ダントロレンは骨格筋弛緩薬として悪性高熱症や痙性麻痺の治療に使用されますが、副作用の発現頻度は46.2%(273/591例)と比較的高い数値が報告されています。最も多く見られる副作用は脱力感で23.5%の患者に発現し、次いで倦怠感6.4%、食欲不振6.4%、ふらふら感6.9%、下痢5.1%となっています。これらの副作用は筋弛緩作用の薬理学的特性に由来するものであり、患者の日常生活動作に影響を及ぼす可能性があります。
参考)医療関係者の皆様へ 
精神神経系の副作用としては、5%以上の頻度で眠気が発現し、0.1~5%未満の頻度でめまい、頭痛、頭がボーッとする感覚、言語障害、痙攣が認められます。消化器系では食欲不振、便秘、悪心・嘔吐、下痢、腹部膨満感などが0.1~5%未満の頻度で報告されています。
参考)医療用医薬品 : ダントリウム (ダントリウムカプセル25m…
循環器系の副作用では静脈炎が0.1~5%未満、心悸亢進が0.1%未満の頻度で発現します。また、0.1%未満と頻度は低いものの血圧変動も報告されており、循環動態の観察が必要です。
肝障害はダントロレンの重大な副作用の一つであり、黄疸は0.1%未満、肝障害は頻度不明とされています。ダントロレンによる肝障害の発症メカニズムとして、代謝物の反応性が関与している可能性が示唆されています。肝機能異常としてAST上昇、ALT上昇が0.1~5%未満の頻度で認められます。
参考)ダントロレンの代謝酵素と肝障害の原因と考えられる反応性代謝物…
長期投与においては肝毒性のリスクが投与期間と投与量に依存的に増加することが知られており、定期的な肝機能検査(AST、ALT、アルカリフォスファターゼ、総ビリルビン等)の実施が必須とされています。投与開始後は肝機能検査を定期的に行い、異常が認められた場合には治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ慎重に投与することが推奨されています。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00051894.pdf
海外の研究では、悪性高熱症に短期間使用した場合の肝毒性は観察されていないと報告されており、長期投与と短期投与では肝障害のリスクに差があることが示唆されています。肝障害が発現した場合には速やかに投与を中止し、適切な処置を行う必要があります。
参考)ダントロレン - Wikipedia
呼吸不全はダントロレンの重大な副作用であり、0.1~5%未満の頻度で発現します。悪性症候群の治療において、2日目40mg投与で過量のために呼吸不全を生じたとの報告があり、過量投与には特に注意が必要です。呼吸不全の発現は本剤の筋弛緩作用により呼吸筋の機能が低下することに起因します。
肺機能障害、特に閉塞性肺疾患の患者では症状が悪化するおそれがあるため慎重投与が必要です。呼吸不全が疑われた場合には臨床症状及び血液ガス等のデータを参考に、呼吸管理を実施しながら本剤を投与することが推奨されています。
呼吸器系の副作用としては、0.1%未満の頻度で咳嗽、呼吸困難、胸痛、胸水貯留が報告されています。投与中は呼吸・循環動態を継続観察し、パルスオキシメーターなどを用いたモニタリングが重要です。向精神薬との併用では呼吸中枢抑制作用が相加的に増強される可能性があり、薬物相互作用にも注意が必要です。
参考)https://www.pref.nara.jp/secure/157717/28029.pdf
PIE症候群(肺好酸球性浸潤症候群)は頻度不明ながらダントロレンの重大な副作用として報告されています。PIE症候群の症状には発熱、咳嗽、呼吸困難、胸痛、胸水貯留、好酸球増多などが含まれます。これらの症状が現れた場合には速やかに投与を中止し、適切な処置を行う必要があります。
参考)https://vet.cygni.co.jp/include_html/drug_pdf/sinkei/JY-00038.pdf
胸膜炎も頻度不明の重大な副作用として知られており、経口薬投与時に心膜炎を伴う胸水が稀に観察されることがあります。血液検査では好酸球増多が0.1%未満の頻度で認められ、PIE症候群や胸膜炎の早期発見に有用な指標となります。
呼吸器症状として咳嗽、呼吸困難、胸痛、胸水貯留が0.1%未満の頻度で報告されていますが、これらはPIE症候群や胸膜炎の初期症状である可能性があります。医療従事者はこれらの症状に注意を払い、早期発見・早期対応を心がける必要があります。
参考)医療関係者の皆様へ 
ダントロレン投与中は患者を監視下に置き、十分に注意することが求められます。投与中は呼吸・循環動態を継続的に観察し、パルスオキシメーターを用いたモニタリングを実施することが推奨されています。特に悪性高熱症や悪性症候群の治療では、心拍数低下、筋緊張緩和、体温低下などの指標を継続的に評価する必要があります。
参考)医療関係者の皆様へ 
ショックやアナフィラキシーは0.1~5%未満の頻度で発現し、顔面蒼白、血圧低下、呼吸困難などの症状が現れることがあります。イレウスも0.1~5%未満の頻度で発現するため、腹部症状の観察も重要です。
薬物相互作用として、筋弛緩作用のある薬物(ジアゼパム等のベンゾジアゼピン系化合物、トルペリゾン塩酸塩、クロルメザノン等)との併用により作用が増強されることがあります。カルシウム拮抗剤(ベラパミル等)との併用では高カリウム血症に伴う心室細動、循環虚脱等が現れることがあるため注意が必要です。エストロジェンとの併用では重篤な肝障害が多いとの報告があり、併用薬剤の確認も安全管理上重要です。
投与総量については、悪性高熱症の治療では7mg/kg(欧米では10mg/kg)までとされ、悪性症候群では1日総投与量200mgまでとされています。過量投与を避けるため、これらの上限を遵守することが必要です。
参考)https://vet.cygni.co.jp/include_html/drug_pdf/sinkei/JY-00039.pdf
<参考リンク>
ダントロレンの副作用頻度と肝機能検査の重要性について詳細な情報が記載されています。
医療用医薬品:ダントリウムカプセル25mg 添付文書情報
悪性高熱症の管理とダントロレン投与方法に関する最新のガイドライン。
日本麻酔科学会 悪性高熱症管理ガイドライン2025