染色体の数的異常は、正常な46本から増減が生じた状態を指します。トリソミーは本来2本で対をなす染色体が3本になる異常で、常染色体トリソミーとして出生可能なのは13番、18番、21番染色体のトリソミーのみとされています。特に21トリソミー(ダウン症候群)は出生児の約600人に1人の頻度で最も多く見られ、平均寿命は50歳を超えるまでに延びています。一方、13トリソミー(パトウ症候群)と18トリソミー(エドワーズ症候群)は生命予後が不良で、平均寿命は約1か月程度です。niptjapan+4
モノソミーは染色体が1本だけになる状態で、トリソミーよりも重症です。常染色体のモノソミーで出生例が報告されているのは極めて限られており、性染色体のX染色体モノソミーであるターナー症候群が代表的な疾患です。性染色体異常には他にもトリプルX症候群(XXX)、クラインフェルター症候群(XXY)、XYY症候群などがあり、これらは常染色体異常と比較して軽症であることが多いです。saitama-pho+2
三倍体は各染色体が3本あり全体で69本になる状態で、多くは流産に至ります。出生前診断における染色体異常の検出では、精子で15%、卵子で20%、受精時には50%、出生時には0.4%という頻度が報告されており、大部分は胚発生の早期段階で淘汰されることが明らかになっています。haramedical+1
染色体の構造異常は、染色体の形態や配列に変化が生じた状態です。欠失(deletion)は染色体の一部が失われる異常で、網膜芽腫やウィルムス腫瘍などで認められることがあります。微小欠失症候群として、1p36欠失症候群、4p欠失症候群(Wolf-Hirschhorn症候群)、5p欠失症候群(猫鳴き症候群)などが知られており、これらは全身の多部位に重篤な症状をきたします。特に15q11.2欠失はPrader-Willi症候群やAngelman症候群、22q11.2欠失はDiGeorge症候群の原因となります。medicaleducation+2
重複(duplication)は染色体の一部が二重に存在する異常で、精子や卵子の減数分裂時における遺伝子交換の過程で交換部位のミスから生じます。重複は欠失と比較して症状が軽度であることが多いですが、遺伝子の量的不均衡により様々な症状を引き起こす可能性があります。hiro-clinic+1
転座(translocation)は、ある染色体の一部または全部が別の染色体にくっつく異常です。均衡型転座では染色体の過不足がないため本人は無症状のことが多いですが、生殖細胞形成時に染色体の分配異常が起こりやすく、習慣性流産の原因となります。不均衡型転座では染色体の過不足が生じるため、流産や先天異常につながります。ロバートソン転座は13番から15番(Dグループ)または21番から22番(Gグループ)の染色体で長腕同士がくっついた形態で、ダウン症候群の約1.7%を占めます。wikipedia+2
逆位(inversion)は染色体の一部が180度回転して再融合したもので、遺伝子の向きは逆になりますが欠けているわけではないため、遺伝的影響は比較的小さいとされます。急性骨髄性白血病では16番染色体に逆位が認められることがあります。medicaleducation
リング染色体(ring chromosome)は、染色体の両端が失われて断端同士が癒合して環状になった構造異常です。リング染色体は細胞分裂時に不安定で、分裂のたびに失われやすい特徴があります。そのため、リング染色体を持つ細胞とリング染色体が失われた細胞のモザイク状態となることが多く、細胞数の減少により低身長などの症状が現れます。oakclinic-group+3
リング染色体には安定型(stable ring)と不安定型(unstable ring)があります。不安定型では細胞分裂時に切断やこんがらがりが生じてリングが失われ、モノソミーのラインができてモザイクを形成します。一方、切断点がテロメアの繰り返し配列内にある場合は「complete ring syndrome」と呼ばれ、遺伝子が失われないため低身長以外は臨床症状がないことがあります。環状20番染色体症候群は難治性てんかんを主症状とする疾患で、指定難病に指定されています。nanbyou+2
モザイク型は正常な染色体を持つ細胞と異常な染色体を持つ細胞が混在している状態で、体細胞分裂時の染色体不分離によって生じます。トリソミーモザイクとしてはX、18、13、Y、9、14、22、20、12、10、7番染色体(頻度順)の報告があり、モノソミーモザイクではXと21番以外の生産児の報告はほとんどありません。モザイク型では異常な染色体を含む細胞の比率によって表現型に幅があり、一般的に症状は軽度です。ダウン症候群のモザイク型は全体の約4.6%を占めています。jpccs+2
新生児における染色体異常の頻度は約0.3%ですが、自然流産では約35%と非常に高い割合で染色体異常が認められます。これは染色体異常が先天性欠損と流産の主要な原因であることを示しています。流産胎児の染色体異常では60%に常染色体トリソミーが認められ、その中で最も頻度が高いのは16番染色体のトリソミーです。1971fujinka+1
着床前胚における染色体異常の頻度はさらに高く、約50%の胚に染色体異常が存在するとされています。このうち多くは発生の早期段階で淘汰されるため、出生時まで至る確率は大幅に低下します。性染色体異常は常染色体異常と比較して軽症であり、ターナー症候群やクラインフェルター症候群などは基本的に知的障害を伴わないか軽度であるため、疾患というよりも体質的な特徴として捉えられることもあります。pmc.ncbi.nlm.nih+3
染色体異常の検出には従来のG分染法に加えて、SNPアレイや全エクソーム解析などの分子遺伝学的手法が用いられるようになっています。これらの技術により微小欠失や重複、モザイクなど従来の染色体検査では検出困難だった異常も高精度で診断できるようになり、臨床診断の精度が大幅に向上しています。pmc.ncbi.nlm.nih+1
染色体数的異常の主要な原因は減数分裂時の染色体不分離です。不分離には減数第一分裂での相同染色体の分離不全、減数第二分裂での姉妹染色分体の分離不全、体細胞分裂での分離不全の3つのパターンがあります。特に卵母細胞では長期にわたる減数分裂の停止期間中にコヒーシンタンパク質が減少することが、加齢に伴う染色体異常増加の主要な原因であることが明らかになっています。riken+1
コヒーシンは姉妹染色分体を結合させるタンパク質複合体で、染色体分配に不可欠な役割を果たします。ヒトの卵母細胞では胎児期にコヒーシンが染色体にロードされた後、成熟するまでの数十年間、S期完了後のコヒーシン再ローディング能力は限定的です。この長期停止期間中にコヒーシンが経時的に減少し、二価染色体の早期分離が起こることで染色体数異常が生じやすくなります。wikipedia+2
女性では卵子が生まれる前の胎児期に作られた後、新しく作られることはなく、排卵まで卵巣内で減数分裂を停止した状態で待ち続けます。20歳で排卵される卵子は約20年、40歳では約40年の加齢影響を受けることになり、これが女性の年齢上昇に伴う染色体異常増加の背景となっています。一方、男性の精子は思春期以降に継続的に産生されるため、加齢の影響は女性ほど顕著ではありません。kawagoeiin+1
構造異常の発生メカニズムは数的異常とは異なり、DNA切断と修復過程での異常や、減数分裂時の不均衡交叉が主な原因です。転座は染色体の切断と再結合により生じ、均衡型転座保因者では減数分裂時の四価染色体形成と分離様式(交互分離または隣接分離)によって、娘細胞に重複や欠失が生じる可能性があります。欠失や重複も交叉の失敗や転座・逆位を伴う減数分裂での異常分離によって発生します。yodosha+2
理化学研究所による加齢と卵子の染色体数異常に関する研究では、コヒーシンの減少が二価染色体から一価染色体への早期分離を引き起こすメカニズムが詳細に報告されています。
MSDマニュアルの染色体異常症の概要は、医療従事者向けに染色体異常の分類と臨床的特徴を包括的に解説した参考資料として有用です。