マクロファージ活性化症候群の症状と診断・治療の要点

マクロファージ活性化症候群(MAS)の症状は発熱や血球減少だけではなく、見落としやすい検査の逆説的変化も含まれます。医療従事者として早期診断に必要な知識を整理しておきませんか?

マクロファージ活性化症候群の症状・診断・治療を正しく理解する

著明な全身性炎症があるのに、赤沈が逆に低下するため「炎症なし」と見誤ると命取りになります。


🔬 この記事の3つのポイント
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MASは急速に多臓器不全に至る

全身型JIAの約10%、SLEの0.9〜4.6%に合併。サイトカインストームにより発症から短時間でDIC・多臓器不全に進行する致死的疾患です。

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フェリチン684 ng/mL以上が診断の鍵

2016年分類基準ではフェリチン≥684 ng/mLに加え、血小板減少・AST上昇・TG上昇・フィブリノゲン低下のうち2項目以上を確認します。

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診断確定を待たずに治療開始を検討

2022 EULAR/ACRガイドラインでは、持続的・重度の炎症や臓器機能不全がある場合は診断検査の途中でも免疫調節治療の開始を推奨しています。


マクロファージ活性化症候群(MAS)とは何か:HLHとの関係

マクロファージ活性化症候群(Macrophage Activation Syndrome:MAS)は、骨髄・脾臓・リンパ節などの網内系組織において、炎症性サイトカインによって活性化されたマクロファージ(組織球)が自己の血球を貪食するという極めて危険な病態です。別名・血球貪食性リンパ組織球症(Hemophagocytic Lymphohistiocytosis:HLH)とも呼ばれますが、厳密にはHLHの中でリウマチ性疾患に伴う二次性のものをMASと呼び分けます。


HLHには一次性(遺伝性)と二次性(反応性)があります。一次性はPerforin 1・Munc 13D・Syntaxin 11などの遺伝子変異に起因し、二次性には感染症関連・悪性腫瘍関連・自己免疫疾患関連などがあります。このうち自己免疫疾患に合併するものがMASと位置づけられ、現在では「HLH/MAS」という統合的な呼称で論じられることも増えています。


MASはサイトカインストームを本態とします。具体的には IFN-γ・IL-6・TNF-α・IL-12・IL-18 などの炎症性サイトカインが異常産生され、活性化マクロファージが自己血球を次々に貪食します。これが汎血球減少を生じさせ、DIC・肝障害・中枢神経障害多臓器不全へとなだれ込む経過をたどります。


MASを起こす代表的な基礎疾患は全身型若年性特発性関節炎(sJIA)です。その他、成人スチル病(AOSD)・川崎病・全身性エリテマトーデス(SLE)・リウマトイド関節炎・多発性筋炎/皮膚筋炎混合性結合組織病(MCTD)・ベーチェット病などほぼすべてのリウマチ性疾患に合併しうる点は、見落としのリスクとして重要です。


参考:大阪大学大学院医学系研究科 呼吸器・免疫内科学 — 血球貪食症候群(HPS/HLH)の分類・診断基準・治療指針の詳細
http://www.imed3.med.osaka-u.ac.jp/disease/d-immu05-6.html


マクロファージ活性化症候群の症状:見落としやすい臨床像

MASの代表的な症状は、持続する高熱・肝脾腫・全身性リンパ節腫脹・発疹・出血症状・中枢神経系機能障害(痙攣発作・昏睡を含む)・ショックです。これらを整理すると以下の通りです。












系統 主な症状・所見
全身 遷延性の高熱(間欠熱でなく持続熱)、倦怠感、全身浮腫
血液 汎血球減少(貧血・血小板減少・白血球減少)、出血斑、点状出血
肝・脾 肝脾腫、黄疸、AST/ALT上昇
リンパ節 全身性リンパ節腫脹
中枢神経 意識障害・痙攣・昏睡・脳浮腫
循環 ショック、呼吸障害、多臓器不全
皮膚 発疹(持続性)


臨床上、特に注意が必要なのは「発熱の性状の違い」です。全身型JIAでは発熱が間欠的(1日に数時間のみ高熱を示し、その後自然に解熱する弛張熱・間欠熱)であるのに対し、MASでは発熱が持続するという点が鑑別の大きなヒントとなります。同様に、発疹も全身型JIAでは一過性のサーモンピンク疹が特徴なのに対し、MASでは持続性の発疹が見られます。


また、自己免疫疾患の合併症として大阪大学をはじめとする医療機関の報告によれば、MASに合併した自己免疫関連血球貪食症候群(AAHS)の臨床症状の頻度は、発熱≥37℃が91%・高フェリチン血症が82%・高CRP血症が76%・2系統以上の血球減少が71%です。一方で肝脾腫・リンパ節腫脹は50%前後と、必ずしも全例に揃うわけではありません。


つまり「汎血球減少+持続発熱+フェリチン急騰」という組み合わせを見たとき、まずMASを疑う姿勢が早期診断につながります。


マクロファージ活性化症候群の診断基準と検査値の逆説的変化

MASの診断は、臨床基準と検査値の組み合わせで行います。JIA患者に対しては 2016 EULAR/ACR/PRINTO分類基準が用いられ、フェリチン値 ≥684 ng/mL(684 μg/L)に加えて、以下の4項目のうち2つ以上を満たすことが条件です。



  • 🔴 血小板数 ≤ 181,000 /μL

  • 🔴 AST > 48 U/L(> 0.80 μkat/L)

  • 🔴 トリグリセリド > 156 mg/dL(> 1.76 mmol/L)

  • 🔴 フィブリノゲン ≤ 360 mg/dL(≤ 10.58 g/L)


注目すべきは、赤血球沈降速度(赤沈・ESR)の「逆説的な低下」です。著明な全身性炎症があるにもかかわらず、フィブリノゲンが消費されて低下するため、赤沈は逆に低下することがあります。通常、強い炎症があれば赤沈は上昇するという常識に反して、MASでは「炎症が強いのに赤沈が低い」という現象が生じます。この逆説的な赤沈低下を見た際は、むしろMASの積極的なサインとして受け取るべきです。


より広範なHLH/MASのスクリーニングとしては、2022年の EULAR/ACR ガイドラインが参考になります。持続する発熱・フェリチンやLDHの上昇・汎血球減少・肝機能障害・凝固障害・脾腫・中枢神経障害など複数の所見が重なる際にはHLH/MASを念頭に置く必要があります。


一般的なHLH2004診断基準では、以下の8項目のうち5項目以上の充足でHLHと診断します。



  • 発熱

  • 脾腫

  • 2系統以上の血球減少(Hb <9.0 g/dL、血小板 <10万/μL、好中球 <1,000/μL)

  • 高TG血症(空腹時TG ≥265 mg/dL)または低フィブリノゲン血症(≤150 mg/dL)

  • 骨髄・脾臓・リンパ節における血球貪食像

  • NK細胞活性の低下または消失

  • 血清フェリチン値 ≥500 ng/mL

  • sIL-2R ≥2,400 U/mL


骨髄検査でマクロファージによる自己血球貪食が確認されることは本症に特徴的な所見ですが、早期には骨髄所見が出揃わないこともあります。骨髄所見が陰性でも臨床的にMASが強く疑われる場合は、治療を先行させることが 2022 EULAR/ACR ガイドラインでも勧告されています。


参考:MSDマニュアル(プロフェッショナル版)— マクロファージ活性化症候群の診断基準と治療
https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/マクロファージ活性化症候群


マクロファージ活性化症候群の治療:ステロイドと生物学的製剤の使い分け

MASの治療は、原疾患のコントロールと高サイトカイン血症の是正を両輪として進めます。治療の中心は副腎皮質ステロイド(グルココルチコイド)であり、プレドニゾロン大量療法やメチルプレドニゾロンパルス療法が行われます。


特筆すべきは、活性化マクロファージに取り込まれやすいリポ化ステロイドであるデキサメタゾンパルミチン酸エステル(商品名:リメタゾン)の有用性です。通常のステロイド製剤と比較して、活性化マクロファージへのターゲット到達性が高く、MASにおいて非常に有効とされています。


ステロイドに反応しない重症例や再燃例では、以下の薬剤が追加・代替として検討されます。



  • ⚙️ シクロスポリン(calcineurin阻害薬)T細胞活性化を強く抑制する。MASの古典的な追加治療薬。

  • ⚙️ アナキンラ(IL-1受容体拮抗薬):2022 EULAR/ACRガイドラインでも急速進行性HLH/MASに対する経験的免疫調節療法の第一選択候補として明記。

  • ⚙️ エマパルマブ(抗IFN-γモノクローナル抗体:IFN-γが主要な病態促進サイトカインであるMASに対して有効性が報告されており、特に難治性HLHへの適応が広がりつつある。

  • ⚙️ JAK阻害薬:IFN-γシグナルをはじめとする複数の炎症経路を遮断する。重症例での使用が増えている。

  • ⚙️ 血漿交換療法:高サイトカイン血症・高フェリチン血症の除去目的で使用。DICを伴う重症例で選択される。


重要なのは、治療開始のタイミングです。2022 EULAR/ACRガイドラインは「持続的・重度・増悪する炎症や臓器機能不全を伴う場合は、診断検査の途中であっても免疫調節治療の開始を検討する」と勧告しています。診断確定を待って時間を失うことが、多臓器不全につながるリスクを著しく高めます。


MASの管理においてはICUでのモニタリングが必要になるケースも多く、ガイドラインは「臓器障害を少なくとも毎日評価し、全身炎症マーカーを週2回以上評価する」ことを推奨しています。集学的チームによるアプローチが原則です。


参考:国立成育医療研究センター — 自己免疫疾患とマクロファージ活性化症候群の診療体制
https://www.ncchd.go.jp/hospital/about/section/touseki_ketsuekijyouka/jikomeneki.html


マクロファージ活性化症候群の予後と死亡率:敗血症合併で62.4%という現実

MASの予後は、早期診断・早期治療ができるかどうかで大きく変わります。死因の中心は多臓器不全です。


近年注目される報告として、敗血症患者においてマクロファージ活性化様症候群(MALS)を合併した場合、院内死亡率が62.4%に達するというデータがあります(2025年11月、Anaesth Crit Care Pain Med誌掲載)。MALSを合併しない敗血症患者の院内死亡率30.5%と比較すると、実に2倍以上のリスクです。これは敗血症の免疫応答サブフェノタイプとしてMASが独立した予後不良因子であることを意味します。


基礎疾患別の視点では、全身型JIA合併MASに限れば適切な治療介入で死亡率を一定程度抑えられますが、悪性腫瘍関連HLHや感染症関連HLHを合併した場合には予後が特に不良とされています。


予後不良因子としては次のものが挙げられています。



  • 🔴 基礎にある悪性腫瘍

  • 🔴 中枢神経障害(意識障害・痙攣)

  • 🔴 肝不全・多臓器不全

  • 🔴 長期の疾患活動性

  • 🔴 診断・治療開始の遅れ


これらの因子が揃っている患者ほど、緊急性を持って診断確定と治療開始を急がなければなりません。ただ治療急ぐだけでなく、同時に基礎疾患の誘因を特定し適切な抗菌・抗ウイルス薬を並行投与することも重要です。感染症が誘因になっているケースでは、免疫抑制治療単独では感染症の悪化を招く危険があるため、感染症専門家との連携が求められます。


つまり、MASは「疑い始めたら後手を踏まない」が鉄則です。


参考:medilink-study Informa — 医師国家試験出題基準に追加されたMASの解説
https://informa.medilink-study.com/web-informa/post39466.html/


医療従事者が見落としやすいMAS症状の「盲点」:独自視点からの整理

MASは教科書通りの症状で提示されるとは限りません。特に初期や軽症例では、典型的な汎血球減少や肝脾腫が揃わないまま経過する場合があります。医療従事者が実際の臨床で踏み外しやすい盲点を、ここで整理しておきます。


盲点①:「CRPが低い」から炎症なしと見誤る


トシリズマブ(IL-6阻害薬)を使用中の患者では、CRP産生がIL-6依存的に抑制されているため、実際の炎症の強さにかかわらずCRPは低値を示します。つまりCRP正常であっても炎症が進行している可能性があります。このような患者ではフェリチン・LDH・フィブリノゲンを必ず並行してモニタリングする必要があります。


盲点②:「発熱が続いているだけ」という初期印象


MASの初期症状は、ときに高熱と倦怠感のみで始まります。基礎疾患のリウマチ性疾患が活動期であれば、MASの合併を原疾患の悪化と判断してしまうリスクがあります。特に全身型JIAの患者で「いつもと違う熱の持続のしかた」を感じたとき、血小板・フェリチン・フィブリノゲンの変化をセットで確認することが鑑別の糸口になります。


盲点③:赤沈の「正常値」でMASを除外してしまう


前述の通り、MASでは著明な炎症があるにもかかわらず赤沈が逆説的に低下します。赤沈のみで炎症なしと判断するのは危険です。


盲点④:骨髄検査の陰性結果でMASを否定してしまう


血球貪食像は発症の比較的早い段階では骨髄で確認されないことがあります。1回の骨髄検査が陰性でも、臨床的に強くMASが疑われる場合は否定根拠にはなりません。骨髄再検査か、または臨床的判断に基づく治療開始が求められます。


盲点⑤:小児疾患と思い込んで成人での警戒が薄れる


MASの代表的な基礎疾患である全身型JIAは小児疾患ですが、成人スチル病(AOSD)・SLE・RAを持つ成人患者においても同様にMASは合併しえます。小児科領域だけの問題と捉えてしまうと、成人例での診断が遅れます。


これらの盲点を頭に入れておくことで、実際の症例に直面したときに「まずMASを除外する」という思考ルーティンが自然に働くようになります。フェリチン急騰+血球減少の組み合わせが見えたとき、その情報が診断への最短距離です。