ニューキノロンの適応症と副作用について

ニューキノロン系抗菌薬は幅広い細菌に有効な人工合成抗菌薬です。適応症や作用機序、注意すべき副作用について詳しく解説します。現在も医療現場で頻用される理由とは?

ニューキノロンの基礎知識

ニューキノロンの特徴
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人工合成抗菌薬

キノロン構造を基に合成された広域スペクトラム抗菌薬

🎯
DNAジャイレース阻害

細菌のDNA複製を阻害し殺菌的に作用

💊
優れた組織移行性

肺や前立腺など様々な臓器に良好に移行

ニューキノロンの定義と化学構造

ニューキノロンは、人工合成された抗菌薬の系列の一つで、キノロンの構造を原型として開発された薬物群です 。化学構造からフルオロキノロンとも称され、6位にフッ素原子、7位に塩基性側鎖を持つことが特徴です 。最初に開発されたニューキノロンは1984年のノルフロキサシンで、その後多くの薬剤が市販されています 。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%82%AD%E3%83%8E%E3%83%AD%E3%83%B3

 

ニューキノロン系とキノロン系の違いは、ニューキノロン系がピリドカルボン酸骨格にピペラジニル基とフッ素が付加され、キノロン系の60倍の抗菌活性を示すことです 。この構造上の改良により、グラム陽性菌にも活性を持つようになり、使用範囲が大幅に拡大しました 。
参考)https://kanri.nkdesk.com/hifuka/kou7.php

 

ニューキノロンの抗菌メカニズム

ニューキノロンは細菌のDNA複製に不可欠なDNAジャイレースおよびトポイソメラーゼIVの活性を阻害することにより、濃度依存的な殺菌作用を示します 。最近の研究によると、グラム陰性菌ではDNAジャイレース、グラム陽性菌ではトポイソメラーゼIVの働きを阻害することが明らかになっています 。
参考)https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/13-%E6%84%9F%E6%9F%93%E6%80%A7%E7%96%BE%E6%82%A3/%E7%B4%B0%E8%8F%8C%E3%81%8A%E3%82%88%E3%81%B3%E6%8A%97%E8%8F%8C%E8%96%AC/%E3%83%95%E3%83%AB%E3%82%AA%E3%83%AD%E3%82%AD%E3%83%8E%E3%83%AD%E3%83%B3%E7%B3%BB

 

この阻害メカニズムは、キノロンとDNAとジャイレース/トポイソメラーゼIVが複合体を形成することで殺菌作用が生じるものです 。キノロン薬の構造活性相関研究により、ノルフロキサシンで導入した6位のフッ素が抗菌力とDNAジャイレース阻害作用に大きく関与することが明らかになっています 。
参考)https://www.chemotherapy.or.jp/journal/jjc/05306/053060349.pdf

 

ニューキノロンの薬理学的特性

ニューキノロン系抗菌薬は濃度依存的により強く抗菌作用が発現されるため、時間依存性のβ-ラクタム系薬やマクロライド系薬とは異なる薬物動態学的特徴を持ちます 。広域スペクトルの抗菌薬として、肺や尿道、呼吸器、胆道、前立腺など組織への移行性が優れているのが特徴です 。
参考)https://www.nobuokakai.ecnet.jp/nakagawa151.pdf

 

フルオロキノロンは、グラム陰性菌および陽性菌、マイコプラズマ、クラミジア等、幅広い抗菌スペクトルを示すとともに、代謝に安定で良好な組織移行性を示します 。経口投与が可能で、比較的副作用が少ないとされて頻用されてきました 。
参考)https://jvma-vet.jp/mag/07105/a4.pdf

 

ニューキノロンの分類と世代

ニューキノロンは開発順序に応じて世代分類されており、前期ニューキノロンと後期ニューキノロンに大別されます 。バクシダール、シプロキサン、タリビッドの3種は前期のニューキノロンであり、他の後期ニューキノロンに比べると抗菌活性が弱いとされています 。
クラビット以降のニューキノロン系では肺組織移行性が改善され、呼吸器感染症肺炎球菌など)に使用できるようになりました 。レスピラトリーキノロン系抗菌薬として、肺炎の原因菌として最も頻度の高い肺炎球菌に強い抗菌活性を有し、マイコプラズマやクラミジア、レジオネラなどの異型肺炎の原因微生物にも有効です 。
参考)https://www.radionikkei.jp/kansenshotoday/__a__/kansenshotoday_pdf/kansenshotoday-150513.pdf

 

ニューキノロンの耐性機構と交差耐性

ニューキノロンの耐性獲得は比較的容易で、一塩基置換で耐性化が可能です 。これはジャイレース/トポイソメラーゼIVがキノロンと複合体形成する部分の構造がほんの少し変化するだけで複合体が形成されなくなるためです 。
参考)https://antibacterial-tests-for-animals.com/column/%E7%AC%AC%E4%B8%83%E5%9B%9E%EF%BC%9Astop%E8%80%90%E6%80%A7%E5%8C%96%EF%BC%81%EF%BC%81%E3%82%AD%E3%83%8E%E3%83%AD%E3%83%B3%E7%B3%BB%E8%96%AC%E3%81%A8%E3%81%AE%E4%B8%8A%E6%89%8B%E3%81%AA%E4%BB%98/

 

主要な耐性機構には、標的酵素(DNAジャイレースおよびトポIV)変化による耐性と膜透過性変化(取り込み低下、排出系の亢進)があります 。交差耐性があるため、一つのニューキノロン系抗菌薬使用で他のニューキノロン系薬にも効かなくなる危険があり、急速に耐性化が進む可能性があります 。
キノロン系薬の耐性機構研究の詳細な解析結果

ニューキノロンの適応症

ニューキノロンの呼吸器感染症への適応

ニューキノロンは呼吸器感染症領域において頻繁に使用される抗菌薬です 。適応症には肺炎、肺膿瘍、慢性呼吸器病変の二次感染、急性気管支炎などがあります 。レスピラトリーキノロンは肺炎球菌、インフルエンザ菌、クレブシエラ、黄色ブドウ球菌などの肺炎原因菌に有効で、マイコプラズマ、クラミジア、レジオネラなどの異型肺炎の原因微生物にも効果を示します 。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00068277.pdf

 

市中肺炎ガイドラインでは、慢性の呼吸器疾患を有している患者、最近抗菌薬を使用した患者、ペニシリンアレルギーのある患者で細菌性肺炎が疑われる場合の外来治療にレスピラトリーキノロン系経口薬が推奨されています 。細菌性と異型病原体の両方に有効な経口抗菌薬はキノロン系抗菌薬しかなく、市中肺炎患者の外来治療において最適な抗菌薬選択とされています 。

ニューキノロンの適応疾患と効果

ニューキノロン系抗菌薬の適応症は多岐にわたり、呼吸器系では咽頭・喉頭炎、扁桃炎(扁桃周囲炎、扁桃周囲膿瘍を含む)、中耳炎副鼻腔炎が含まれます 。皮膚科領域では表在性皮膚感染症、深在性皮膚感染症、リンパ管・リンパ節炎に対しても使用されます 。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00002357.pdf

 

未変化体で腎臓から排泄される薬剤が多いことから、膀胱炎をはじめとした尿道感染症、大腸菌が原因の腸管感染症に用いる抗生物質の第一選択薬となっています 。また、結核菌に対しても効果があるため、結核治療においても重要な位置を占めています 。
参考)https://yakuyomi.jp/career_skillup/skillup/02_022/

 

ニューキノロンの小児への適応制限

多くのニューキノロン薬は幼弱動物への関節障害が認められたことが理由で小児への適応が認められておらず、現在大きな制限があります 。ノルフロキサシン(NFLX)は2002年3月、世界で初めて小児への適応が承認されています 。
参考)https://www.kansensho.or.jp/sisetunai/kosyu/pdf/q073.pdf

 

承認の根拠は、各種キノロン薬の中でNFLXが幼弱動物に関節障害を最も起こしにくかったこと、NFLXは高用量では幼弱動物に関節障害を起こすが、その濃度は小児のNFLX経口投与時の血中濃度より高いレベルであったことです 。耐性菌治療を目的とした小児へのニューキノロン薬の投与では、他の系統の抗菌薬では臨床効果が期待できず予後不良が見込まれる場合に限定されています 。

ニューキノロンの使用上の注意点

ニューキノロンの使用にあたっては、耐性菌の発現等を防ぐため、原則として感受性を確認し、疾病の治療上必要な最小限の期間の投与にとどめることが重要です 。感冒や扁桃腺炎、急性気管支炎などの気道感染症にキノロン系抗菌薬を選択することを適正化する理由はなく、適切な使用が求められます 。
肺炎以外の上気道感染症への不適切な使用により耐性菌の増加が懸念されており、広域で殺菌力の強いニューキノロン系薬をエンピリック治療の第一選択薬としない基本的な考え方が示されています 。結核の鑑別が重要で、2週間を超える咳嗽・喀痰を伴う場合には初回に喀痰の抗酸菌培養を提出する必要があります 。
呼吸器感染症における経口キノロン薬の適正使用指針

ニューキノロンの副作用

ニューキノロンの重篤な副作用と警告強化

2016年7月26日にアメリカ合衆国食品医薬品局(FDA)はニューキノロンの副作用の警告を強化しました 。腱炎や腱断裂(全ての年代で)、関節痛、筋痛、末梢神経障害(針で刺すような痛み)、中枢神経系への影響(幻覚、不安、うつ病、不眠、重度の頭痛、混乱)と関連が判明しています 。
これらの副作用は使用開始から数日以内、または使用後数カ月以内に発現し、不可逆的な場合もあるとされています 。特に高齢者でアキレス腱断裂を起こす場合があり、関節毒性として動物実験で関節異常が認められているため、小児投与は多くが禁忌とされています 。

ニューキノロンの血糖異常と低血糖

ニューキノロン系抗菌薬による血糖異常、特に低血糖は重要な副作用の一つです 。ガチフロキサシンで起こりやすく、世界的に販売中止されています 。エノキサシン、塩酸ロメフロキサシンの投与中に重篤な低血糖を発現した症例が報告されており、血糖値は11~27mg/dlと異常低値を示しています 。
参考)https://www.umin.ac.jp/fukusayou/adr117b.htm

 

報告された症例では多量の発汗、意識障害や痙攣等の重い低血糖症状が認められ、年齢は69~83歳といずれも高齢者で、4例が血液透析を受けている慢性腎不全患者でした 。腎機能低下時に生ずるニューキノロン系薬の副作用には、腎機能悪化、低血糖、複視、中枢神経症状(めまい、ふらつき、けいれん)などがあります 。
参考)https://www.min-iren.gr.jp/news-press/news/20180206_34158.html

 

ニューキノロンによる痙攣と中枢神経系への影響

ニューキノロン系抗菌薬による痙攣は副次的な薬理作用による副作用です 。GABAを介する神経抑制作用が障害されると、中枢神経細胞の興奮が増大し痙攣が誘発されます 。ニューキノロン系抗菌薬による痙攣誘発は、中枢内GABA受容体に対するGABAの特異的結合を阻害することによると考えられています 。
参考)https://www.goodcycle.net/fukusayou-kijyo/0042/

 

エノキサシン、ノルフロキサシン、シプロフロキサシンといった遊離のピペラジニル基を有するものはGABA受容体を特に強く障害します 。血中濃度や中枢内濃度の異常な上昇による急性中毒症状と考えられ、患者背景として腎機能低下、大量投与、痙攣素因があげられます 。NSAIDsの共存により特異的結合の阻害作用が劇的に増強されることが報告されています 。
参考)https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1c25.pdf

 

ニューキノロンのその他の特徴的副作用

ニューキノロンに比較的特徴的な副作用として、横紋筋融解症があげられます 。これを発症すると、筋肉のタンパク質の1種であるミオグロビンの分解産物の血中濃度上昇が起き、急性腎不全などの重篤な有害作用に至る場合があります 。
光線過敏症は特にスパルフロキサシンで起こりやすく、皮膚の症状として報告されています 。消化器系の症状は中でも最も頻度が高いとされていますが、他の抗菌薬と比較して特に多いわけではありません 。過去5年間の副作用モニター報告では、grade2以上の肝障害が9件、血小板減少・白血球減少などの副作用が5件報告されています 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/fpj/130/4/130_4_287/_pdf

 

厚生労働省による重篤副作用疾患別対応マニュアル(ニューキノロン系抗菌薬による痙攣)

ニューキノロン使用時の注意とモニタリング

ニューキノロンによるショック、アナフィラキシーの発生を確実に予知できる方法がないため、事前に既往歴等について十分な問診を行うことが重要です 。大半の症例が数日以内に回復し、予後は良好で、原因薬剤の服薬を中止し一旦軽快すれば、再発や後遺症は認められません 。
参考)https://www.kyorin-pharm.co.jp/prodinfo/medicine/pdf/a_lasvic_int.pdf

 

パズフロキサシンでは低血糖症状と白血球減少症、肝障害の副作用が報告されており、投与開始後9日目に白血球数が1600まで低下し、血糖は35と低下した症例があります 。投与中止後3日で白血球数は6500、血糖は219まで上昇し、他に原因と考えられる併用薬はなく、薬剤による可能性が高いとされています 。