帯状疱疹は基本的に生命を脅かす疾患ではありません。国立感染症研究所のファクトシートによると、ドイツで行われた調査では50歳以上の帯状疱疹関連死亡率は年間平均66人で、死亡率は0.21(0.16~0.26)/10万人・年と報告されています。オーストラリアでは50歳以上の死亡例で帯状疱疹が診断名として記録されていたのは129人で、死亡率は0.27/10万人・年、スウェーデンでは男性0.26/10万人・年、女性でも同程度と極めて低い数値です。
参考)https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001328135.pdf
日本医師会などによる調査では、2009年からの3年間で帯状疱疹の入院例は約1万8,000人に対し、死亡したのはわずか3人で、そのほとんどが基礎疾患を抱えた患者でした。帯状疱疹診断後3か月間の死亡の寄与危険は0.04%(95%CI: 0.03~0.05)と非常に低く、入院の寄与危険も0.97%程度です。これらのデータから、健常者が帯状疱疹で死亡する可能性は極めて稀であることがわかります。
参考)「一生に一度だけ?」「体を一周したら…死⁉」“帯状疱疹”気に…
「帯状疱疹が体を一周すると死ぬ」という言い伝えは医学的根拠のない迷信です。増田医院の解説によると、この俗説は一般的に広まっているものの、通常の帯状疱疹でそのような状態になることはありません。帯状疱疹は水痘・帯状疱疹ウイルスが脊髄神経節に潜伏しており、再活性化した際に神経の走行に沿って片側性に発疹が出現する特徴があります。
参考)名古屋市近郊海部郡蟹江町 増田医院 ペインクリニック・内科・…
静岡新聞の取材で専門医は「基本的には左右どちらかに出る。さすがに(一周回って死ぬことは)ないと思う」と明言しています。ただし、ウイルス量が多いと汎発性帯状疱疹といって体のいろいろな場所に出ることもありますが、これは本当にまれなケースです。この汎発性帯状疱疹が「一周回る」と誤解されている可能性がありますが、汎発性であっても適切な治療により多くの患者は回復します。
帯状疱疹で死亡に至る症例は極めて稀ですが、特定の条件下では重症化のリスクが高まります。日本小児科学会の調査では、帯状疱疹による重篤症例は72名で、脳炎・髄膜炎3名、神経炎5名、顔面神経麻痺・難聴24名、全身状態の悪化40名が報告されています。死亡例としては、90歳男性が腎癌・腎不全・心不全・高血圧の既往があり、帯状疱疹罹患後に心不全・腎不全が悪化して死亡した事例が記録されています。
参考)https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/saisin_120921_3.pdf
免疫不全状態では帯状疱疹は重篤化し汎発性帯状疱疹を引き起こします。全身性エリテマトーデスや非ホジキンリンパ腫などの既往があり免疫抑制薬を内服中の患者では、腹痛が皮疹に先行し臓器障害を伴う内臓播種先行型の汎発性帯状疱疹を発症する症例もあります。タイの病院の報告では、重症例で聴力障害、失明、脳の感染症、肺炎、肺の感染症を引き起こし、死亡に至ることもあると指摘されています。
帯状疱疹自体による死亡は稀ですが、帯状疱疹後神経痛(PHN)は患者の生活の質を著しく低下させる深刻な合併症です。加齢とともにPHNへの移行リスクは高くなり、50歳以上の患者の約2割が移行すると報告されています。PHNはウイルスが神経を傷つけることによって引き起こされ、皮膚の症状が消失した後も3か月以上痛みが持続する状態を指します。
参考)帯状疱疹の合併症と後遺症
痛みの性質は刺すような痛み、焼けるような痛み、電気が走るような痛みなど多彩で、軽い接触でも激痛を感じるアロディニアを伴う場合もあります。発疹が出る前から痛みがみられたり、免疫機能が低下する疾患を持つ人はPHNになりやすく、感覚異常の程度は強く広範囲に及び、アロディニアによる痛みも激しくなります。慢性化したPHNは難治性であり、抗うつ・抗不安薬、イオントフォレーシス、神経ブロック、レーザー、鍼灸治療など様々な治療をきめ細かく組合せる必要があります。
帯状疱疹ワクチンは単なる発疹予防にとどまらず、心血管疾患や死亡リスクの低減にも効果があることが最新研究で示されています。米ケース・ウェスタン・リザーブ大学医学部の研究では、帯状疱疹ワクチン接種により心筋梗塞や脳卒中のリスクが25%低下し、死亡リスクが21%低下することが報告されました。この研究は米国感染症学会年次総会(IDWeek 2025)で発表され、帯状疱疹が心臓や脳に深刻な問題を引き起こすリスクを高める可能性を示唆しています。
参考)帯状疱疹ワクチンは心臓病、認知症、死亡リスクの低減にも有効 …
水痘・帯状疱疹ウイルスは数十年間にわたって人の免疫システム内に潜伏し、再活性化することで全身の炎症反応を惹起します。この慢性炎症が血管内皮障害や動脈硬化の進展を促進し、心血管イベントのリスクを高めると考えられています。特に心筋梗塞や脳卒中のリスクがすでに高い人において、ワクチン接種によるリスク低下効果が顕著であることから、帯状疱疹予防は単なる皮膚疾患対策を超えた包括的な健康管理戦略として位置づけられます。
厚生労働省・国立感染症研究所の帯状疱疹ワクチンファクトシート(第2版)では、疫学データや予防接種の効果について詳細な情報が提供されています
帯状疱疹は免疫不全状態で著しく重症化します。小児例では特に悪性腫瘍や免疫不全等の基礎疾患の存在を念頭に置いた精査が必要です。重症あるいは遷延化を示す帯状疱疹では、原発性免疫不全症候群(immunoglobulin deficiency with increased IgM)などの存在が見いだされる場合があります。全身性エリテマトーデスや非ホジキンリンパ腫の既往があり免疫抑制薬ミゾリビンを内服中の患者では、汎発性帯状疱疹が発症し、心窩部痛が皮疹に先行して腹腔動脈病変を伴う重篤な経過をたどることがあります。
参考)心窩部痛が皮疹に先行し腹腔動脈病変を認めた汎発性帯状疱疹の1…
HIV感染者、臓器移植後の患者、化学療法中の悪性腫瘍患者なども高リスク群です。これらの患者では水痘・帯状疱疹ウイルスに対する細胞性免疫が著しく低下しており、ウイルスの増殖が制御できず播種性の病態に進展する危険があります。ボルテゾミブなどの抗がん剤治療時には帯状疱疹発症率が上昇するため、抗ウイルス薬の予防投与が検討されます。小児悪性腫瘍患児では水痘・帯状疱疹ウイルス感染症の重症化リスクが高く、アシクロビル血中濃度のモニタリングを伴う適切な投与方法の確立が重要です。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/48b6682c2a58a5c286d5bf45d8516aa9c876607b
帯状疱疹では運動神経が傷つくことで腕の麻痺や排尿障害などの重篤な合併症が発生することがあります。水痘・帯状疱疹ウイルスは感覚神経のみならず、同一脊髄レベルの運動神経にも波及し、神経細胞の変性・壊死を引き起こします。運動神経障害は帯状疱疹患者の約5%に認められ、発疹出現から数日~数週間後に筋力低下や麻痺として顕在化します。
上肢の帯状疱疹では三角筋・上腕二頭筋・手指伸筋などの麻痺が生じ、下肢では腓腹筋・前脛骨筋・大腿四頭筋などが侵されます。仙髄領域の帯状疱疹では膀胱・直腸の自律神経支配が障害され、尿閉・尿失禁・便秘などの排尿排便障害をきたします。これらの運動麻痺や自律神経障害は、感覚障害や疼痛に比べて回復が遅く、リハビリテーションを要する場合も少なくありません。早期の抗ウイルス薬投与により神経障害の程度を軽減できる可能性があるため、発症早期の診断と治療開始が極めて重要です。
帯状疱疹が頭頸部に発症した場合、重篤な感覚器障害を引き起こす危険があります。日本小児科学会の調査では、帯状疱疹による重篤症例72名のうち、顔面神経麻痺・難聴が24名と最も多く報告されています。三叉神経第一枝領域の帯状疱疹(眼部帯状疱疹)では、角膜炎・ぶどう膜炎・網膜炎などを合併し、視力障害から失明に至る可能性があります。
ラムゼイ・ハント症候群は顔面神経膝神経節の水痘・帯状疱疹ウイルス再活性化により、耳介周囲の帯状疱疹・顔面神経麻痺・内耳障害(難聴・めまい)の三徴を呈します。ウイルスによる神経節と神経線維の炎症・浮腫が顔面神経管内で圧迫を引き起こし、神経の虚血性変化から麻痺が生じます。内耳神経への波及により感音性難聴や前庭機能障害が発生します。早期にアシクロビルなどの抗ウイルス薬とステロイドを併用することで、顔面神経麻痺の回復率が向上することが知られています。眼部帯状疱疹では眼科専門医による精査と治療が不可欠であり、角膜潰瘍や続発性緑内障などの合併症予防が重要です。
帯状疱疹は中枢神経系の合併症として脳炎・髄膜炎・脳血管障害を引き起こすことがあります。日本小児科学会の調査では脳炎・髄膜炎が3名報告されており、重篤な神経学的後遺症として運動麻痺・意識障害・てんかんが残る場合があります。水痘・帯状疱疹ウイルスは血行性あるいは神経軸索を介して中枢神経系に到達し、脳実質や髄膜に炎症を惹起します。
特に注目すべきは帯状疱疹と脳血管障害の関連です。三叉神経第一枝領域の眼部帯状疱疹では、ウイルスが内頸動脈や中大脳動脈周囲に波及し、肉芽腫性血管炎を引き起こすことで脳梗塞のリスクが上昇します。帯状疱疹発症後数週間から数か月の間、特に免疫不全患者や高齢者では脳卒中リスクが有意に高まるという疫学的証拠があります。前述の研究では、帯状疱疹ワクチン接種により脳卒中リスクが25%低下することが示されており、帯状疱疹とその後の血管イベントの関連性を裏付けています。帯状疱疹患者、特に頭部領域の発症例では神経学的モニタリングと早期の神経画像検査が推奨されます。
汎発性帯状疱疹は免疫不全状態で発症する重篤な病態で、通常の皮膚分節を超えて全身に水疱が散在する状態を指します。診断基準として、原発の皮膚病変に加えて20個以上の水疱が他の皮膚分節や粘膜に出現する場合に汎発性と定義されます。この病態は体の何カ所かに帯状疱疹が出現するため、俗説の「体を一周する」状態と誤解されることがありますが、実際には複数の神経分節に同時多発的にウイルスが再活性化している状態です。
参考)301 Moved Permanently
汎発性帯状疱疹の予後を左右する因子として、基礎疾患の種類と重症度、発症時のCD4陽性Tリンパ球数、ウイルス血症の程度、内臓播種の有無が挙げられます。内臓播種先行型では皮疹出現前に腹痛などの臓器障害症状が先行し、肝炎・肺炎・脳炎などの臓器障害を合併する危険が高まります。治療はアシクロビルの静脈内投与が基本で、免疫不全の程度によっては用量を増やし投与期間を延長する必要があります。早期診断と積極的な抗ウイルス療法により、かつては致死的であった汎発性帯状疱疹の予後は著しく改善していますが、依然として重症感染症として慎重な管理を要します。
帯状疱疹の合併症と後遺症について、主要な合併症の種類と発生機序の詳細な解説が提供されています
帯状疱疹の初期症状は体の片側に限局した痛み・違和感から始まります。この前駆痛はピリピリ、チクチクとした神経痛様の痛みで、皮膚の知覚異常(しびれ、かゆみ)を伴います。重要なのは、この痛みや違和感が皮疹出現の数日~1週間前から現れることです。この時点でクリニックを受診すると早期治療に取り組むことができます。
参考)帯状疱疹の初期症状を見逃さないために:画像で学ぶ早期発見のポ…
初期段階では見た目に皮膚の変化がなく、筋肉痛や神経痛と勘違いされることが少なくありません。鑑別すべき疾患として、肋間神経痛、胆石症、心疾患、腰部神経根症などが挙げられます。胸部・腹部の帯状疱疹は最も頻度が高く、肋間神経に沿った片側の痛みとして現れ、胸痛として感じられることが多いため心疾患や胆石症と間違われることがあります。診断のポイントは、痛みが片側性であること、神経支配領域に一致した分布を示すこと、数日後に同部位に紅斑や水疱が出現することです。軽度の発熱や全身倦怠感、リンパ節の腫れを伴うこともあります。
参考)帯状疱疹とは?原因や初期症状、治療法を解説【新宿駅前IGA皮…
帯状疱疹の治療では抗ウイルス薬の早期全身投与が基本です。外来ではバラシクロビル、ファムシクロビル、アメナメビルが主に使用されます。これらの抗ウイルス薬は水痘・帯状疱疹ウイルスが活性化して活発に増えている段階でウイルスのDNA合成を妨げることで、ウイルスの増殖を抑える働きをします。効果が出始めるまでには2~3日程度の時間がかかることに注意が必要で、それまでは帯状疱疹ウイルスは皮膚や神経でどんどん増殖し続けます。
アメナメビル、アシクロビル、バラシクロビル、ファムシクロビルが代表的な帯状疱疹に対する抗ウイルス薬です。アメナメビルは新しいクラスのヘリカーゼ・プライマーゼ阻害薬で、1日1回の投与で効果を発揮し、発疹出現後4日目までに新規病変形成が停止する割合が81%と高い有効性を示しています。バラシクロビルは1日3回、ファムシクロビルは1日3回の服用が必要ですが、いずれも高い抗ウイルス効果を有しています。重症例や免疫不全では点滴治療が検討され、アシクロビルやビタラビンの静注が行われます。腎機能評価は安全な治療の前提条件であり、腎機能低下例では用量調整が必須です。
参考)帯状疱疹に対する抗ウイルス薬の使い分け|内服・点滴・腎機能ま…
帯状疱疹後神経痛(PHN)への移行を予防するためには、急性期から十分な疼痛管理が極めて重要です。神経ブロック療法を行い、急性期から痛みを十分にコントロールすることが重要で、局所麻酔薬で一時的に神経を休ませ、痛みの悪循環を遮断します。神経ブロック療法は発疹や水泡の治癒を早め、PHNへの移行を予防する効果があります。
参考)かわたペインクリニック
顔・頭・手の帯状疱疹には星状神経節ブロックが、体幹の帯状疱疹には硬膜外神経ブロックが行われます。硬膜外神経ブロックを週1回継続して行うことで、刺し込むような激痛が飛躍的に軽快し日常生活に支障のない程度にまで回復する症例が報告されています。薬物療法では、抗ウイルス薬に加えて鎮痛薬が処方されます。NSAIDsなどの一般的な鎮痛薬のほか、神経障害性疼痛に効果のある鎮痛補助薬(プレガバリン、ガバペンチンなどの抗てんかん薬、デュロキセチンなどのSNRI)、必要に応じてオピオイド鎮痛薬が使用されます。急性期の適切な疼痛管理により、PHN発症率を有意に低下させることが複数の研究で示されています。
ほとんどの帯状疱疹は外来治療が可能ですが、以下のような場合には入院治療が必要となります。重症例や免疫不全では点滴治療が検討されます。具体的な入院適応として、①汎発性帯状疱疹、②眼部帯状疱疹で重篤な眼合併症を伴う場合、③ラムゼイ・ハント症候群、④中枢神経系合併症(脳炎・髄膜炎)が疑われる場合、⑤経口摂取困難な重度の痛みや嘔吐を伴う場合、⑥免疫不全患者での発症、⑦全身状態が不良な高齢者などが挙げられます。
入院治療ではアシクロビルの点滴静注が基本で、通常成人では1回5~10mg/kgを8時間ごとに投与します。免疫不全患者では用量を増量し、投与期間も7~14日間と延長する必要があります。ビタラビンも重症例に使用される静注用抗ウイルス薬です。疼痛管理には硬膜外カテーテル留置による持続的神経ブロックや、PCA(patient-controlled analgesia)ポンプを用いたオピオイド持続投与などが行われます。免疫不全患者では二次感染のリスクも高いため、抗菌薬の併用や厳重な皮膚管理も重要です。全身管理とともに、眼科・耳鼻科・神経内科など関連診療科との連携による集学的治療が予後改善につながります。
参考)帯状疱疹の治療
抗ウイルス薬による帯状疱疹治療では腎機能評価が安全性の前提条件です。アシクロビル、バラシクロビル、ファムシクロビルはいずれも主に腎臓から排泄されるため、腎機能低下例では血中濃度が上昇し、中枢神経系の副作用(意識障害、錯乱、幻覚、けいれんなど)や腎機能障害を引き起こすリスクが高まります。
治療開始前には必ず血清クレアチニン値を測定し、推算糸球体濾過量(eGFR)を算出して腎機能を評価します。腎機能に応じた用量調整が必要で、例えばバラシクロビルでは、eGFR 30~49 mL/min/1.73m²では1回1000mgを12時間ごと、eGFR 10~29では1回1000mgを24時間ごと、eGFR<10では1回500mgを24時間ごとに減量します。高齢者では生理的な腎機能低下があるため、血清クレアチニン値が正常範囲内でも実際のeGFRは低下していることが多く、注意が必要です。アメナメビルは主に肝代謝を受けるため腎機能による用量調整が不要という利点があり、腎機能低下例での使用が増えています。抗ウイルス薬投与中は脱水を避け、十分な水分摂取を指導することも重要です。
参考)帯状疱疹の治療
帯状疱疹の治療について、抗ウイルス薬の種類や鎮痛薬、治療開始のタイミングなど詳細な情報が提供されています
日本では帯状疱疹の予防接種として「生ワクチン」と「不活化ワクチン」の2種類が使用されています。2016年に認可された弱毒生水痘ワクチンと2020年に認可されたシングリックス®があります。生ワクチンは1回接種で済み、予防効果は約50%程度、持続期間は約5年とされています。一方、シングリックス®は2か月間隔で2回接種が必要ですが、予防効果は90%以上と極めて高く、効果の持続期間も10年以上と長期にわたります。
参考)帯状疱疹ワクチンの種類と費用・副反応について解説【定期接種】…
シングリックス®は50歳以上で97.2%、70歳以上でも91.3%という高い有効性を示し、帯状疱疹後神経痛の予防効果も88.8%と優れています。生ワクチンは弱毒化した生きたウイルスを使用するため、免疫抑制状態にある人(免疫抑制薬使用中、悪性腫瘍治療中など)や妊娠中の人には接種できません。これに対しシングリックス®は不活化ワクチンであるため、免疫抑制状態の人や妊娠中でも接種可能です。費用面では生ワクチンが1回8,000~10,000円程度なのに対し、シングリックス®は2回で44,000~50,000円と高額ですが、その高い予防効果と長期持続性を考慮すると医療経済的にも優れていると評価されています。
参考)帯状疱疹ワクチン(シングリックス/Herpes zoster…
帯状疱疹ワクチンの接種対象は50歳以上とされています。特に以下のような方にはワクチン接種が強く推奨されます。①50歳以上の全ての人、②免疫抑制薬を使用している人(関節リウマチ、炎症性腸疾患、自己免疫疾患など)、③生物学的製剤を使用している人、④悪性腫瘍の既往がある人、⑤糖尿病などの慢性疾患を有する人、⑥過去に帯状疱疹に罹患したことがある人(再発予防)などです。
70歳以上の高齢者では発症リスクが著しく上昇し、1000人あたり年間10人以上が発症し、生涯発症リスクは30~50%にも及びます。接種スケジュールは、生ワクチンは1回皮下注射、シングリックス®は2か月間隔で2回筋肉注射が基本です。シングリックス®の場合、1回目接種から2か月後(遅くとも6か月以内)に2回目を接種する必要があります。副反応として、生ワクチンでは接種部位の発赤・腫脹が約30%に、シングリックス®ではこれらに加えて筋肉痛・倦怠感・頭痛などの全身反応が高頻度(50~70%)に出現しますが、いずれも数日以内に自然軽快します。
ワクチンの選択は患者の状況に応じて行います。とにかく高い予防効果を期待したい場合、長い間予防効果を持続させたい場合、妊娠中や免疫を抑える治療を受けている場合にはシングリックス®が推奨されます。一方、副反応を抑えたい場合、接種回数を1回で抑えたい場合、値段を抑えて予防したい場合には弱毒生水痘ワクチンが選択肢となります。
参考)https://www.isaka-clinic.jp/blog-doctor/2025-05-01/index.html
免疫抑制状態にある患者では生ワクチンは禁忌であるため、必ずシングリックス®を選択する必要があります。患者指導では、ワクチン接種は帯状疱疹の完全な予防を保証するものではなく、発症リスクを大幅に低減させるものであることを説明します。また、ワクチン接種後も帯状疱疹様の症状が出現した場合は速やかに医療機関を受診するよう指導します。過去に帯状疱疹に罹患した人でも再発のリスクがあるため、治癒後少なくとも6か月経過してからのワクチン接種が推奨されます。多くの自治体で帯状疱疹ワクチンの接種費用助成制度が導入されつつあり、患者の経済的負担を軽減できる場合があるため、地域の助成制度について情報提供することも重要です。
参考)帯状疱疹の初期症状を知って早期治療を~回避したいPHN、予防…
帯状疱疹の原因は免疫力の低下です。通常の場合、水痘・帯状疱疹ウイルスの活動は体の免疫力によって抑えられていますが、疲労やストレス、加齢などが原因で免疫力が低下すると、ウイルスが活発化して帯状疱疹の症状を引き起こします。このため、ワクチン接種に加えて日常生活における免疫力維持が予防の鍵となります。
参考)帯状疱疹とは?原因と予防について|コラム|セコム健康くらぶ …
具体的な生活指導として、①十分な睡眠の確保(1日7~8時間)、②バランスの取れた栄養摂取(特にビタミンB群、ビタミンC、亜鉛などの免疫機能に重要な栄養素)、③適度な運動習慣(週3~5回、30分程度の有酸素運動)、④ストレス管理(リラクセーション、趣味の時間確保)、⑤過労を避ける(残業や夜勤の制限)、⑥禁煙(喫煙は免疫機能を低下させる)、⑦適度な飲酒(過度の飲酒は免疫抑制につながる)などを指導します。高齢の方や免疫抑制状態にある患者では、これらの生活習慣改善に加えてワクチン接種を併用することで、帯状疱疹発症リスクを最大限に低減できます。
参考)免疫力の低下が引き金に -帯状疱疹-
帯状疱疹ワクチン接種は単なる個人の疾病予防を超えて、重要な公衆衛生上の意義を持ちます。日本では年間約50万人が帯状疱疹を発症し、50歳以上の入院率は15.7/10万人に達します。帯状疱疹後神経痛への移行率は50歳以上で約20%であり、慢性疼痛による就労困難やQOL低下は患者個人だけでなく社会全体に大きな損失をもたらします。
参考)帯状疱疹について
医療経済分析では、シングリックス®の接種により帯状疱疹関連の直接医療費(外来診療費、入院費、薬剤費)と間接費用(労働損失、介護費用)を合わせた総費用が有意に削減されることが示されています。特に、心筋梗塞や脳卒中のリスクが25%低下し、死亡リスクが21%低下するという付加的効果を考慮すると、ワクチン接種の費用対効果はさらに向上します。認知症発症リスクの低減効果も指摘されており、高齢化社会における総合的な健康寿命延伸戦略として帯状疱疹予防の重要性が高まっています。公的助成制度の拡充により接種率を向上させることは、個人の健康増進と医療費適正化の両面で社会的便益をもたらすと期待されます。
参考)帯状疱疹の治療薬【バラシクロビル、アメナリーフ】について
厚生労働省の帯状疱疹ワクチンに関する公式情報では、ワクチンの種類や接種対象、助成制度などについて詳細が提供されています