度に差があります。
参考)http://medical-friend.co.jp/pdf/keitaikinou.pdf
体重60kgの成人では、細胞外液12Lのうち間質液が9L、血漿が3Lという計算になり、この分布バランスが崩れると浮腫や循環不全などの病態が生じます。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/ccm/39/2/39_82/_pdf
細胞外液の主要な電解質はナトリウムイオン(Na+)と塩素イオン(Cl-)であり、その組成は約0.9%の食塩水に近い構成となっています。細胞外液中のナトリウム濃度は135〜145mEq/Lに維持され、この濃度は陸上動物において広く保存されている生理的な値です。
参考)細胞外液と細胞内液とは?役割と輸液の目的
ナトリウムは体内総量の約55%が細胞外液中に存在し、体液浸透圧の調節および細胞外液量の維持に最も重要な働きをしています。血漿浸透圧の約90%はナトリウムによって規定されており、ナトリウムの濃度に応じて細胞外液量が変化するため、水分とナトリウムを切り離して考えることはできません。
参考)研修医宿題50
細胞内液の主要電解質がカリウムイオン(K+)とリン酸イオン(HPO4 2-)であるのに対し、細胞外液ではナトリウムとクロールが中心となるこの組成の違いは、細胞膜が電解質の移動を制御しているためです。
参考)細胞外液・内液の電解質
体内のナトリウム量が細胞外液量を決定するため、ナトリウム量を一定に保つことで、通常は細胞外液量も一定に維持されます。浸透圧調節系が正常に機能している場合、体内のナトリウム量が細胞外液量を規定し、循環動態の安定性を保つ基盤となっています。
参考)https://ilsijapan-org.prm-ssl.jp/ILSIJapan/BOOK/Newsletter/Water-2-NL_1006.pdf
細胞外液の電解質組成と輸液の基礎知識(大塚製薬)
細胞外液量の適切な評価は、脱水や浮腫などの病態を診断し、輸液療法を計画する上で極めて重要です。しかし、軽度の細胞外液の変化を正確に判断することは臨床的に難しいケースが多いとされています。
参考)M-Review|低Na血症の診断アプローチ—体液量評価をど…
細胞外液量の評価には、複数の指標を組み合わせる必要があります。身体所見としては、皮膚ツルゴール、口腔粘膜の乾燥度、頸静脈の状態、浮腫の有無などが重要な手がかりとなります。バイタルサインでは、体重変化、血圧、起立性低血圧の有無、脈拍数などが評価されます。
参考)低ナトリウム血症の診断|SIADH.JP 〜「抗利尿ホルモン…
検査所見では、ヘマトクリット値、血中BUN・クレアチニン値、ANP・BNP値などが細胞外液量の状態を反映します。さらに、超音波による下大静脈径の測定や、中心静脈圧(CVP)の測定も有用な評価方法です。
細胞外液量の減少は脱水症を、増加は心不全・腎不全・肝硬変などを示唆し、ほぼ正常の場合はSIADH(抗利尿ホルモン分泌異常症候群)などが鑑別に挙がります。臨床経過やさまざまな所見、場合によっては輸液負荷に対する反応なども考慮して、総合的に判断することが推奨されています。
参考)SIADHと体液(細胞外液)量|SIADH.JP 〜「抗利尿…
細胞外液補充液は、電解質濃度が体液とほぼ同じ等張電解質液であり、投与された輸液は細胞内へ移動せず細胞外に分布して細胞外液量を増加させます。代表的な細胞外液補充液には、生理食塩水、リンゲル液、乳酸リンゲル液などがあります。
参考)水・電解質輸液
生理食塩水は0.9%のNaCl溶液で、体液と等しい約300mosmの浸透圧を持つため「生理的」と呼ばれています。細胞外液の主成分であるナトリウムとクロールを含み、循環血液量の確保に用いられます。
参考)研修医レクチャー 輸液療法 - その組成・種類と選び方・使い…
細胞外液補充液は主に循環血漿量の確保を目的とし、各種ショック、手術時、消化液の喪失などの生命に直結する状況で使用されます。一方、維持輸液は食事摂取ができない患者に対するエネルギー・ビタミン・微量元素の補給を目的とします。
参考)輸液の目的から見た輸液製剤の選びかた
投与された細胞外液補充液は、間質液と血漿に3:1の比率で分布するため、実際に血管内に留まるのは投与量の約4分の1に過ぎません。このため、循環血液量を効果的に増やすには、この分布特性を理解した上で適切な投与量を計算する必要があります。
参考)https://www.chugaiigaku.jp/upfile/browse/browse2992.pdf
生理食塩水の大量投与は高クロール血症や代謝性アシドーシスを引き起こす可能性があるため、近年では乳酸リンゲル液などの平衡電解質液の使用が推奨される場面も増えています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4794509/
水・電解質輸液の種類と特徴(大塚製薬)
細胞外液量の増加は、浮腫や心不全、肺水腫、血圧の上昇などに関係し、細胞外液量の低下は循環不全や血圧の低下などの原因となります。浮腫とは、細胞外液が血管外の間質に生理的な代償能を超えて過剰に貯留した状態を指します。
参考)https://www.niigatah.johas.go.jp/about/archives/200304.html
全身性浮腫の病態では、細胞外液量は増加しているにもかかわらず、有効循環血漿量が減少しています。腎臓はこれを細胞外液量の減少と感知してナトリウムを尿として排泄せず、貯留されたナトリウムが間質液に移行することで浮腫が生じます。
また、毛細血管内の静水圧と血漿タンパク(主にアルブミン)が保持する膠質浸透圧のバランスが崩れても浮腫が発生します。血清アルブミン濃度が低下すると、血管内から間質へ水分が移動し浮腫が出現するのです。
参考)浮腫と脱水 (medicina 20巻5号)
脱水症では細胞外液量が減少し、その評価には身体所見として皮膚ツルゴール低下、口腔粘膜・舌の乾燥、腋下乾燥、眼球陥没、頸静脈虚脱などが認められます。バイタルサインでは体重減少(体重の3%以上)、血圧低下、起立性低血圧、脈拍数増加などが特徴的です。
新生児や乳児は成人と異なり細胞外液の割合が細胞内液よりも多いため、下痢や嘔吐で容易に脱水に陥りやすいという特性があります。年齢や性別による体液分布の違いを理解することは、適切な輸液管理を行う上で不可欠です。
参考)http://www.shinshu-u.ac.jp/faculty/medicine/chair/i-shika/until%202003%20HP/resident%20note/reside%20yueki/yueki3.html
低ナトリウム血症の鑑別診断においても、細胞外液量の評価は中心的な役割を果たします。細胞外液量減少では脱水症、細胞外液量増加では心不全・腎不全・肝硬変、細胞外液量がほぼ正常ではSIADHや内分泌疾患などが鑑別対象となり、正確な体液量評価が診断の鍵となります。