ホスホジエステラーゼ種類と阻害薬の臨床応用

ホスホジエステラーゼには11種類のファミリーが存在し、それぞれ異なる組織分布や基質特異性を持ちます。各タイプの特性と阻害薬の治療応用について、あなたは正確に理解していますか?

ホスホジエステラーゼの種類と特性

この記事のポイント
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11のファミリー分類

哺乳類のPDEはPDE1~PDE11までの11種類に分類され、基質特異性や組織分布が異なります

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臨床応用の多様性

PDE阻害薬は心不全、勃起障害、慢性閉塞性肺疾患、乾癬など幅広い疾患の治療に用いられています

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選択的阻害の重要性

各PDE阻害薬の選択性により副作用を抑えながら治療効果を高めることが可能です

ホスホジエステラーゼの基質特異性による分類

 

 

ホスホジエステラーゼ(PDE)は、細胞内セカンドメッセンジャーであるサイクリックAMP(cAMP)およびサイクリックGMP(cGMP)を分解する酵素であり、哺乳類では11種類のファミリーを形成しています。これらのPDEファミリーは基質特異性に基づいて3つの主要グループに分類されます。​
第一のグループはcAMP特異的なPDEであり、PDE4、PDE7、PDE8が含まれます。PDE4は免疫細胞、脳などに存在し、炎症性疾患の治療標的として重要な位置を占めています。第二のグループはcGMP特異的なPDEで、PDE5、PDE6、PDE9が該当します。PDE5は血管平滑筋などに存在し、勃起障害や肺高血圧症の治療に利用されています。

 

参考)301 Moved Permanently

第三のグループはcAMPとcGMPの両方を分解するデュアル基質型PDEであり、PDE1、PDE2、PDE3、PDE10、PDE11が含まれます。PDE1はCa2+/カルモジュリン依存性の酵素で、脳、心臓、血管平滑筋などに分布しています。PDE2はcGMP刺激性PDEとして知られ、心筋細胞における基礎的カルシウム電流の調節に関与しています。PDE3は主に血小板、心臓、血管平滑筋に存在し、心不全治療や抗血小板療法の重要な標的となっています。

 

参考)PDE研究用試薬

ホスホジエステラーゼの組織分布と機能的意義

各PDEファミリーは組織分布に顕著な特異性を示し、それぞれの組織において特有の生理機能を担っています。PDE1は脳、心臓、骨格筋、肝臓、血管平滑筋に広く分布し、血管の筋肉の緊張調節、味覚、嗅覚などに関与しています。PDE2は心房筋細胞において基礎的なカルシウム電流を調節し、循環ヌクレオチド濃度を最小限に保つ役割を果たしています。

 

参考)PDE阻害作用の違い|バイアグラとレビトラとシアリスの違い【…

PDE3は血小板、心筋、血管平滑筋に高発現し、抗脂肪分解作用におけるインスリンの作用に重要な役割を担っています。この酵素ファミリーには異なる遺伝子から生成される組織特異的なmRNAが存在し、転写開始部位の違いや選択的スプライシングによって多様性が生み出されています。PDE4は免疫細胞、上皮細胞、脳細胞に主に存在し、炎症調節と上皮の完全性維持に関与しています。さらにPDE4Aから4Dまでの4つのサブタイプが存在し、ヒト組織に広く分布しています。

 

参考)https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fphar.2018.01048/pdf

PDE5は海綿体、血管および内臓平滑筋、血小板に発現し、勃起機能、平滑筋の緊張、血小板凝集を制御しています。PDE6は網膜の錐体細胞と桿体細胞に特異的に存在し、視覚情報伝達において中心的な役割を果たしています。PDE10Aは脳内の線条体に特に高発現しており、cAMPに対する加水分解能がcGMPより約10倍高い特徴を持っています。PDE11は骨格筋、心臓、血管平滑筋、海綿体、前立腺、下垂体、精巣、肝臓、腎臓に分布しています。

 

参考)https://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S0021925819732244

ホスホジエステラーゼ阻害薬の薬理作用機序

ホスホジエステラーゼ阻害薬は、PDEを阻害することによりcAMPあるいはcGMPの細胞内濃度を上昇させ、結果的に細胞内カルシウム濃度を調節する薬物です。非選択的PDE阻害薬として、カフェインやテオフィリンが古くから知られており、広範なPDEアイソザイムを阻害します。​
選択的PDE阻害薬は特定のPDEサブタイプに対して高い選択性を示し、副作用を軽減しながら治療効果を発揮します。これらの阻害薬は細胞内セカンドメッセンジャーの分解を抑制することで、シグナル伝達経路を強化し、組織特異的な生理作用をもたらします。PDE阻害薬の作用は、標的組織におけるcAMPまたはcGMPの蓄積により、プロテインキナーゼの活性化、イオンチャネルの調節、平滑筋の弛緩などの多様な細胞応答を引き起こします。

 

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3372715/

ホスホジエステラーゼ3阻害薬の種類と心血管への応用

PDE3阻害薬は主に血小板、心臓、血管平滑筋に存在するPDE3を標的とし、心不全治療と抗血小板療法に用いられています。ミルリノンは急性心不全治療薬として使用され、不全心筋の酸素消費量を増大させずに心機能を改善する特徴があります。この薬剤は心筋収縮力を上昇させる強心作用を示し、小児においても成人と同様の使用量で安全に使用できます。

 

参考)https://jspccs.jp/wp-content/uploads/j2102_092.pdf

シロスタゾール(プレタール)はPDE3を選択的に阻害し、慢性動脈閉塞症の治療薬として承認されています。この阻害作用により赤血球の変形能が向上し、収縮した静脈や動脈をより容易に通過できるようになるため、間欠性跛行のような症状に有効です。興味深いことに、PDE3阻害薬であるシロスタゾールは骨の成長を促進する作用も報告されており、新たな治療応用の可能性が示唆されています。​
オルプリノンとパログレリルもPDE3阻害薬として知られ、cAMPおよびcGMPの両方を基質としています。ザルダベリンはPDE3とPDE4の両方を阻害する特性を持ち、複数のシグナル伝達経路に作用します。PDE3阻害薬の臨床応用は心血管疾患を中心に展開されていますが、組織分布の特異性に基づいた新規治療法の開発が継続的に進められています。​

ホスホジエステラーゼ4阻害薬の種類と炎症性疾患治療

PDE4は免疫細胞、上皮細胞、脳細胞に主に存在し、cAMP特異的な加水分解酵素として炎症調節において中心的な役割を果たしています。PDE4阻害薬は細胞内cAMP濃度を上昇させることで、炎症性メディエーターの産生を抑制し、免疫応答を調節します。アプレミラスト(オテズラ)は尋常性乾癬および乾癬性関節炎の治療薬として承認されており、経口投与可能なPDE4阻害薬です。

 

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11139162/

ロフルミラストは慢性閉塞性肺疾患COPD)の治療薬として臨床応用されており、気道炎症を軽減する効果があります。ロリプラムは古典的なPDE4阻害薬であり、(R)-(-)-エナンチオマーと(S)-(+)-エナンチオマーが研究用試薬として広く使用されています。L 454560、BAY 19-8004、SB 207499などの化合物もPDE4阻害活性を示し、炎症性疾患の基礎研究に用いられています。​
PDE4ファミリーにはPDE4A、PDE4B、PDE4C、PDE4Dの4つのサブタイプが存在し、それぞれ異なる組織分布と機能的役割を持っています。PDE4B阻害薬は炎症性疾患の治療で特に有用であると提案されており、ノックアウトマウスを用いた研究では生存率への影響がほとんどないことが示されています。一方、PDE4D阻害は気道炎症疾患における治療標的として有望視されており、気道上皮細胞のアドレナリンアゴニストに対する感受性を低下させることが報告されています。PDE4阻害薬の臨床試験は1980年代初頭から継続的に実施されており、2022年までに多数の候補化合物が評価されています。

 

参考)https://patents.google.com/patent/JP3917863B2/ja

ホスホジエステラーゼ5阻害薬の種類と勃起障害治療

PDE5は血管平滑筋、海綿体、血小板に豊富に存在し、cGMP特異的な加水分解酵素として平滑筋の緊張調節と血管拡張に重要な役割を果たしています。PDE5阻害薬は一酸化窒素によって産生されたcGMPの分解を抑制し、海綿体平滑筋の弛緩と陰茎への血流増加を促進することで勃起を誘導します。

 

参考)PDE5阻害薬とは?種類や服用方法、副作用について解説

シルデナフィル(バイアグラ)はPDE5に対して強力な阻害作用を示す最初の経口勃起障害治療薬であり、局所血流量を増大させることで男性機能障害(ED)および肺高血圧症の治療に使用されています。シルデナフィルクエン酸塩のPDE5に対するIC50値は0.89nMであり、他のPDEアイソザイムと比較して少なくとも9000倍強い選択性を持っています。バルデナフィルとタダラフィルもPDE5阻害薬として臨床応用されており、それぞれ異なる薬物動態学的特性を示します。​
各PDE5阻害薬のPDEサブタイプに対する選択性には差異があり、副作用プロファイルに影響を与えています。PDE6は網膜に特異的に発現しているため、PDE6への交差阻害性により視覚障害が生じる可能性があります。同様にPDE11への作用も考慮する必要があり、PDE5阻害薬の選択にあたっては各薬剤の選択性プロファイルを理解することが重要です。

 

参考)https://www.pmda.go.jp/drugs/2007/P200700039/530471000_21900AMX01084_H100_1.pdf

PDE5阻害薬は勃起障害治療以外にも、肺動脈性肺高血圧症の治療に応用されており、血管拡張作用を通じて肺血管抵抗を低下させます。また、PDE5阻害薬とニトログリセリンなどの硝酸薬との併用は過度の血圧低下を引き起こすため禁忌とされています。ギサデナフィルやPDE5 inhibitor 42などの新規PDE5阻害薬も開発されており、より優れた選択性や薬物動態特性を目指した研究が継続されています。

 

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/99/7/99_1557/_pdf

ホスホジエステラーゼ阻害薬の新規治療応用と開発動向

PDE阻害薬は従来の適応症を超えて、認知症うつ病統合失調症などの中枢神経系疾患の新たな治療薬として期待されています。PDE2およびPDE4の阻害は抗うつ作用を示し、フルオキセチンとの併用により相乗効果が得られることが示唆されています。PDE4阻害薬はcAMPの水解を抑制してcAMP含量を増加させ、長期増強効果の向上、海馬神経細胞におけるCREBのリン酸化促進、記憶関連Arc遺伝子の発現増強を通じて、認知機能障害やアルツハイマー病様症状の改善に寄与します。

 

参考)KAKEN href="https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-24791244/" target="_blank">https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-24791244/amp;mdash; 研究課題をさがす

PDE9Aは脳内移行性が高く、選択的阻害薬PF 04447943が開発されています。PDE9は脳、脾臓、小腸に分布し、cGMP特異的な加水分解活性を示します。PDE10Aは線条体に特異的に高発現しており、統合失調症やパーキンソン病などの神経疾患の治療標的として研究が進められています。

 

参考)https://u-shizuoka-ken.repo.nii.ac.jp/record/4382/files/SD00200243201604260000.pdf

PDE阻害薬は原虫感染症(マラリアを含む)、喘息、COPDなど多様な疾患領域での治療可能性が確認されています。テオフィリンやカフェインなどのメチルキサンチン誘導体は非選択的PDE阻害薬として、気管支喘息の治療に古くから使用されています。イブジラストはホスホジエステラーゼ活性を阻害することで脳血流改善作用と抗血小板作用を示し、脳血管障害によるめまいや気管支喘息の治療に応用されています。

 

参考)https://www.kyorin-pharm.co.jp/prodinfo/medicine/pdf/a_ketas.pdf

近年の分子薬理学研究の進展により、結晶構造に基づいた創薬アプローチが可能となり、PDE1、3、4、5、9の触媒ドメインの3次元構造が解明されています。これらの構造情報を活用することで、より効果的なファミリー選択的阻害薬の開発が進められており、既存の臨床応用薬(PDE3、PDE4、PDE5阻害薬)を超えた新世代の治療薬創出が期待されています。PDE阻害薬は発作の発生にも関与しており、ペンチレンテトラゾール誘発性発作モデルにおいてPDE阻害薬の使用が発作発生までの時間遅延と発作時間の短縮をもたらし、抗てんかん効果を示すことが動物実験で確認されています。

 

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4275405/

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