視覚障害は、視る機能に障害があり、見ることが不自由または不可能になっている状態を指します。医療従事者として、視覚障害の種類を正確に理解することは、患者への適切なケアとリハビリテーション計画の立案に不可欠です。視覚障害は単一の症状ではなく、複数のタイプに分類され、それぞれ異なる特性と対応が必要です。spaceshipearth+5
視力障害は、視覚障害の中で最も基本的な分類であり、矯正視力が一定レベルまで回復できず、日常生活に困難を感じる状態を指します。視力障害は「全盲」と「弱視」の2つに大別され、全盲は全く視力がなく明暗もわからない状態、弱視は少しの視力はあるが眼鏡をかけても日常生活に困難をきたす低視力の状態を指します。障害等級は視力の程度により1級から6級まで設定されており、両眼が失明した場合は1級、両眼の視力が0.02以下の場合は2級と定められています。tamasapo-office+3
医療現場での視力障害者への対応では、カルテの記載や読解、医療機器の目盛の読み取りなどに困難が生じることが報告されています。特に医療従事者自身が視覚障害を持つ場合、電子カルテの対応や患者の動作観察、リスク管理などが課題となります。視力測定は原則として万国式試視力表によりますが、矯正視力による障害等級の認定では、眼鏡やコンタクトレンズによる矯正後の視力を基準とします。mhlw+1
失明の定義には、眼球を亡失(摘出)したもの、明暗を弁じ得ないもの、ようやく明暗を弁ずることができる程度のものが含まれ、光覚弁または手動弁も失明の範疇に入ります。視力障害者の中には、補助具の使用や周囲のサポート体制の整備により、医師や理学療法士などの医療職を継続している事例も存在します。co-medical.mynavi+2
視野障害は、視力は有しているものの、見える範囲が狭くなったり一部が欠けたりする障害です。視野の異常には、大きく分けて狭窄、半盲、暗点の3つのタイプがあります。求心性視野狭窄は中央部分だけ視野が残る状態、中心暗点は中心部のみ見えなくなる状態、白濁は白くぼやける状態を指します。障害等級では、両眼に半盲症、視野狭窄または視野変状を残すものは9級、1眼に同様の症状を残すものは13級と定められています。kango-roo+2
緑内障は視野障害の主要な原因疾患であり、日本人の緑内障の約70%は正常眼圧緑内障です。緑内障では、視神経が眼圧によって障害され、徐々に視野が狭くなっていきます。初期段階では周辺視野の一部が欠け、片方の目が正常な場合はもう片方の目がカバーするため、自覚症状がほとんどありません。症状が進行すると視野の欠けている部分が増え、視力低下やぼんやり感、夜間の見えにくさなどの症状が現れます。oji-eyeclinic+2
視野障害は、日常生活や職業活動に大きな影響を与えます。特に医療従事者の場合、患者の姿勢や歩行などの動作観察が困難になり、リスク管理や緊急時の対応にも支障が生じます。視野検査では異常が認められないものの、OCT(光干渉断層計)などの画像検査で視神経の障害が確認される「前視野緑内障」という状態も存在し、早期発見のためには定期的な検査が重要です。nivr.jeed+1
色覚異常は、色の識別が困難な状態であり、先天性と後天性に大別されます。先天性色覚異常は遺伝的な原因により3種類の錐体のうちいずれかが生まれつき欠損している、あるいは十分機能しないために起きる色覚異常で、後天性は網膜や視神経の病気の一つの症状として現れます。先天性色覚異常は、1色覚、2色覚、異常3色覚の3つに分類され、それぞれ錐体細胞の機能状態によって細分化されます。haruyama-eye+2
1色覚は3つの錐体のすべてが異常、もしくは3つの錐体のうち1つが正常という状態で、発生頻度は少なく、多くは視力障害を生じます。杆体1色型色覚はすべての錐体が異常で、視力不良で眼振も存在し、以前の全色盲に相当します。2色覚は3つの錐体のうち2つが正常で1つが異常な状態で、以前の色盲に相当します。1型2色覚は赤錐体の欠如、2型2色覚は緑錐体の欠如、3型2色覚は青錐体の欠如を示します。fujitaec+1
異常3色覚は1つの錐体の部分的機能不全で、以前の色弱に相当します。1型色覚は赤を感じる錐体の欠損または機能低下で、赤が薄暗く見え、ピンクと水色の判別が困難です。2型色覚は緑を感じる錐体の機能低下または欠損で、最も多いタイプであり、日本人男性の4%弱を占めます。青と紫、赤と緑、黄緑とオレンジ色、ピンクと灰色の判別が難しいという特性があります。先天性色覚異常に対して有効な治療法は現在ありませんが、後天性の場合は原因を取り除けば改善することがあります。acuvue+3
光覚障害は、光に対する感受性の異常であり、暗順応障害と明順応障害の2つのタイプがあります。暗順応障害は、暗いところでほとんど見えず、夜道などを歩くのに困難を感じる状態で、「夜盲」とも呼ばれます。明順応障害は、光を非常にまぶしく感じたり、明るいと見えにくくなったりする状態で、「羞明」という症状が含まれます。光覚とは光の程度を感じとる機能で、薄暗い光に次第に慣れる現象を暗順応といい、暗順応に支障があると暗いところでは物が見えにくくなります。assdr.kyoto-u+3
網膜色素変性症は光覚障害の代表的な原因疾患であり、日本における中途視覚障害の3大原因の1つです。この疾患は遺伝子変異が原因で網膜の視細胞及び色素上皮細胞が広範に変性する疾患で、初期には夜盲と視野狭窄を自覚します。網膜の視細胞は桿体細胞と錐体細胞の2種類があり、桿体細胞は明るさ・暗さを感知し視野の広さにも関係し、錐体細胞は色やかたちを感知します。桿体細胞から障害が起こる場合が多いですが、錐体細胞から障害が起こる人もいて、最初に色覚の異常や視力が低下してから夜盲を自覚することもあります。medical-h+4
網膜色素変性症の進行は緩徐で個人差が大きく、徐々に進行して老年に至って社会的失明となる例もありますが、生涯良好な視力を保つ例も存在します。緑内障患者においても、低照度での対比感度の低下、羞明症状、暗順応の時間延長や程度の低下などの光覚障害が生じることが研究で明らかになっています。医療現場では、視力低下、霧視、調節障害、色覚障害、夜盲、視野狭窄、暗点、光視症、変視症などが視覚障害の主要症状として認識されており、これらの症状が起こった場合は眼科医に紹介し、診断と症状の程度を確認することが重要です。pmc.ncbi.nlm.nih+4
視覚障害者のリハビリテーションは、医学という狭い領域に限定すべきではなく、包括的なアプローチが必要です。眼科の領域では、「医学的弱視」に対するリハビリテーションが存在し、視能訓練士が眼科医の指示に従って視能矯正と視機能検査を行います。斜視弱視は視能矯正の領域の対象となり、視能訓練士は昭和46年に制定された視能訓練士法に規定された眼科診療の専門職です。低視力ケアは、残存視力を最大限に活用するための支援であり、光学補助具の提供、残存視力の効果的な使用訓練、環境調整のアドバイスなどが含まれます。pmc.ncbi.nlm.nih+2
医療従事者が視覚障害者に対応する際には、特有の配慮が必要です。視覚障害を持つ医療従事者自身の事例では、カルテも読めなくなった場合でも、周りのサポートがある程度得られる環境や診療科を変えることで医師として働き続ける可能性が十分にあることが報告されています。視覚障害をもつ医療従事者の会(ゆいまーる)では、苦労しながらも工夫やサポート体制の整備、病院組織としての理解により医療現場で活躍する事例が紹介されています。yuimaal+1
視覚障害患者の生活の質は、視覚障害の程度、特に両眼性の重度の視野欠損により急速に低下します。緑内障の晩期患者の管理は早期患者よりも多くの医療資源を必要とし、薬物療法と手術療法が治療の選択肢となります。視覚障害者への独自の支援アプローチとして、電子カルテやデジタル機器へのアクセシビリティ向上、音声読み上げソフトの活用、拡大鏡の使用、照明環境の調整などが有効です。また、視覚障害者が外来診療を利用する際の訪問回数が、一般患者よりも少ない傾向があるという研究結果もあり、医療アクセスの改善が課題となっています。pmc.ncbi.nlm.nih+3
国立障害者リハビリテーションセンター「視覚障害者の理解のために」
視覚障害のリハビリテーションに関する包括的な情報が掲載されており、医療従事者向けの参考資料として有用です。
日本眼科医会「よくわかる緑内障―診断と治療―」
視野障害の主要原因である緑内障について、診断から治療まで詳しく解説されています。
難病情報センター「網膜色素変性症」
光覚障害の代表的原因疾患である網膜色素変性症の詳細情報が提供されています。