セレニカは、バルプロ酸ナトリウムを有効成分とする徐放性製剤であり、各種てんかん発作に対して広範な抑制作用を示します。セレニカR顆粒40%を用いた臨床試験では、各種てんかん患者76例を対象に、発作改善度、行動並びに精神症状改善度、脳波改善度を勘案した全般改善度が74.7%(改善以上)という優れた結果が報告されています。rad-ar+3
特に、原発全般発作のうち、光や音などの刺激によって誘発されやすいミオクローヌス発作に対して効果的であり、非けいれん性全般発作にも有効であることが知られています。また、小児にみられる部分発作の感情発作の治療にも効果を発揮することが確認されています。sekisuimedical-csc
セレニカは、既承認のバルプロ酸ナトリウム速放性製剤の剤形を薬剤学的に変更した徐放性製剤であり、1日1回の投与で有効血中濃度(40~120μg/mL)を維持できるという特徴があります。徐放性製剤であるため、血中濃度の急激な変動が少なく、安定した治療効果を持続的に提供することが可能です。medical.kowa+3
セレニカの作用機序の中心は、脳内のγ-アミノ酪酸(GABA)濃度を増加させることにあります。バルプロ酸ナトリウムは、GABA合成に関与するグルタミン酸脱炭酸酵素活性の低下を抑制し、さらにGABA分解に関与するGABAトランスアミナーゼ活性を阻害することで、脳内のGABA濃度を高めます。rad-ar+3
GABAは、中枢神経系において抑制性の神経伝達物質として機能しており、神経細胞の興奮を抑制する方向に作用します。この抑制性シナプスにおけるGABA量の増加により、けいれん発作を抑制する効果が発揮されます。yuik+3
さらに、バルプロ酸は神経細胞の興奮に関わる電位依存性ナトリウムチャネルとT型カルシウムチャネルをブロックする作用も有しており、これらのメカニズムによって広域スペクトル抗痙攣薬としても機能します。GABA神経の伝達促進作用は、躁病の気分安定化や片頭痛の発症抑制にも関与すると考えられています。wikipedia+3
セレニカの治療効果を最大化するためには、適切な血中濃度の維持が重要です。てんかん治療における有効血中濃度は40~120μg/mLとされており、この範囲内で70~80%の患者で発作が抑制されることが報告されています。medical.kowa+3
長期にわたり抗てんかん薬を継続投与し、その効果を血中濃度面で評価する場合には、服薬直前に採血した日内の最低血中濃度(Cminまたはトラフ値)を基準とするのが原則です。セレニカR顆粒40%の場合、ピーク時間は5~10時間であり、通常製剤に比べて徐放性が確保されています。easytdm+3
ただし、治療濃度範囲の下限以下の濃度であっても、長期にわたってけいれん発作が抑制されている場合には効果が得られていることが多く、個々の患者の臨床状態に応じた評価が必要です。躁病および躁うつ病の躁状態の治療や片頭痛発作の発症抑制に対しては、原則的に血中濃度モニタリングは必須ではありませんが、用量増減時に臨床状態の変化があった場合や予期した治療効果が得られない場合には、必要に応じて血中濃度モニタリングを行い、用量調整することが望ましいとされています。medical.kowa+2
セレニカは、バルプロ酸ナトリウムを含む内核(マトリックス)を水不溶性高分子膜(一次膜、二次膜)で二重コーティングした膜制御型の徐放性錠剤です。消化管内において、消化液が内核へ浸透し、第1段階で一次膜が、第2段階で二次膜がそれぞれバルプロ酸ナトリウムの溶出を制御する仕組みになっています。medical.kowa
この徐放性製剤の特性により、1日1回投与で有効血中濃度の維持が期待でき、患者の服薬コンプライアンス向上にも寄与します。セレニカR顆粒40%は世界初のバルプロ酸ナトリウム徐放性顆粒であり、年齢、体重、症状にあわせた投与量の細かい調整が可能で、TDMに適しています。medical.kowa+1
セレニカR錠200mgは服用感を考慮したコンパクトな徐放性錠剤であり、セレニカR錠400mgは国内初のバルプロ酸ナトリウム400mg含有徐放性錠剤として開発されました。徐放性製剤であるため、製剤の吸湿により溶出が加速されることがあるため、吸湿しないように保存する必要があります。また、錠剤をかみ砕く、割る、または粉砕するなどの誤った方法で投与しないよう注意が必要です。pmda+3
セレニカの用法及び用量は、適応症によって異なります。各種てんかんおよびてんかんに伴う性格行動障害の治療、躁病および躁うつ病の躁状態の治療では、通常、バルプロ酸ナトリウムとして400~1200mgを1日1回経口投与します。ただし、年齢、症状に応じ適宜増減することが可能です。kegg+2
片頭痛発作の発症抑制では、通常、バルプロ酸ナトリウムとして400~800mgを1日1回経口投与します。こちらも年齢、症状に応じて適宜増減が可能ですが、1日最高投与量は1000mgまでとされています。kegg+1
セレニカの臨床試験では、1日の投与量を速放性製剤と同一とし、1日1回経口投与として実施した結果、定常状態において速放性製剤と同様に有効血中濃度を維持し、速放性製剤と同等の有効性が認められました。このため、既存のバルプロ酸ナトリウム製剤からの切り替えも比較的容易に行うことができます。medical.kowa+1
ただし、セレニカは1日1回投与が基本であり、デパケンR錠のような1日2回投与の製剤とは用法が異なるため、処方時には十分な注意が必要です。医療機関内で徐放性製剤の用法に関する情報共有を徹底し、処方ミスを防止することが重要です。pmda
セレニカの重大な副作用として、肝障害が最も重要です。致死的肝障害は投与初期6カ月以内に多く発現するため、投与初期6カ月間は定期的に肝機能検査を行う必要があります。その後も連用中は、定期的に肝機能検査を行うことが望ましいとされています。medical.kowa+1
高アンモニア血症を伴う意識障害も重篤な副作用の一つであり、特に尿素サイクル異常症の患者では重篤な高アンモニア血症があらわれることがあるため、このような患者への投与は禁忌とされています。観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止するなど適切な処置を行う必要があります。clinicalsup+2
血液障害(血小板減少、顆粒球減少等)も重要な副作用であり、連用中は定期的に血液検査(赤血球、白血球、血小板等)を実施し、十分な観察のもとに投与することが望ましいです。膵炎も重篤な副作用として報告されており、腹痛などの症状が出現した場合には速やかに医療機関を受診するよう患者指導を行うことが重要です。medical.kowa+1
一般的な副作用としては、消化器系の症状(悪心、嘔吐、食欲不振)が挙げられます。これは薬剤が胃腸を刺激したり、中枢性の作用によるものと考えられています。中枢神経系の副作用として、眠気、めまい、複視、ふらつき、眼振、振戦、行動異常などが報告されており、血中濃度が治療域上限を超えると出現頻度が増加します。utu-yobo+1
長期服用に伴う慢性的な副作用として、食欲増進、体重増加が知られており、これらは薬を開始してから数年経つと症状が薬と結びつかなくなるため、見逃されがちになりやすいものです。hashiguchi-cl+1
セレニカの最も重要な薬物相互作用は、カルバペネム系抗生物質との併用禁忌です。カルバペネム系抗生物質(パニペネム・ベタミプロン、メロペネム、イミペネム、ビアペネム、ドリペネム、テビペネム)とセレニカを併用すると、バルプロ酸の血中濃度が急激に低下し、てんかん発作が誘発されるリスクが非常に高まります。min-iren+2
バルプロ酸の有効血中濃度は40~120μg/mLですが、カルバペネム系抗菌薬の併用により血中濃度が大幅に低下し、けいれんが再発した症例が報告されています。相互作用の機序は明らかではありませんが、たん白結合率の競合やカルバペネム系抗菌薬により肝臓でのバルプロ酸のグルクロン酸抱合代謝が亢進するなどの報告があります。このため、カルバペネム系抗生物質との併用は原則として禁忌とされています。clinicalsup+2
他の抗てんかん薬との相互作用も重要です。フェノバルビタール、フェニトイン、カルバマゼピンなどとの併用では、お互いの血中濃度に影響を与えたり、眠気などの副作用が増強されたりすることがあります。特にラモトリギンとバルプロ酸ナトリウムの併用は、重篤な皮膚障害(スティーブンス・ジョンソン症候群など)のリスクを高める可能性があるため、慎重な管理が必要です。kegg+3
また、フェノバルビタールやカルバマゼピンにバルプロ酸を追加投与すると、これらの薬の血中濃度が上昇することがあります。バルビツール酸製剤、フェニトイン、カルバマゼピンはバルプロ酸の代謝を誘導すると考えられるため、併用には注意が必要です。shizuokamind.hosp+1
抗精神病薬、抗うつ薬との併用では、中枢神経抑制作用の増強(眠気など)や、それぞれの薬剤の血中濃度変化を引き起こす可能性があります。精神科領域でセレニカを使用する際には、他の向精神薬との併用に十分注意し、患者の状態を慎重に観察することが重要です。utu-yobo
抗凝固薬(ワルファリンなど)との相互作用も注意が必要です。バルプロ酸ナトリウムは、血液を固まりにくくする血小板の機能に影響を与えたり、ワルファリンの血中濃度を上昇させたりする可能性があるため、出血傾向を高めるリスクがあります。抗凝固療法を受けている患者にセレニカを投与する際には、凝固能の定期的なモニタリングが必要です。utu-yobo
高用量のアスピリンなどの鎮痛剤との併用は、バルプロ酸ナトリウムの血中濃度を上昇させる可能性があるため注意が必要です。また、胃薬の一部であるシメチジンも、バルプロ酸ナトリウムの血中濃度を上昇させる可能性があることが知られています。これらの薬剤を併用する際には、バルプロ酸の血中濃度を適切にモニタリングし、必要に応じて用量調整を行うことが望ましいです。medical.kowa+1
セレニカには複数の禁忌事項が設定されています。まず、重篤な肝障害のある患者への投与は禁忌です。肝障害が強くあらわれ致死的になるおそれがあるためです。medical.kowa+1
カルバペネム系抗生物質との併用も既に述べたとおり禁忌とされています。尿素サイクル異常症の患者も禁忌であり、重篤な高アンモニア血症があらわれることがあります。medical.kowa+1
片頭痛発作の発症抑制の適応においては、妊婦又は妊娠している可能性のある女性は禁忌とされています。バルプロ酸には催奇形性があることが知られており、特に片頭痛発作の発症抑制の場合には、妊婦への投与は禁忌と明確に規定されています。rad-ar+2
てんかんおよび躁病の治療においても、妊婦への投与は原則禁忌とされており、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合のみ慎重に投与することが可能です。海外では、欧州において代替療法がある場合のてんかん治療や、双極性障害の躁病治療、片頭痛の予防において妊婦への投与は禁忌とされています。妊娠可能年齢の女性患者に対しては、投与開始前に妊娠の有無を確認し、治療中も避妊の徹底を指導することが重要です。medical.kowa+2
腎機能障害患者にセレニカを投与する際には、特別な注意が必要です。腎機能障害患者では蛋白結合率の低下等の要因により、遊離型薬物の血中濃度が上昇するおそれがあるため、慎重に投与する必要があります。medical.kowa
血液透析患者では、血液透析によるセレニカの除去や蛋白結合能の変化により遊離型薬物濃度が低下するおそれがあるため、注意して投与することが求められます。慢性腎不全の幼児に対してCAPD(持続的腹膜透析法)を試みた結果、バルプロ酸血清総濃度は低値を示しましたが、遊離型の割合は減少しなかったとの報告があります。medical.kowa
連用中は定期的に腎機能検査(BUN、血清クレアチニン等)、血液検査(赤血球、白血球、血小板等)を実施して、十分な観察のもとに投与することが望ましいとされています。腎機能障害の程度によっては、投与量の減量や投与間隔の延長を検討する必要があり、血中濃度モニタリングを積極的に活用して個別化した投与設計を行うことが重要です。easytdm+1
参考:腎機能障害患者におけるセレニカの適正使用については、興和株式会社の医療関係者向け情報にて詳細な解説が提供されています。
https://medical.kowa.co.jp/product/faq/200