悪性新生物は国際疾病分類第10版(ICD-10)において、C00からC97までのコード体系で分類されています。この分類は厚生労働省大臣官房統計情報部が定める「疾病、傷害及び死因の統計分類提要」に基づいており、医療現場における診断と統計処理の標準となっています。mhlw+3
悪性新生物は形態学的分類によって複数の群に分けられます。主要なカテゴリーとして、扁平上皮癌や腺癌を含む癌腫(carcinoma)、肉腫、中皮腫を含む軟部組織腫瘍、ホジキンリンパ腫及び非ホジキンリンパ腫、白血病、その他の明示された型及び部位特異的な型が存在します。これらの分類は組織学的特徴に基づいており、治療方針の決定に重要な役割を果たしています。msdmanuals+2
ICD-10における悪性新生物の分類は、発生部位に基づいて体系的に整理されています。口唇、口腔及び咽頭の悪性新生物(C00-C14)を皮切りに、消化器(C15-C26)、呼吸器及び胸腔内臓器(C30-C39)、骨及び関節軟骨(C40-C41)、皮膚(C43-C44)、中皮及び軟部組織(C45-C49)、乳房(C50)と続きます。byomei+3
生殖器系については、女性生殖器(C51-C58)と男性生殖器(C60-C63)に分類され、さらに腎尿路(C64-C68)、眼・脳及び中枢神経系(C69-C72)、甲状腺及びその他の内分泌腺(C73-C75)という臓器別の区分が続きます。部位不明確・続発部位及び部位不明の悪性新生物(C76-C80)、リンパ組織・造血組織及び関連組織の悪性新生物(C81-C96)が最後の大分類となっています。axa-direct-life+3
この体系的な分類により、医療従事者は患者の診断を正確に記録し、統計データの収集や疫学研究に活用することができます。mhlw+1
悪性新生物は発生した細胞の種類によって大きく三つに分類されます。第一に癌腫(カルシノーマ)は、体の表面や臓器の粘膜を覆う上皮細胞から発生し、大腸癌、肺癌、胃癌、乳癌、前立腺癌などが含まれます。これらは固形腫瘍を形成し、日本人のがんの大部分を占めています。ganjoho+4
第二に肉腫は、骨や筋肉などの非上皮細胞から発生する悪性腫瘍で、骨肉腫、軟骨肉腫、脂肪肉腫、平滑筋肉腫などが該当します。肉腫は癌腫に比べて発生頻度は低いものの、若年層にも発症する特徴があります。ncc+3
第三に造血器腫瘍は、血液や造血組織、免疫系の細胞に由来する悪性腫瘍で、白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫などが含まれます。これらは固形腫瘍とは異なり、血液中や骨髄、リンパ節に病変が広がる特徴を持ちます。fuelcells+3
消化器系の悪性新生物には、食道がん、胃がん、小腸がん、結腸がん、直腸がん、肝細胞がん、胆道がん、膵臓がんなどが含まれます。日本では特に胃がんと大腸がんの罹患率が高く、2021年の推計では男性で胃がん16%、大腸がん15%を占めています。humanlife-s+3
呼吸器系では肺がん、胸腺腫と胸腺がん、悪性胸膜中皮腫が主要な悪性新生物です。肺がんは男性の死亡数で第1位、女性でも第2位となっており、喫煙との関連が強いことが知られています。ganjoho+3
泌尿生殖器系では、腎細胞がん、腎盂・尿管がん、膀胱がんなどの腎尿路系と、前立腺がん、精巣腫瘍などの男性生殖器系、子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がんなどの女性生殖器系に分類されます。特に前立腺がんは男性で最も罹患数が多く、2021年には17%を占めています。lifenet-seimei+3
脳・中枢神経系では、膠芽腫、髄芽腫、髄膜腫、中枢神経系原発悪性リンパ腫などがあり、希少がんとして分類されることが多い領域です。kishougan.med.nagoya-u+1
造血器腫瘍は血液や造血組織に由来する悪性腫瘍であり、白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫の三つに大別されます。これらは固形腫瘍とは異なり、全身性の疾患として扱われます。patients.daiichisankyo-ep+3
白血病は、造血幹細胞ががん化して異常に増殖する病気で、急性白血病と慢性白血病に分けられます。急性白血病はさらに急性骨髄性白血病(AML)と急性リンパ性白血病(ALL)に分類され、慢性白血病には慢性骨髄性白血病(CML)と慢性リンパ性白血病(CLL)があります。骨髄の中で白血病細胞が増殖し、正常な血液細胞の産生が阻害されることで、貧血、感染症、出血傾向などの症状が現れます。kyushuh.johas+4
悪性リンパ腫は、リンパ球ががん化してリンパ節や全身の臓器に腫瘤を形成する血液がんです。ホジキンリンパ腫と非ホジキンリンパ腫に大別され、非ホジキンリンパ腫はさらに濾胞性リンパ腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、成熟T/NK細胞リンパ腫など多様な病型に分類されます。主な症状としてリンパ節の腫れ、発熱、体重減少、寝汗などが見られます。maeda+4
多発性骨髄腫は、形質細胞(抗体を産生するリンパ球の一種)ががん化して骨髄内で異常増殖する疾患です。骨の痛み、骨折、貧血、腎機能障害、高カルシウム血症などの症状を呈し、血液がんの中でも特に高齢者に多く発症します。saiseikai+3
悪性新生物と上皮内新生物の最も重要な違いは、がん細胞の浸潤度です。上皮内新生物は、がん細胞が臓器や粘膜の表面(上皮層)にとどまり、その下層にある基底膜を越えていない状態を指します。一方、悪性新生物は基底膜を越えて粘膜の奥深くまで浸潤し、血管やリンパ管が通る組織にまで達している状態です。hokennomadoguchi+3
この浸潤の違いは、転移の可能性に直結します。上皮内新生物では転移のリスクが極めて低く、早期に切除すれば再発の可能性もほとんどありません。対照的に、悪性新生物では血管やリンパ管を通じて他の臓器に転移するリスクがあり、全身的な治療が必要となる場合があります。niaeru+3
臨床的には、上皮内新生物は「がんの前段階」または「ごく早期のがん」として扱われ、多くの場合は局所的な治療(内視鏡切除など)で完治が期待できます。しかし放置すると悪性新生物へ進行する可能性があるため、定期的な経過観察が重要です。保険診療においても、上皮内新生物と悪性新生物は異なる取り扱いを受けることがあり、正確な診断と分類が求められます。smartdock+3
子宮頸部を例にとると、正常な細胞から軽度異形成、中等度異形成、高度異形成(上皮内がん)を経て浸潤がん(悪性新生物)へと段階的に進行します。この過程を理解することは、早期発見・早期治療の重要性を認識する上で不可欠です。cancerinfo.tri-kobe+2
悪性新生物の最も重要な特徴は、周囲組織への浸潤と遠隔臓器への転移能力です。浸潤とは、がん細胞が元々発生した組織を超えて隣接する正常な組織に侵入していく過程を指します。このメカニズムには、細胞間の接着力の低下、細胞外基質の分解、細胞運動性の増加が関与しています。life.sci.hokudai+2
がん細胞が集団で浸潤する「集団浸潤」という現象も近年注目されています。研究により、STAT1という転写因子が活性化したがん細胞が、がん細胞集団の浸潤を誘引することが明らかになりました。がん細胞が単独ではなく集団として浸潤することで、互いに助け合い、転移巣の形成を強く促進させることが分かっています。life.sci.hokudai
転移は、がん細胞が原発巣から離れ、血液やリンパの流れを介して他の臓器に到達し、そこで増殖を始める現象です。血行性転移のプロセスは、原発巣からの離脱→周囲組織への浸潤→血管内への侵入→標的臓器の血管内皮細胞との接着→血管外への脱出→標的臓器での増殖という複雑な段階を経ます。dojin+2
国立がん研究センターでは、転移や浸潤を抑える研究が盛んに行われており、これらのメカニズムを理解することが新たな治療標的の発見につながると期待されています。医療従事者として、浸潤と転移の違いを正確に理解し、患者の病期評価と治療方針の決定に活用することが重要です。gan-medical-chiryou+3
日本における悪性新生物の罹患状況は、国立がん研究センターのがん統計によって詳細に報告されています。2021年の推計では、新たにがんと診断された人は約100万9千800例(男性57万7千900例、女性43万1千900例)に達しました。これは日本人の2人に1人ががんに罹患することを意味しており、医療従事者として正確な知識が不可欠です。mrso+3
男性における部位別罹患数では、前立腺がんが最も多く17%を占め、次いで胃がん16%、大腸がん15%、肺がん15%、肝臓がん5%の順となっています。女性では乳がんが22%と最も高く、大腸がん16%、肺がん10%、胃がん9%、子宮がん7%と続きます。micro-ctc.cellcloud+2
死亡数に関しては、2023年にがんで死亡した人は38万2504人(男性22万1360人、女性16万1144人)でした。男性では肺がんが死因の第1位(24%)、女性では大腸がんが第1位(16%)となっており、罹患数の順位とは異なるパターンを示しています。mhlw+3
特筆すべき点として、日本は欧米諸国と比較して胃がん(約5~10倍)、肝臓がん(約2倍)、胆のう・胆管がん(約2倍)、膵臓がん(約1.5倍)の罹患率が高いという東アジア特有の疫学的特徴があります。これはヘリコバクター・ピロリ菌感染や肝炎ウイルス感染などの感染症との関連が指摘されています。kenko.sawai+1
悪性新生物の予後は、診断時の病期(ステージ)に大きく依存するため、早期発見が極めて重要です。スクリーニング検査は、症状が現れる前のがんの早期発見を目的とした検査であり、異常組織やがんが早期に発見されれば治療や治癒が容易になります。ganjoho+2
日本では、厚生労働省が「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」を定めており、胃がん検診、大腸がん検診、肺がん検診、乳がん検診、子宮頸がん検診の5つを推奨しています。これらの検診は科学的根拠に基づいており、死亡率減少効果が証明されています。mhlw+2
近年、血液検査による多がん早期検出(MCED: multi-cancer early detection)技術の開発が進んでいます。国立がん研究センターの研究では、血中マイクロRNA(miRNA)を用いて13種類のがんを高精度に区別できることが報告されており、単一の低侵襲検査で複数のがんを同時にスクリーニングできる可能性が示されています。また、線虫の嗅覚を利用したN-NOSE検査では、尿サンプルから23種類のがんリスクを判定できる技術も実用化されています。ncc+1
医療従事者として、これらのスクリーニング検査の特性と限界を理解し、患者に適切な検診を勧めることが重要です。検診には偽陽性や偽陰性のリスクもあるため、結果の解釈と事後フォローアップにも注意が必要です。cancerinfo.tri-kobe+2
悪性新生物の診療には、多職種によるチーム医療が不可欠です。医師(腫瘍内科医、外科医、放射線科医、病理医など)を中心に、看護師、薬剤師、診療放射線技師、臨床検査技師、管理栄養士、ソーシャルワーカー、リハビリテーション専門職など、多様な専門職が連携して患者ケアにあたります。ganjoho+1
がん診療連携拠点病院には、専門的な知識と技能を有する医療従事者の配置が義務付けられています。具体的には、放射線治療に携わる常勤の診療放射線技師、化学療法に携わる薬剤師と看護師、細胞診断に係る細胞検査士などの専任配置が求められています。pref+2
医療従事者には、がんの病態生理、診断技術、治療法、支持療法、緩和ケアに関する包括的な知識が求められます。さらに、患者とその家族への心理的サポート、意思決定支援、就労支援なども重要な役割となっています。kyorin-u+2
日本では、がん医療を担う専門性の高い医療従事者の養成が課題となっています。大学院教育においても、高い臨床能力と研究能力を併せ持った臨床医を養成するプログラムが整備されており、がん研究と臨床実践の両面でのスキル向上が図られています。scj+1
国立がん研究センター がん情報サービス「病名から探す」
がんの部位別の詳細な情報、診断・治療法、療養生活の支援について包括的な情報を提供。医療従事者が患者説明資料として活用できる信頼性の高い情報源。
国立がん研究センター「さまざまな希少がんの解説」
200種類近い希少がんについて、領域別に整理された専門的な解説。脳・脊髄、消化器、泌尿生殖器など各領域の希少な悪性新生物に関する最新情報を提供。
厚生労働省「疾病、傷害及び死因の統計分類」
ICD-10に基づく日本の公式分類基準。悪性新生物のコード体系と統計処理の標準的方法について、医療従事者向けの詳細な情報を掲載。