皮膚粘膜眼症候群と中毒性表皮壊死症の違い

皮膚粘膜眼症候群(SJS)と中毒性表皮壊死症(TEN)は同一疾患の重症度の違いとして捉えられますが、体表面積の病変範囲、予後、治療アプローチにおいて明確な相違点が存在します。医療従事者として両疾患の違いを正確に理解できていますか?

皮膚粘膜眼症候群と中毒性表皮壊死症の違い

SJS/TENの主要な違い
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体表面積の病変範囲

SJSは体表面積10%未満、TENは30%超。10~30%はオーバーラップ

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重症度と予後

SJSの死亡率は約5%、TENは20~40%と予後に大きな差

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治療の緊急性

TENは多臓器不全のリスクが高く、より集学的治療が必要

皮膚粘膜眼症候群の定義と症状

 

皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson syndrome:SJS)は、38℃以上の高熱を伴い、全身の皮膚に紅斑や水疱・びらんが出現する重篤な疾患です。本疾患は皮膚粘膜眼症候群とも呼ばれ、国の指定難病38に指定されています。発症頻度は人口100万人当たり年間3~6人とされ、稀少疾患に分類されます。msdmanuals+4
臨床症状として、発熱、左右対称的に関節背面を中心とした紅斑、そして口唇・口腔、眼結膜、外陰部などの皮膚粘膜移行部における重篤な粘膜病変(出血・血痂を伴うびらん等)が特徴的です。眼病変では偽膜形成と眼表面上皮欠損のどちらかあるいは両方を伴う両眼性の急性結膜炎がみられます。全身症状として重症感や倦怠感を伴い、口腔内の疼痛や咽頭痛のため摂食障害を来すことがあります。tmiph.metro.tokyo+2
診断基準では、皮膚粘膜移行部の広範囲で重篤な粘膜病変、皮膚の汎発性紅斑に伴う表皮の壊死性障害に基づく水疱・びらん、38℃以上の発熱などが主要所見として定義されています。眼症状が強い場合、治療が遅れると視力低下や失明などの後遺症が残る可能性があるため、早期診断と適切な治療開始が極めて重要です。jpeds+2

中毒性表皮壊死症の病態と重症度

中毒性表皮壊死症(toxic epidermal necrolysis:TEN)は、ライエル症候群とも呼ばれ、SJSよりも重症な病態を呈する疾患です。発症頻度は人口100万人当たり年間1~2人とSJSよりもさらに稀です。TENでは広い範囲で皮膚の剥離がみられ、やけどの際に見られるような水ぶくれ、発赤、発疹などの症状が全身に現れます。yokohama-cu+3
TENの最も重要な特徴は、皮膚のびらん面積が体表面積の10%以上に拡大している点です。一般的に受け入れられている定義では、体表面積の30%を超える病変がある場合にTENと診断されます。SJSに比べ、TENでは多臓器不全、敗血症、肺炎などを高率に併発し、しばしば致死的状態に陥ります。msdmanuals+3
死亡率については、SJSが約5%であるのに対し、TENは20~40%と報告されており、予後に大きな差があります。TENの死亡例では敗血症を合併して死亡するケースが多く、感染症管理の難しさが浮き彫りとなっています。基礎疾患としてコントロール不良の糖尿病や腎不全がある場合、予後がさらに不良となる可能性があります。medicalnote+2

体表面積による皮膚粘膜眼症候群と中毒性表皮壊死症の鑑別

SJSとTENの最も重要な鑑別点は、体表面積に占める皮膚病変の範囲です。本邦では体表面積10%未満をSJS、10%を超えるとTENとする分類が用いられています。一方、国際基準では10~30%の病変を「SJS/TENオーバーラップ」と呼び、より詳細な分類を行っています。knowledge.nurse-senka+3

疾患分類 体表面積の病変範囲 死亡率
SJS 10%未満 約5%
SJS/TENオーバーラップ 10~30% 10~20%程度
TEN 30%超 20~40%

SJSとTENは同じ系統の疾患であり、TENはSJSの重症型と位置付けられています。実際の臨床では、SJSから進展してTENへと移行するケースが少なくありません。このため、初期診断時にはSJSであっても、病態が急速に進行する可能性を考慮し、継続的な観察と適切なタイミングでの治療強化が必要です。yokohama-cu+2
TENでは、皮膚の紅斑部分が剥がれてびらんとなり、粘膜では眼球結膜充血や眼脂、口唇や陰部の広範囲なびらんがみられます。眼症状が強い場合、ドライアイや失明といった重症な後遺症を残すため、体表面積に関わらず眼病変の重症度評価が重要です。yokohama-cu

皮膚粘膜眼症候群と中毒性表皮壊死症の原因薬剤

SJS/TENの主な原因は薬剤であり、多くの場合、医薬品が発症の引き金となります。原因薬剤としては抗生物質(特にサルファ剤)、解熱消炎鎮痛薬、抗てんかん薬などの頻度が高いことが知られています。抗菌薬、消炎鎮痛薬、抗けいれん薬が主要な原因として報告されています。msdmanuals+3
小児においては、薬剤以外にも単純ヘルペスウイルス、マイコプラズマなどの感染症が原因となることがあります。若年発症で感冒様症状が先行し、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)や総合感冒薬が関与するSJS/TENは眼障害が重篤化する可能性が高いとされています。また、HLA-A*0206が感冒薬関連SJS/TEN発症と関連することが明らかになっています。mhlw-grants.niph+2
原因薬剤の同定は予後改善のために極めて重要であり、発熱や発疹等の初期症状を認めた場合、原因と推定される医薬品の投与を直ちに中止することが最も重要で最良の治療法です。検査法としてはパッチテスト、薬剤リンパ球刺激試験(DLST)が比較的有用な原因薬同定法として日常診療で用いられています。dermatol+1

皮膚粘膜眼症候群と中毒性表皮壊死症の治療法の違い

SJS/TENの治療における第一選択はステロイド薬の全身投与であり、症例に応じてステロイドパルス療法、免疫グロブリン大量療法(IVIG)、血漿交換療法が試みられます。ステロイドパルス療法では、メチルプレドニゾロン1000mg/日を3日間点滴し、その後ステロイドの点滴または内服を継続しながら数週間かけて漸減します。jstage.jst+2
適切なステロイド薬の投与はSJSおよびTENに有効な治療法であると考えられていますが、重症例では併用療法が必要となることがあります。免疫グロブリン大量療法や血漿交換療法が併用された症例は、SJSで3例、TENで8例との報告があり、TENにおいてより集学的な治療が必要とされることがわかります。近年の報告では、ステロイド療法とIVIgの併用療法がSJS/TEN患者の予後を改善する可能性が指摘されています。dermatol+1
眼所見が重篤な場合には、皮膚所見の重症度にかかわらず迅速なステロイドパルス療法が推奨されます。眼障害とは重症度分類における眼病変スコア2以上を指し、眼後遺症回避のために早期の積極的治療介入が必要です。治療にあたっては、原因薬剤の速やかな中止、全身管理、感染症予防が基本となります。eye.sjs-ten+2

皮膚粘膜眼症候群と中毒性表皮壊死症の予後と眼後遺症管理

SJS/TENに伴う重篤な眼障害は、高度の視力障害が後遺症となり社会復帰が極めて困難となります。眼合併率は約60%とされ、発疹よりも眼の症状(充血、眼痛)が先行することが多いため、発疹を生じた時点で両眼が充血している場合は眼合併症を伴う可能性が高いと考えられます。皮膚の発疹やびらんが消え、からだが回復した後も、視力障害とドライアイが主な後遺症として残ります。eye.sjs-ten+2
視力障害の原因は角膜混濁(くろめの濁り)によるもので、光が角膜を通過できないため視力が低下します。慢性期(発症後1年以上経過)では眼瞼および角結膜の瘢痕化がみられることがあります。慢性期SJS/TENの視力障害を克服できる治療法は国際的にも確立されておらず、眼障害を回避する有用な治療について国際的なコンセンサスはまだ得られていません。mhlw+3
SJS/TEN眼後遺症専門サイトでは、患者向けと医療関係者向けの情報が提供されています。eye.sjs-ten
予後に影響する因子として、基礎疾患の有無、多臓器不全や敗血症の合併、眼症状の重症度などが挙げられます。重症度分類では、粘膜疹、皮膚の水疱・びらん、38℃以上の発熱、呼吸器障害、表皮の全層性壊死性変化、肝機能障害の有無を評価し、合計点が2点未満を「軽症」、2点以上6点未満を「中等症」、6点以上を「重症」と判定します。中等症以上で医療費助成の対象となりますが、軽症でも高額な医療の継続が必要な場合は対象となることがあります。nanbyou+1