薬剤性過敏症症候群(Drug-Induced Hypersensitivity Syndrome: DIHS)は、特定の医薬品投与後に発症する重症薬疹であり、発熱、皮疹、多臓器障害を特徴とします。2005年に厚生労働省研究班により確立された診断基準では、典型DIHSと非典型DIHSの2つの病型に分類されています。本疾患の診断には、臨床症状の詳細な観察と血液検査、ウイルス再活性化の確認が不可欠です。dermatol+2
診断基準の主要所見は7項目から構成され、典型DIHSではこれらすべてを満たす必要があります。第一に、限られた医薬品投与後に遅発性に生じ、急速に拡大する紅斑がみられ、しばしば紅皮症に移行します。第二に、原因医薬品中止後も2週間以上症状が遷延することが特徴的です。第三に38℃以上の発熱を伴い、第四に肝機能障害を認めます。takeikouhan+1
血液学的異常として、白血球増多(11,000/mm³以上)、異型リンパ球の出現(5%以上)、好酸球増多(1,500/mm³以上)のうち1つ以上を満たす必要があります。さらにリンパ節腫脹を認め、発症後2~3週間後にHHV-6(ヒトヘルペスウイルス6型)の再活性化を生じることが診断の決め手となります。非典型DIHSでは、主要所見1~5をすべて満たし、肝機能障害の代わりにその他の重篤な臓器障害をもって代えることができます。dermatol+1
原因医薬品として最も頻度が高いのは抗てんかん薬であり、カルバマゼピン、ラモトリギン、フェノバルビタール、フェニトイン、ゾニサミドなどが知られています。次いで高尿酸血治療薬のアロプリノール、バクタ(スルファメトキサゾール/トリメトプリム合剤)、サラゾスルファピリジン、ジアフェニルスルホン(ダプソン)、ミノサイクリンなどが挙げられます。takeikouhan+1
発症までの内服期間は通常2~6週間と長期に渡ることが特徴的で、通常の薬疹と異なる点です。2021年の全国調査では、ラモトリギンは比較的軽症例に多く、アロプリノールは重症例に多い傾向が認められました。病態の中心にはT細胞を主体とする免疫応答とヘルペスウイルスの再活性化という2つの大きな要素が関与しています。pmc.ncbi.nlm.nih+2
特定のHLA(ヒト白血球抗原)タイプと薬剤アレルギーの発症リスクに関連があり、本邦ではHLA-B58:01とアロプリノール、HLA-A31:01とカルバマゼピンの関係が注目されています。制御性T細胞(Treg)とエフェクターT細胞(Teff)のバランスの乱れが、発症までに時間を要することやウイルス再活性化を起こすことに関与していると考えられています。pmc.ncbi.nlm.nih+1
2019年に提案されたDIHS/DRESS重症度判定スコア(DDSスコア)は、初診から3日以内と2~4週にスコアリングを行い、重症度を評価する指標です。固定項目として年齢(40歳未満:-1点、41~74歳:0点、75歳以上:2点)、発症後の被疑薬服用期間(0~6日:0点、7日以上:1点)、アロプリノール内服の有無(あり:1点)があります。knowledge.nurse-senka+1
変動項目としては、皮疹面積(紅斑、びらんの体表面積)、38.5℃以上の発熱期間、食欲低下の日数、腎障害(クレアチニン値)、肝障害(ALT値)、CRP値などが評価されます。スコアが1点未満は軽症、1~3点は中等症、4点以上は重症と層別化され、重症度に応じた治療対応が推奨されます。knowledge.nurse-senka+1
DDSスコアはサイトメガロウイルス(CMV)再活性化や合併症の発症を予測することができ、治療方針の決定に有用です。下肢の紫斑面積がDDSスコアと相関することも示されており、皮膚症状から重症度を予見できる可能性があります。重症度評価は経時的に行い、病勢の変化に応じて治療方針を再考することが重要です。oogaki+1
血液検査では、診断基準にも含まれる異型リンパ球の出現(5%以上)、好酸球増多(1,500/mm³以上)を伴う白血球増多(11,000/mm³以上)、ALT優位の肝酵素上昇が認められます。発症早期には免疫グロブリン(特にIgG)が低下している症例が多く、回復期にかけて増加する傾向があります。dermatol
血清TARC(Thymus and Activation-Regulated Chemokine)は急性期に異常高値となることが多く、早期診断に役立つバイオマーカーとして有用です。カットオフ値を4,000 pg/mLに設定した場合の感度は83~100%と報告されており、Stevens-Johnson症候群(SJS)や中毒性表皮壊死症(TEN)、通常の薬疹と比較してDIHSで高値を示します。TARC値は重症度とも相関し、HHV-6再活性化症例では非再活性化症例よりも高値を示します。dermatol+1
HHV-6再活性化の検出には、ペア血清での抗HHV-6 IgG抗体価測定が一般的で、4倍以上の上昇をもって再活性化と判断します。ペア血清は発症後14日以内と28日以降(21日以降で可能な場合も多い)の2点で確認するのが確実です。また、全血または末梢血単核球を用いたHHV-6 DNAのPCR法による検出も有用です。takeikouhan+1
HHV-6以外に、サイトメガロウイルス(CMV)、HHV-7、EBウイルスの再活性化も同時あるいは連続性に認められます。特にCMV再活性化は致死的な合併症を引き起こす可能性があり、血液中の抗原血症(C7-HRP、C10/C11法)およびPCRによるDNA検出により再活性化を確認することが重要です。CMV再活性化症例では、腎障害(クレアチニン1.0 mg/dL以上)、肝障害(ALT 400 IU/L以上)、CRP高値(10 mg/dL以上)などの検査異常が発症早期からみられることが多いため注意が必要です。takeikouhan+1
薬剤誘発性リンパ球刺激試験(DLST)は、原因薬剤の同定に有用な検査です。刺激指数(SI)≧2を陽性とした場合の感度は75%、特異度は91%と報告されていますが、急性期よりも回復期(発症5週間以降)に測定すると陽性率が高くなります。パッチテストも原因薬剤同定に有用で、陽性率は32~70%と報告されていますが、薬剤の種類により陽性率が異なります。dermatol
基本的な治療方針として、まず被疑薬を速やかに中止し、原則として入院加療とします。発症時に服用していた薬剤を可能な限り中止することが望ましく、経過中に多剤感作を起こしやすいため、発熱に対するNSAIDs、抗菌薬などの予防投与は可能な限り避けます。原因薬中止数日後にしばしば発熱、顔面の浮腫、発疹などの臨床症状の悪化が見られることにも注意が必要です。dermatol+1
副腎皮質ステロイド(ステロイド薬)の全身投与が主な治療法であり、初期量はプレドニゾロン換算で0.5~1.0 mg/kg/日で開始します。この初期量は発疹の程度だけでなく、臓器障害の程度、先行する治療経過など重症度を考慮して決定し、7~14日間投与されることが多いです。特に高齢者、紅皮症状態を呈する場合、心不全・腎不全などの重篤な基礎疾患を有している場合、SJS/TEN様の臨床を呈する場合には早期の全身投与が推奨されます。dermatol+1
ステロイドの減量は、臨床症状の軽快に伴い1~2週間毎に5~10 mg/日ずつ漸減する方法が一般的です。経過中にヘルペスウイルス再活性化による発疹、発熱、肝・腎障害などの再燃が認められた場合には、症状が軽減するまで数日間同量を維持します。ステロイドの急激な減量は、免疫応答の急激な回復をもたらし、CMVをはじめとする様々な感染症の顕在化を招き、臓器障害などの増悪をきたすと考えられているため避けるべきです。dermatol+1
ステロイドパルス療法については、近年否定的な意見が主流となっています。ステロイドパルス療法を施行された症例では、CMV再活性化、症状の遷延化、致死率が有意に高いとする報告があり、また自己免疫疾患発症との関与も示唆されています。そのため、重篤な臓器障害への進展が見られる場合やSJS/TENとDIHSのオーバーラップが疑われる場合など特殊な状況下においてのみ考慮すべきとされています。mhlw-grants.niph+1
一方、DDSスコアで軽症(スコア<1)と評価される症例では、ステロイド全身投与を要さず、被疑薬中止後に補液などの支持療法(supportive therapy)で経過観察することも可能です。豊富な治療経験があり、十分な検査と全身管理を行える施設においては、支持療法を選択し精査を行いながら慎重に経過を観察することを考慮してもよいとされています。dermatol
その他の治療法として、低用量シクロスポリンの短期内服やIVIG(静注用免疫グロブリン)療法が有効であったとする報告があり、ステロイド薬の全身療法の効果が不十分な症例に上乗せする形で追加してみてもよいとされています。dermatol
DIHS発症後3~5週前後にしばしばCMVの再活性化が認められ、再活性化が認められた症例の一部で顕性CMV感染症を発症します。CMV感染症は通常、ステロイド減量を契機に突然、皮膚潰瘍、肺炎、消化管潰瘍・出血、腸炎、心筋炎、肝障害などの症状で発症し、DIHSにおいて最も予後を左右する深刻な合併症です。id-info.jihs+1
治療中は絶えずCMV再活性化の可能性を念頭におき、必要に応じて血清抗体価(IgM)、血液中のCMV DNA量、CMV抗原量の測定を定期的に行います。顕性CMV感染症では抗ウイルス薬(ガンシクロビル900~1,800 mg/日など)の投与が必要となり、原則としてCMV抗原血症が陰性化するまで継続投与することが推奨されています。mhlw-grants.niph+1
ガンシクロビル投与中は白血球・汎血球・血小板減少、貧血に注意を要します。ガンシクロビル耐性CMV感染症にはホスカルネットを用いますが、使用時には腎障害に注意が必要です。重篤な場合には、抗ウイルス薬とヒト免疫グロブリン製剤(5 g/日)の併用を考慮します。dermatol
CMV再活性化のリスク因子としては、発症早期での腎障害(クレアチニン1.0 mg/dL以上)、肝障害(ALT 400 IU/L以上)、CRP高値(10 mg/dL以上)などが知られています。また、CMV再活性化発症時期に一致して血小板数の減少や肝障害の増悪が見られることが多いため、発症早期での検査値の確認に加え、検査データの推移に注意しておくことが重要です。dermatol
2021年の全国調査では、軽快加療中を合わせると85%の症例が軽快していました。死亡例は17例(5.8%)で、死因は肺炎(MRSA肺炎、CMV肺炎、ニューモシスチス肺炎など)や敗血症の感染症によるものが最多であり、その他に原病の悪化に関連したものも挙げられていました。dermatol
完全に回復した後にも、自己免疫疾患が発症することがあります。発症半年以降の回復期には、橋本病(甲状腺炎)、劇症1型糖尿病、円形脱毛症、白斑などの自己免疫疾患を発症しうるため、長期間の経過観察が必要です。これらの遅発性合併症の発症機序には、ウイルス再活性化に伴う免疫再構築症候群(non-HIV IRIS)が関与していると考えられています。jstage.jst+2
治療経過中に皮疹や肝障害の再燃を繰り返すことも特徴的で、これらの再燃はウイルスの再活性化によると考えられています。また、発症早期にはCMVによる肺炎や消化管出血、ニューモシスチス肺炎(PCP)などの感染症を併発しやすいので留意する必要があります。dermatol+1
予後予測因子として、DDSスコアが有用であり、重症例(スコア4以上)ではCMV再活性化や合併症の発症リスクが高いとされています。また、アロプリノールが原因薬剤の場合は重症化しやすく、腎障害が生じやすいことも知られています。一方、ラモトリギンが原因の場合は比較的軽症例が多く、白血球増多や肝障害の程度が他の薬剤によるDIHSよりも軽度であることが報告されています。dermatol
参考リンク。
日本皮膚科学会による薬剤性過敏症症候群診療ガイドライン2023では、診断基準、重症度評価、治療方針について詳細な推奨が記載されています。
日本皮膚科学会 薬剤性過敏症症候群診療ガイドライン2023
PMDAの重篤副作用疾患別対応マニュアルには、患者・医療従事者向けにDIHSの診断と対応について解説されています。
PMDA 重篤副作用疾患別対応マニュアル
国立感染症研究所のサイトでは、HHV-6と薬剤性過敏症症候群の関係について詳しい解説があります。