選択的セロトニン再取り込み阻害薬の種類と一覧:作用機序と特徴

選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)の基本的作用機序から日本で承認されている4種類の特徴、薬価一覧まで詳しく解説。どのSSRIを選択すべきか?

選択的セロトニン再取り込み阻害薬の種類と作用機序

SSRI基本情報
🧠
作用機序

セロトニントランスポーターに選択的に作用し、セロトニンの再取り込みを阻害

💊
承認薬剤数

日本で承認されている成分は4種類(フルボキサミン、パロキセチン、セルトラリン、エスシタロプラム)

👥
使用患者数

年間約100万人以上が使用(2009年推計)

選択的セロトニン再取り込み阻害薬の基本的作用機序

選択的セロトニン再取り込み阻害薬(Selective Serotonin Reuptake Inhibitors, SSRI)は、シナプス間隙におけるセロトニン(5-ヒドロキシトリプタミン、5-HT)の再取り込みを選択的に阻害する抗うつ薬です。従来の三環系抗うつ薬と比較して、より選択的な作用機序を有することが最大の特徴となっています。

 

SSRIの「選択的」という名称は、他の神経伝達物質(ノルアドレナリンドーパミン)の再取り込みトランスポーターへの親和性が低く、主にセロトニントランスポーターに特異的に作用することを意味します。また、アセチルコリン受容体などの他の受容体への阻害作用が最小限に抑えられているため、抗コリン作用による副作用(口渇、便秘、眠気など)が大幅に軽減されています。

 

セロトニンは「幸せホルモン」とも呼ばれ、気分調節、睡眠、食欲、痛覚などの調節に重要な役割を果たしています。うつ病患者では脳内セロトニン濃度が低下していることが知られており、SSRIによってシナプス間隙のセロトニン濃度を高めることで、抗うつ効果を発揮します。

 

現在、世界的にSSRIは第一選択薬として位置づけられており、その理由として治療域の広さ、投与の容易さ、用量調節の必要性の少なさが挙げられます。ただし、セロトニン症候群や離脱症候群など、SSRI特有の副作用についても十分な理解が必要です。

 

日本承認選択的セロトニン再取り込み阻害薬4種類の特徴と適応

日本では現在、4種類のSSRIが承認・使用されています。それぞれに独特の薬物動態学的・薬力学的特徴があり、患者の症状や併存疾患に応じた選択が重要です。

 

フルボキサミンマレイン酸塩(デプロメール、ルボックス)
1999年5月に日本で最初に承認されたSSRIです。強迫性障害への適応も有している点が特徴的で、セロトニン再取り込み阻害作用が他のSSRIと比較して強力です。半減期が約15時間と比較的短く、1日2回投与が基本となります。CYP1A2やCYP2C19の阻害作用があるため、併用薬との相互作用に注意が必要です。

 

パロキセチン塩酸塩水和物(パキシル)
2000年11月に承認され、抗コリン作用が他のSSRIより若干強いことが知られています。即放錠とCR錠(徐放錠)の2つの剤形があり、CR錠では血中濃度の変動が少なく、副作用軽減効果が期待できます。半減期は約21時間で、1日1回投与が可能です。CYP2D6の強力な阻害薬であるため、多くの薬物との相互作用があります。

 

セルトラリン塩酸塩(ジェイゾロフト)
2006年7月に承認されました。他のSSRIと比較して薬物相互作用が少なく、高齢者や多剤併用患者にも使いやすいという特徴があります。半減期は約26時間で、定常状態到達まで約1週間を要します。軽度のドーパミン再取り込み阻害作用も有しています。

 

エスシタロプラムシュウ酸塩(レクサプロ)
最も新しく承認されたSSRIで、シタロプラムのS体のみを精製した薬剤です。セロトニントランスポーターへの選択性が最も高く、薬物相互作用も最小限です。半減期は約30時間で、安定した血中濃度を維持できます。忍容性が良好で、離脱症状も比較的少ないとされています。

 

パロキセチンの先発・後発品薬価一覧と選択基準

パロキセチンは多数のジェネリック医薬品(後発品)が製造されており、薬価にも大きな差があります。医療経済性を考慮した適切な選択が求められています。

 

先発品(パキシル)の薬価

  • パキシルCR錠6.25mg:17.9円/錠
  • パキシルCR錠12.5mg:33.7円/錠
  • パキシルCR錠25mg:57円/錠

主要後発品の薬価比較
後発品の薬価は製造会社により異なり、最も安価なものは先発品の約3分の1の価格となっています。

  • あすか製薬「AA」:5mg 10.4円、10mg 14.6円、20mg 26.6円
  • ニプロ「NP」:5mg 10.4円、10mg 11.6円、20mg 18.7円
  • 沢井製薬「サワイ」:5mg 10.4円、10mg 16.2円、20mg 29.4円

特に20mg錠において、最も高価な日本ケミファの48.5円/錠と最も安価なニプロの18.7円/錠では、約2.6倍の価格差があります。

 

後発品選択時の注意点
後発品選択時は薬価だけでなく、製剤の品質、供給安定性、添加物の違いも考慮する必要があります。特にパロキセチンは離脱症状が起こりやすいため、製剤変更時は慎重な観察が必要です。また、CR錠(徐放錠)は後発品が存在しないため、徐放製剤が必要な場合は先発品を選択せざるを得ません。

 

医療機関では、院内採用薬の統一や患者の経済的負担軽減を考慮し、後発品を積極的に採用する傾向にあります。ただし、患者の症状安定性や副作用プロファイルに変化がないか、十分なモニタリングが重要です。

 

選択的セロトニン再取り込み阻害薬の副作用プロファイル

SSRIは従来の三環系抗うつ薬と比較して副作用プロファイルが改善されていますが、SSRI特有の副作用も存在します。適切な副作用管理により、治療継続率の向上が期待できます。

 

軽減された副作用
三環系抗うつ薬で問題となっていた以下の副作用は大幅に軽減されています。

  • 抗コリン作用(口渇、便秘、排尿困難、霧視)
  • 抗ヒスタミン作用(眠気、体重増加)
  • 抗α1受容体作用(起立性低血圧)
  • 心毒性(QT延長、不整脈)

SSRI特有の副作用
一方で、SSRIには以下の特有な副作用があります。
🔸 消化器症状:悪心、嘔吐、下痢、食欲不振
最も頻度の高い副作用で、治療初期に多く見られます。セロトニン受容体5-HT3の刺激によるもので、通常は2-3週間で軽減します。

 

🔸 性機能障害:性欲減退、勃起不全、射精障害、オルガズム障害
男女問わず高頻度で出現し、治療継続の阻害要因となることがあります。用量依存性があり、薬剤変更や併用薬の検討が必要な場合があります。

 

🔸 賦活症候群(アクチベーション症候群)
特に25歳未満の若年者で注意が必要な副作用です。治療初期に不安、焦燥、衝動性、攻撃性が増強することがあり、希死念慮の増強リスクもあります。

 

🔸 セロトニン症候群
過量投与や薬物相互作用により発症する重篤な副作用です。高熱、発汗、振戦、錯乱、ミオクローヌスなどが主症状で、重症例では生命に関わります。

 

🔸 SSRI離脱症候群(中断症候群)
急激な薬剤中止により発症します。めまい、頭痛、電気ショック様感覚、不安、不眠などが主症状で、特に半減期の短いパロキセチンで頻度が高いとされています。

 

副作用管理においては、患者教育と定期的なモニタリングが重要です。特に治療開始後2-4週間は注意深い観察が必要で、副作用の早期発見と適切な対処により、治療継続性を高めることができます。

 

臨床現場での選択的セロトニン再取り込み阻害薬選択基準

臨床現場でのSSRI選択は、患者個々の特性、症状、併存疾患、併用薬などを総合的に考慮して決定する必要があります。画一的な選択ではなく、個別化医療の観点が重要です。

 

年齢による選択基準
高齢者では薬物代謝能力の低下や併用薬の多さを考慮し、薬物相互作用の少ないセルトラリンやエスシタロプラムが推奨されます。一方、若年者では賦活症候群のリスクを考慮し、より慎重な薬剤選択と用量調節が必要です。

 

併存疾患による選択

  • 不安障害合併例:エスシタロプラムやセルトラリンが第一選択
  • 強迫性障害:フルボキサミンが適応を有している
  • 心疾患合併例:QT延長リスクの低いセルトラリンを選択
  • 肝機能障害:代謝経路を考慮した薬剤選択が必要

副作用プロファイルによる選択

  • 性機能を重視する患者:性機能障害の頻度が比較的低いセルトラリン
  • 体重増加を避けたい患者:体重増加の少ないエスシタロプラム
  • 眠気を避けたい患者:覚醒作用のあるフルボキサミン

薬物相互作用による選択
CYP酵素系への影響が最小限のエスシタロプラムは、多剤併用患者や高齢者に適しています。一方、CYP2D6阻害作用の強いパロキセチンは、該当する併用薬がある場合は避けるべきです。

 

経済性による選択
後発品の豊富なパロキセチンやセルトラリンは、医療経済性を重視する場合の選択肢となります。ただし、薬価のみで選択するのではなく、患者の症状安定性を最優先に考慮する必要があります。

 

治療反応性による調整
初回選択薬で効果不十分な場合は、異なるSSRIへの変更や、SNRIとの併用・切り替えを検討します。また、部分的効果の場合は増強療法(リチウム、甲状腺ホルモン定型抗精神病薬の少量併用)も選択肢となります。

 

現代の精神科医療において、SSRIは不可欠な治療薬です。しかし、その選択と使用には十分な専門知識と経験が必要であり、患者の状態を総合的に評価した上で、最適な薬剤選択を行うことが求められています。継続的な症状評価と副作用モニタリングにより、患者のQOL向上を目指した治療が重要です。

 

厚生労働省によるSSRIと攻撃性に関する安全性情報