無月経の症状と原因、診断、治療

無月経は原発性と続発性に分類され、ホルモンバランスの乱れや卵巣機能異常が主な原因となります。骨密度低下や不妊などの合併症リスクがあるため、早期診断と適切な治療が重要です。放置すると骨粗鬆症につながるリスクもあるのをご存知ですか?

無月経の症状と診断

無月経の主要な臨床症状と特徴
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原発性無月経

18歳を過ぎても初経が来ない状態で、二次性徴の欠如を伴うことが多い

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続発性無月経

これまであった月経が3ヶ月以上停止した状態で、ホルモンバランスの乱れが原因

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合併症状

骨密度低下、不妊、体のほてり、腟乾燥などエストロゲン欠乏による症状

無月経の原発性と続発性における症状の違い

 

 

無月経は原発性無月経と続発性無月経に大きく分類されます。原発性無月経は18歳を過ぎても一度も月経が来ない状態を指し、頻度は約0.5%とされています。染色体異常や遺伝子異常、生殖器の形態異常、脳から分泌される性腺刺激ホルモンの異常などが原因となります。定義上は18歳となっていますが、15~16歳ごろになっても初経が発来しない場合には早期に婦人科を受診することが推奨されます。

 

原発性無月経の患者では、通常、乳房の発達などの二次性徴もみられません。ターナー症候群や純型性腺形成異常、Kallmann症候群などの先天性疾患が背景にあることが多く、卵巣性、視床下部性、下垂体性、子宮性など障害部位によって分類されます。一方、続発性無月経はこれまで規則的にあった月経が3ヶ月以上停止した状態を指します。

 

続発性無月経の頻度の高い原因としては、無理なダイエットや肥満、ストレス、環境の変化などによる女性ホルモンバランスの乱れが挙げられます。視床下部性無月経が最も多く、精神的ストレス、過度の体重減少(体重減少性無月経)、過度の運動負荷などが主要な原因となります。比較的頻度の低い原因としては、脳下垂体の腫瘍や高プロラクチン血症などの内分泌疾患が挙げられます。

 

無月経の診断におけるホルモン検査の重要性

無月経の診断は詳細な問診から始まり、身体診察、各種検査を経て行われます。問診では最終月経の時期、月経の規則性、妊娠の可能性、体重変化の有無、ストレスや生活環境の変化、薬物使用歴、運動習慣などが確認されます。まず妊娠の可能性を除外することが最も重要であり、必要に応じて尿妊娠検査が実施されます。

 

血液検査はホルモンバランスや全身状態を評価するために必須です。FSH(卵胞刺激ホルモン)とLH(黄体形成ホルモン)の測定により、卵巣機能や脳下垂体の異常を評価できます。特にFSHが高値の場合は卵巣機能不全や早発閉経の可能性が示唆されます。エストラジオール(エストロゲン)の測定により、卵巣からのホルモン分泌状態を確認し、プロゲステロン値から排卵の有無を推定できます。

 

プロラクチンの過剰分泌は視床下部や脳下垂体の異常を示唆し、無月経の重要な原因となります。また、TSH、FT4などの甲状腺ホルモンの測定により、甲状腺機能低下症や亢進症が無月経の原因となっていないかを確認します。テストステロンの測定は多嚢胞性卵巣症候群の診断に有用です。これらのホルモン基礎値とLH-RH負荷テストにより、高プロラクチン血症、卵巣性無月経、下垂体性無月経、視床下部性無月経、多嚢胞性卵巣症候群などの鑑別診断を進めることができます。

 

無月経の重症度分類とプロゲステロン負荷試験

無月経の重症度を診断するために、プロゲステロン負荷試験(ゲスターゲンテスト)とエストロゲン・プロゲステロン負荷試験が実施されます。これらの検査は子宮からの消退出血の有無により判定され、無月経の診断において非常に重要な手順です。

 

プロゲステロン負荷試験では、黄体ホルモン類似の作用をもつ薬剤(ゲスターゲン)を投与し、薬効の消失とともに消退出血が認められるかを観察します。消退出血が陽性(出血あり)の場合、患者の卵巣にはある程度成熟した卵胞の発育がありエストロゲン分泌を行っており、第1度無月経と診断されます。第1度無月経では、卵巣には発育途中の卵胞を認め、血中エストロゲン値は一定量あるため子宮内膜は増殖していますが、排卵せずプロゲステロンの分泌がない状態です。多嚢胞性卵巣症候群のような排卵障害が考えられます。

 

プロゲステロン負荷試験で陰性(出血なし)の場合は、エストロゲン・プロゲステロン負荷試験を行い、消退出血を確認します。この試験で出血が認められれば、卵胞の発育が極めて不良な第2度無月経と診断されます。第2度無月経は中枢性の排卵障害が重度であり、エストロゲン分泌が著しく低下している状態を示します。エストロゲン・プロゲステロン負荷試験でも陰性のときは、機能的子宮を欠く子宮性無月経が考えられます。

 

無月経における画像検査と身体診察の役割

画像検査は生殖器官の構造や異常を確認するために重要な役割を果たします。骨盤超音波検査により子宮や卵巣の状態を観察し、子宮内膜の厚さ、卵巣の大きさ、卵胞の発育状況などを評価できます。原発性無月経の患者では、子宮欠損症や腟閉鎖症、処女膜閉鎖症などの先天性の形態異常を除外するために骨盤内超音波検査から始めるべきとされています。

 

MRI検査により、より詳細な骨盤内の構造を確認し、脳下垂体の腫瘍の有無や視床下部の異常を評価できます。特に高プロラクチン血症が疑われる場合や、下垂体性無月経が考えられる場合には、頭部MRIによる画像評価が必須となります。また、骨密度検査により、長期的な無月経による骨への影響を評価することが可能です。

 

身体診察では、身長・体重を測定しBMIを確認し、栄養状態を評価します。二次性徴として乳房発育や陰毛の状態を観察し、性成熟度を判定します。甲状腺の腫れや結節の有無、外性器の発育状態や異常の有無も確認されます。身体診察により無月経の原因となる身体的特徴や異常を見つけることができ、診断の方向性を決定する重要な情報が得られます。

 

無月経の障害部位別分類における独自の視点

無月経の障害部位別分類は、視床下部性無月経、下垂体性無月経、卵巣性無月経、子宮性無月経に大きく分けられます。この分類は日常臨床を行う際に非常に役立ち、治療方針の決定にも重要です。視床下部─下垂体─卵巣系(HPO軸)のフィードバック機構の理解が、無月経の病態把握の鍵となります。

 

視床下部性無月経は、思春期の月経不順・続発性無月経の障害部位では最も多いと考えられます。卵胞期においては、視床下部の性中枢、特にcyclic centerによる周期的な神経性インパルスが卵胞発育に重要であり、この機能の変動が月経周期のずれをもたらします。下垂体性無月経では、一部の特発性低ゴナドトロピン性性腺機能低下症(IHH)のようにGnRH受容体遺伝子変異によるものが含まれます。

 

卵巣性無月経には、ターナー症候群、卵巣発育不全、抗癌剤や放射線治療後の卵巣機能障害などが含まれます。FSHが高値を示す卵巣不全(gonadal dysgenesis)が特徴的です。子宮性無月経では、先天性子宮欠損症、結核性子宮内膜炎、Asherman症候群などが原因となります。また、インターセックス(性分化疾患)による無月経として、真性半陰陽、女性仮性半陰陽(副腎性器症候群)、男性仮性半陰陽(精巣性女性化症候群)などが鑑別診断に含まれます。

 

近年注目されているのは、女性アスリートの三徴(Female Athlete Triad)です。Low energy availability(エネルギー摂取量<消費量)、無月経、骨粗鬆症の三徴が定義され、本来荷重がかかる運動は骨に好影響を与えるはずですが、エネルギー不足状態では視床下部性無月経の原因となり、エストロゲン低下による骨量減少・骨粗鬆症を引き起こします。

 

参考:日本産科婦人科学会による無月経の分類と診断基準
中外医学社「無月経の検査と診断と治療」では、無月経の原因として性器の解剖学的異常以外は、そのほとんどが視床下部─下垂体─卵巣系の異常による無排卵が原因と考えられると解説されています。

無月経に伴う骨密度低下と長期合併症のリスク

無月経が長期間続くと、女性ホルモン(エストロゲン)のバランスが乱れた状態が持続し、閉経後に起こり得るような体のほてり、腟の乾燥、骨密度の低下、心臓・血管の病気のリスク上昇などが生じる可能性があります。特に骨密度低下は若年女性においても重大な問題となります。

 

原発性無月経によるエストロゲンの低下は、最大骨量を獲得できないまま骨量低下をもたらし、将来の骨粗鬆症の危険性や骨折頻度を高める可能性があります。思春期は骨量獲得の最も重要な時期であり、この時期に無月経があると、成人後に標準体重になったとしても半数以上に骨量減少がみられたとの報告があります。無月経女性の研究では、対照群と比較して腰椎の骨密度が有意に低下していることが示されています。

 

続発性無月経においても、エストロゲン欠乏状態が続くことで骨代謝に悪影響を及ぼします。無月経は骨密度を低下させ、骨がスカスカになる骨粗鬆症を引き起こす原因となります。無月経アスリートの72%が骨密度測定で骨減少症または骨粗鬆症の診断基準を満たしたという研究報告もあり、若年女性であっても51歳女性と同程度の骨密度まで低下する症例が報告されています。

 

骨代謝マーカーの研究では、無月経により骨形成マーカー(N-terminal propeptied of type 1 procollagen)の低下と骨吸収マーカー(N-telopeptide)の上昇が認められ、骨形成の減少と骨吸収の増加という不均衡が生じています。月経異常を放置した場合には、骨粗鬆症だけではなく、将来不妊症になるなどのリスクもあり、骨量の獲得や維持には月経異常を放置しないことが重要な要素となります。

 

閉経前の女性でプロラクチノーマによる無月経を長期間放置すると、骨密度が低下し骨粗鬆症となります。エストロゲンの欠乏・低下により、骨密度が低下して骨折しやすくなる、心臓や血管に動脈硬化などの異常が起きやすくなるなど、複数の健康リスクが増大します。無月経の期間が長いほど、これらの合併症リスクは高くなるため、早期発見と早期治療が極めて重要です。

 

無月経における不妊と卵巣機能不全の関連性

無月経の人のほとんどは卵巣からの排卵がないため、妊娠に至りません。卵巣機能不全は、卵巣が正常にはたらかなくなり、月経周期の乱れや無月経など、さまざまな障害が引き起こされる状態です。卵巣からはエストロゲン(卵胞ホルモン)、プロゲステロン(黄体ホルモン)の2つの卵巣ホルモンが分泌され、月経周期を調整していますが、このホルモンバランスの乱れから排卵障害が生じます。

 

無月経や無排卵に至った場合は不妊となります。卵巣機能不全の多くは、視床下部から分泌されるゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)の低下を示し、その背景には過激なダイエットや運動、やせ、肥満、過食、拒食、精神的ストレスが存在します。卵巣ホルモンは脳の視床下部から下垂体、卵巣へと指令が伝わり、分泌が促されますが、司令塔となる視床下部は自律神経系の中枢でもあり、ストレスで自律神経が乱れるとホルモン系にも影響が及び、月経に異常をきたします。

 

排卵の有無は、毎朝基礎体温を測ればわかります。正常な基礎体温は低温期、高温期できれいな二相が描かれますが、無排卵では低温相しか現れません。高温相が10日以内と短い場合は、黄体機能不全が疑われます。黄体機能不全は、排卵はきちんとあるのに月経周期が乱れ、不妊や流産を引き起こす障害で、黄体期におけるプロゲステロンの分泌不足が原因です。

 

早期卵巣不全(早発閉経)は、40歳未満で卵巣機能が低下し無月経となる状態を指します。卵巣が機能しなくなることにより、妊娠が困難となるだけでなく、エストロゲン欠乏による様々な健康問題が生じます。無月経の期間が短い場合は比較的早く月経も再開しますが、半年以上無月経が続いた場合は反応も鈍く、治療も根気よく継続していく必要があります。

 

無月経の治療におけるホルモン療法の実際

無月経の治療は原因に応じて個別化され、主な治療法にはホルモン療法、薬物療法、生活習慣の改善などがあります。治療期間は数週間から数か月、場合によってはそれ以上かかることがあります。月経は不順でも、排卵がきちんと起こっていれば、基本的に治療の必要はありませんが、無月経、不妊の場合はホルモン療法を行います。

 

カウフマン療法は、無月経や生理不順、あるいは不妊治療の一環として行われるホルモン補充療法の一つです。女性ホルモンであるエストロゲンとプロゲステロンを周期的に補充することで、子宮内膜を妊娠しやすい状態に整えたり、月経周期を擬似的に作り出すことを目的とします。正常な月経周期に見立てて、月経3日目(低温期)よりエストロゲンを補充し、月経15日目(高温期)よりプロゲステロンを補充します。月経24日目に薬剤を中止すると、消退出血が起こります。

 

視床下部や下垂体といった、女性ホルモンの分泌をコントロールする脳の部位や、卵巣を休ませる効果も期待できます。カウフマン療法により、子宮内膜が適切に育ち、消退出血が起こるようになることで、子宮の健康維持に貢献し、無月経が長期間続くことによる子宮の機能低下や骨粗鬆症のリスクを軽減できます。また、視床下部-下垂体-卵巣系が一時的に休息することで、治療終了後に自然な月経周期が回復する可能性も期待できます。

 

カウフマン療法は主に第2度無月経に対して行いますが、体重減少性無月経の場合は適正体重に戻すことがホルモン治療よりも優先されます。また、第1度無月経に対しては、多嚢胞性卵巣症候群や視床下部性無月経などへの鑑別診断を進め、原因に応じた治療を行います。妊娠を希望する場合には、カウフマン療法で子宮内膜を整えた後、排卵誘発剤などで治療を行い、妊娠の可能性を高めることができます。

 

ホルモン負荷検査で足りないホルモンを調べたうえで、不足分を薬で補充していきます。早期に妊娠を望む場合は、月経再開後、排卵誘発剤などで治療します。3ヶ月間月経がなければ無月経として治療の対象になりますから、基礎体温を1ヶ月ほどつけて婦人科へ持参するとよいです。

 

参考:日本産科婦人科学会による治療ガイドライン
カウフマン療法の詳細と効果では、無月経や生理不順に悩む女性にとって、重要な治療法の選択肢として、エストロゲンとプロゲステロンを周期的に補充する方法が解説されています。
無月経は医療従事者が適切に診断し、早期に治療介入することで、骨密度低下や不妊などの長期合併症を予防できる重要な疾患です。患者の年齢、症状、妊娠希望の有無などを総合的に評価し、個別化された治療計画を立てることが求められます。

 

 




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