ゲフィチニブは上皮成長因子受容体(EGFR)のチロシンキナーゼ領域においてATPと競合的に結合し、EGFRの自己リン酸化を阻害することで抗腫瘍効果を発揮します。特にEGFR遺伝子変異陽性の非小細胞肺癌に対して高い有効性を示しますが、EGFRは正常な皮膚、肺、消化管、肝臓の細胞にも発現しているため、これらの組織における副作用が高頻度で発現します。wikipedia+3
EGFRは皮膚を構成する表皮、爪、毛、脂腺、汗腺などの細胞に発現し、細胞の増殖・分化・炎症制御を担っています。ゲフィチニブによってEGFRが阻害されると、正常な角質の水分保持能や外界からの防御能が損なわれ、皮膚乾燥や易感染状態に陥ります。また、炎症性サイトカインやケモカインが過剰に誘導されることにより、痤瘡様皮疹や爪囲炎などの皮膚炎が発生すると考えられています。igaku-shoin
市販後調査では3,322名中1,867名(56.2%)の患者に何らかの副作用が認められており、EGFR遺伝子変異の有無や治療タイミングに関わらず同様に副作用が発現することが報告されています。med.daiichisankyo-ep+1
間質性肺炎はゲフィチニブの最も重篤な副作用であり、発現頻度は1~10%未満とされていますが、致死的な経過をたどる可能性があります。わが国での調査研究によると、ゲフィチニブによる間質性肺炎の発現頻度は3~6%、副作用による死亡率は1~3%と報告されています。ubie+2
発売当初から本剤との関連性を否定できない間質性肺炎を含む肺障害が報告され、2002年10月までに22例(うち死亡例11例)が報告されました。これらの症例の中には服薬開始後早期(7日未満:5例、7日~14日:7例)に症状が発現し、急速に進行する症例がみられました。このため、少なくとも投与開始後4週間は入院またはそれに準ずる厳重な管理のもとで、医師が患者の状態を十分に観察することが特に重要です。ubie+2
間質性肺炎の症状には発熱、咳(空咳を含む)、息切れ、呼吸困難などがあり、これらの症状が出現した際は速やかに医療機関を受診するよう患者教育を行うことが重要です。管理方法としては、定期的な胸部X線検査、呼吸機能検査の実施、患者への症状教育、早期受診の重要性説明が挙げられます。間質性肺炎等が疑われた場合には、直ちに本剤による治療を中止し、ステロイド治療等の適切な処置を行う必要があります。kobe-kishida-clinic+4
男性の喫煙者、間質性肺炎の既往がある患者では、間質性肺炎の発現リスクが高くなることが報告されています。haigan+1
皮膚症状はゲフィチニブによる治療で最も頻繁に見られる副作用であり、発疹は約70%、皮膚乾燥は約30%の頻度で発現します。本剤投与群では安全性評価対象症例607例中538例(88.6%)に副作用が認められ、主な副作用は発疹・ざ瘡が394例(64.9%)、皮膚乾燥143例(23.6%)でした。kegg+1
臨床研究では、ゲフィチニブ内服により皮膚症状が出現した症例は24例中19例で全体の79.2%であり、そのうち皮膚科を紹介されたのは15例(78.9%)でした。これらの皮膚症状には発疹、痤瘡様皮疹、皮膚乾燥、そう痒感、皮膚亀裂などが含まれ、患者のQOLに大きな影響を与える可能性があります。rad-ar+3
特に顔面や胸部に現れる痤瘡様皮疹は患者の外見を変化させるため心理的負担を伴うことが少なくありません。これらの皮膚症状は通常投与開始後2~3週間以内に出現しますが、適切なスキンケアや局所療法により管理可能なことが多いです。症例報告では、投与11日目頃より顔面の脂漏と胸部、腹部、背部の毛包炎様の紅色丘疹が出現した例が報告されています。webview.isho+1
治療法としては、皮膚乾燥には保湿剤の外用を、皮膚炎にはステロイド外用やテトラサイクリン系の抗菌薬内服を行います。重症例では100mgミノサイクリン(2錠/日、経口)とリファンピシン外用が使用されることがあります。皮膚障害の程度は薬剤の用量に依存し、適切なスキンケアと皮膚症状に対する治療をしていても重症化し、休薬や減量を要する場合もあります。pmc.ncbi.nlm.nih+1
興味深いことに、皮膚発疹の発現は良好な治療効果の予測因子となる可能性があり、日本人患者を対象とした研究では発疹の発現と治療効果の相関が報告されています。pmc.ncbi.nlm.nih
ゲフィチニブ投与に伴う消化器系の副作用として下痢は約50%、食欲不振は約20%の頻度で報告されており、比較的高頻度に発現します。本剤投与群では安全性評価対象症例607例中254例(41.8%)に下痢が認められました。発現時期は内服開始から1ヶ月以内が多く、早期での発現が特徴的です。niigata-cc+2
中でも下痢は重症化した場合、脱水や電解質異常を引き起こす恐れがあります。重度の下痢(発現頻度1%未満)があらわれた場合には、患者の状態に応じて休薬あるいは対症療法を施すなど、速やかに適切な処置を行う必要があります。また、下痢、嘔気、嘔吐又は食欲不振に伴う脱水があらわれることがあり、脱水により腎不全に至った症例も報告されているため、必要に応じて電解質や腎機能検査を行うことが重要です。pins.japic+1
患者への指導としては、便意をもよおしたら我慢せずにトイレに行くこと、脱水症状を防ぐために水分をこまめにとること(1回に一口か二口の少量を常温で)が推奨されます。水や白湯でも十分ですが、経口補水液などでも良いでしょう。下痢出現時には脱水を防ぐためロペラミド等の下痢止め・補液の投与が必要です。med.sawai+1
肛門周囲の皮膚ケアも重要で、洗いすぎに注意が必要です。ゴシゴシ拭いたり、石鹸で何度も洗ったりすると皮膚への刺激になるため、洗うのは弱酸性など肌に優しい石鹸で1日1回程度、それ以外はお湯に浸したガーゼなどで優しく拭くことが推奨されます。温水洗浄便座を使用する場合は、低温で水圧は弱くし、使用後は押さえ拭きをすることが望ましいです。med.sawai
ゲフィチニブ投与中に肝機能障害が発現することがあり、発現頻度は10%以上と報告されています。実際に、市販後の調査では50%以上の患者に肝機能障害が認められるという報告もあり、定期的な肝機能検査によるモニタリングが必要とされます。WJTOG3405試験では、27.6%の患者が重症肝機能障害(grade≥3)を経験し、治療中止を余儀なくされました。pmc.ncbi.nlm.nih+2
肝機能障害の症状には体のだるさ、白目や皮膚が黄色くなる(黄疸)、吐き気・嘔吐などがあります。異常値の基準として、AST/ALTが正常上限の5倍、総ビリルビンが正常上限の3倍を超える場合が重度とされます。肝機能障害の発現リスクは投与開始初期に高くなる傾向があるため、特に治療開始後2~3ヶ月は注意深い観察が求められます。ubie+1
ある症例では、ゲフィチニブによる肝機能障害が遷延し、休薬やグリチルリチン-グリシン-L-システイン注の投与によっても改善されませんでしたが、肝水解物複合製剤(プロヘパール錠)の投与により改善が認められました。10名の非小細胞肺癌患者についての後ろ向き検討では、プロヘパール錠投与後、8例でALT、7例でASTの低下を認め、そのうち3例ではゲフィチニブの減量・休薬を行わずに改善しました。jrs
重度の肝機能障害が発生した際は休薬や減量、場合によっては投与中止を検討する必要があります。重症例では、ゲフィチニブによる重篤な肝機能障害発現後に、エルロチニブに変更することで肝機能障害の再発なく抗腫瘍効果が得られた報告もあります。jstage.jst+1
薬物動態学的には、ゲフィチニブは主に肝代謝(シトクロムP450 3A4)により代謝され、糞便中に86%、尿中に4%未満が排泄されます。血中半減期は48時間で、血中濃度が定常状態に達するまで連日内服で7~10日かかります。wikipedia
ゲフィチニブによる副作用の多くは適切な管理により制御可能ですが、予防的アプローチが重要です。投与開始前には、患者の既往歴、特に間質性肺炎、特発性肺線維症、じん肺症、放射線肺炎、薬剤性肺炎の合併の有無を確認する必要があります。これらの合併はゲフィチニブ投与中に発現する急性肺障害、間質性肺炎のリスクファクターとなります。medical.nihon-generic
定期的なモニタリングとしては、胸部X線検査、肝機能検査(AST、ALT、総ビリルビン)、腎機能検査、電解質検査が推奨されます。特に投与開始後4週間は厳重な観察が必要で、入院またはそれに準ずる管理のもとで間質性肺炎等の重篤な副作用発現に関する観察を十分に行うべきです。ubie+3
患者教育も予防的管理の重要な要素です。副作用の症状(息切れ、呼吸困難、発熱、咳、下痢、皮膚症状など)を患者に十分に説明し、異常を感じた際は速やかに医療機関に連絡するよう指導することが重要です。takata-seiyaku+2
薬物相互作用にも注意が必要で、ゲフィチニブはシトクロムP450 3A4で代謝されるため、CYP3A4阻害薬や誘導薬との併用には注意が必要です。また、多くの場合、副作用は軽症で、薬剤を一時的に中止することや対症的な治療で改善しますが、なかには重症の場合もあり、治療継続を断念せざるを得ないこともあります。haigan+1
副作用発現時の用量調整プロトコルを事前に確立しておくことも重要です。皮膚障害の程度は薬剤の用量に依存するため、適切なスキンケアと皮膚症状に対する治療をしていても重症化する場合は、休薬や減量を検討する必要があります。igaku-shoin
PMDAの緊急安全性情報:ゲフィチニブによる急性肺障害・間質性肺炎に関する詳細情報と対策
KEGG医薬品データベース:ゲフィチニブの副作用プロファイルと使用上の注意
三重大学医学部附属病院:分子標的薬皮膚障害対策マニュアル(PDF)