5類感染症は感染症法において国民の健康に影響を与える可能性がある感染症として位置づけられています。その中でも全数把握対象疾患は、感染拡大防止を図ることが必要で、発生数が少なく定点方式での正確な傾向把握が不可能な疾患群です。
現在24の疾患が指定されており、以下のような特徴があります。
これらの疾患は大きく以下のカテゴリーに分類できます。
細菌感染症
薬剤耐性菌感染症
寄生虫・原虫感染症
その他の感染症
各疾患の報告基準と診断の手引きについて詳細を知りたい場合。
厚生労働省感染症法類型別疾患一覧
劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS)は、主にA群溶血性レンサ球菌(GAS)による急激に進行する重篤な感染症です。致死率が30%を超える緊急性の高い疾患として位置づけられています。
主な症状
初期症状は非特異的ですが、急激に重篤化するのが特徴です。
特徴的な皮膚症状として以下が見られます。
治療薬と治療戦略
STSSの治療は時間との勝負であり、早期診断・早期治療が生存率を大きく左右します。
第一選択薬
ペニシリンとクリンダマイシンの併用療法は、ペニシリン単独療法と比較して明らかな生存率の改善が認められています。クリンダマイシンには毒素産生抑制効果があり、STSSの病態改善に重要な役割を果たします。
代替薬
支持療法
治療期間は通常10~14日間ですが、重症度により延長することがあります。早期診断のためのGAS迅速抗原検査や血液培養の実施が重要です。
侵襲性感染症には、侵襲性インフルエンザ菌感染症、侵襲性髄膜炎菌感染症、侵襲性肺炎球菌感染症が含まれます。これらは無菌部位(血液、髄液、胸水など)から病原体が検出される重篤な感染症です。
侵襲性インフルエンザ菌感染症
主にインフルエンザ菌b型(Hib)による感染症で、Hibワクチン導入後は発生数が大幅に減少しましたが、依然として重要な疾患です。
症状。
治療薬。
侵襲性髄膜炎菌感染症
髄膜炎菌による急性感染症で、髄膜炎型と敗血症型(Waterhouse-Friderichsen症候群)があります。
症状。
治療薬。
侵襲性肺炎球菌感染症
肺炎球菌による重篤な感染症で、高齢者と小児で分けて報告されています。
症状。
治療薬。
薬剤耐性の頻度が高いため、感受性結果に基づく治療選択が重要です。
髄膜炎の場合はステロイド(デキサメタゾン)の併用が推奨されます。
侵襲性感染症の診断と治療に関する詳細なガイドライン。
東京都感染症情報センター疾患別情報
5類全数把握対象疾患には重要なウイルス性感染症が含まれており、それぞれ特徴的な症状と治療戦略があります。
ウイルス性肝炎(B型・C型肝炎)
急性ウイルス性肝炎として報告される疾患で、慢性例は除外されます。
B型急性肝炎の症状。
治療薬。
C型急性肝炎の治療。
麻しん(麻疹)
麻しんウイルスによる急性感染症で、合併症により重篤化することがあります。
症状の経過。
治療薬。
風しん
風しんウイルスによる急性感染症で、妊娠初期の感染が先天性風しん症候群を引き起こします。
症状。
治療薬。
先天性風しん症候群(CRS)
妊娠初期の風しん感染により胎児に生じる先天異常です。
主要症状(古典的三徴候)。
その他の症状。
治療。
急性脳炎
様々なウイルスによる急性脳炎が対象となります(特定のものを除く)。
症状。
治療薬。
薬剤耐性菌感染症は現代医療における重要な課題であり、適切な診断と治療戦略が求められます。5類全数把握対象疾患には4つの重要な薬剤耐性菌感染症が含まれています。
カルバペネム耐性腸内細菌目細菌感染症(CRE感染症)
カルバペネム系抗菌薬に耐性を示す腸内細菌目細菌による感染症で、医療関連感染として問題となっています。
病原菌。
症状。
感染部位により多様な症状を呈します。
治療戦略。
薬剤感受性試験の結果に基づく適切な抗菌薬選択が重要です。
第一選択薬。
新規薬剤。
バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌感染症(VRSA感染症)
バンコマイシンに耐性を示す黄色ブドウ球菌による感染症で、日本での報告例は極めて稀です。
症状。
治療薬。
バンコマイシン耐性腸球菌感染症(VRE感染症)
バンコマイシンに耐性を示す腸球菌による感染症で、院内感染対策が重要です。
主な病原菌。
症状。
治療薬。
薬剤耐性アシネトバクター感染症
多剤耐性アシネトバクター・バウマニーによる感染症で、集中治療室での感染が問題となります。
症状。
治療戦略。
極めて限られた治療選択肢しかないため、感染予防が最重要です。
使用可能な薬剤。
新規治療選択肢。
感染制御対策
薬剤耐性菌感染症の管理には以下の対策が不可欠です。
薬剤耐性対策の詳細について。
厚生労働省感染症法対象感染症分類
5類全数把握対象疾患の診療においては、迅速な診断と適切な治療開始が患者予後を大きく左右します。医療従事者として押さえておくべき実践的なポイントを整理します。
診断のポイント
早期診断のための重要な要素。
特に注意すべき患者群。
検査の優先順位
緊急性に応じた検査の優先順位。
治療開始のタイミング
疾患別治療開始の目安時間。
抗菌薬選択の原則
適切な抗菌薬選択のための考慮事項。
モニタリングと治療効果判定
治療効果の評価指標。
治療変更を考慮する状況。
院内感染対策と報告義務
感染制御措置。
報告の流れと注意点。
患者・家族への説明と配慮
インフォームドコンセントのポイント。
心理的ケア。
これらの実践的ポイントを押さえることで、5類全数把握対象疾患に対する適切な診療が可能となります。常に最新の診療ガイドラインを参照し、多職種チームでの連携を心がけることが重要です。
5類感染症全数把握疾患の最新情報と診療指針。
神奈川県衛生研究所疾患別情報