イソフルランとセボフルランの違いや特性と使い分け

イソフルランとセボフルランは、どちらも全身麻酔で広く使用される吸入麻酔薬ですが、血液ガス分配係数や臨床特性に明確な違いがあります。麻酔導入や覚醒時間、循環器系への影響、さらに小児麻酔での使い分けなど、両薬剤の相違点を理解することで、患者状態や手術内容に応じた最適な麻酔選択が可能になります。医療従事者として知っておくべき両薬剤の特徴と臨床上の使い分けとは?

イソフルランとセボフルランの違い

イソフルランとセボフルランの主要な違い
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血液ガス分配係数の差異

イソフルランは1.4、セボフルランは0.63と、セボフルランの方が血液への溶解度が約2倍低く、導入・覚醒が迅速

麻酔深度の調整性

セボフルランは麻酔深度の変更が容易で、イソフルランより組織蓄積が少ないため覚醒時間が短縮

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気道刺激性と小児適応

セボフルランは気道刺激性が低く小児導入に適するが、覚醒時興奮の発生率がイソフルランより高い

イソフルランとセボフルランの血液ガス分配係数の違い

 

 

イソフルランとセボフルランの最も重要な違いの一つが血液ガス分配係数です。イソフルランの血液ガス分配係数は1.4であるのに対し、セボフルランは0.63と約半分の値を示します。この分配係数は吸入麻酔薬の血液への溶解度を表す指標であり、数値が低いほど血液に溶けにくく、結果として麻酔の導入と覚醒が速やかになります。doubutsuiryokiki+3
血液ガス分配係数が低いセボフルランでは、吸入された麻酔薬が血液中に留まる時間が短く、肺胞から脳への到達が迅速です。一方、イソフルランは血液への溶解度が高いため、脳に到達するまでにより多くの時間を要し、覚醒時にも血液中の薬物が肺から排泄されるまでに時間がかかります。この特性により、セボフルランは麻酔深度の調整性が優れており、臨床的に麻酔導入・覚醒が速い、麻酔深度の調整性がよい、麻酔深度の安定性がよいという利点をもたらします。jstage.jst+3
長時間麻酔や肥満患者では組織への蓄積が問題となりますが、セボフルランはイソフルランに比べて排出に要する時間が短く、麻酔薬投与時間にかかわらず排出時間の差が小さいという特徴があります。このため、手術時間が長い症例や体格の大きい患者においても、セボフルランの方が予測可能な覚醒時間を提供できるという臨床的メリットがあります。draeger+1

イソフルランとセボフルランのMAC(最小肺胞濃度)の比較

イソフルランとセボフルランのMAC(最小肺胞濃度)には明確な違いがあります。イソフルランのMACは1.15%であるのに対し、セボフルランは約2.0%(25歳で2.6%、40歳で2.1%)とイソフルランの約2倍の値を示します。MACは50%の患者が皮膚切開相当の刺激に対して体動を示さない肺胞内麻酔薬濃度として定義され、吸入麻酔薬の効力を比較する際の標準的な指標です。anesth-beginner+3
MAC値が低いほど麻酔効果が強いことを意味するため、イソフルランはセボフルランに比べて低い濃度で同等の麻酔効果を得られます。しかし、MAC値は臨床的には限定的な指標であり、実際の麻酔管理では侵襲度の高い手術には不十分です。このため、臨床ではMAC-BAR(交感神経反応を抑制する濃度)やMAC-awake(覚醒する濃度)といった派生指標が用いられます。med.akita-u+2
セボフルランのMAC値は年齢依存性があり、10歳上がるごとにMAC が7.2%減少し、80歳では1.4%にまで減少します。この年齢による変化を考慮した濃度調整が臨床上重要であり、高齢患者では過量投与による循環抑制や呼吸抑制のリスクが高まるため注意が必要です。オピオイドとの併用時にはMAC値が低下するため、フェンタニルなどの鎮痛薬との相互作用を理解した上での濃度設定が求められます。anesth+3

イソフルランとセボフルランの代謝と副作用の違い

イソフルランとセボフルランの体内代謝には重要な違いがあります。セボフルランは体内代謝率が3~5%とされ、イソフルランと類似した代謝特性を持ちますが、代謝物として無機フッ素が検出されます。セボフルラン吸入後の健常成人の血清中には無機フッ素が検出されますが、この濃度は一般に腎障害が起こるとされている濃度よりも低く、臨床的な問題となることは稀です。maruishi-pharm+2
イソフルランとセボフルランの両方において、悪性高熱症、横紋筋融解症、ショック、アナフィラキシーといった重大な副作用のリスクが存在します。セボフルランでは癲癇の既往のある患者に対して投与した際、棘波、棘・徐波複合波などの突発性異常波がイソフルランよりも高率に出現したという報告があります。既往のない患者ではどちらの吸入麻酔薬でも異常脳波は出現しませんでしたが、癲癇のリスクがある患者では薬剤選択に注意が必要です。anesth+4
二酸化炭素吸収剤との反応性にも違いがあります。乾燥した二酸化炭素吸収剤とともに使用した場合、イソフルランでは一酸化炭素の発生量が多く、デスフルラン、エンフルラン、イソフルランの順で発生量が高いとされています。一方、ハロセンやセボフルランでは発生量がごく低いため、セボフルランの方が安全性の面で優れています。適度の湿度がある二酸化炭素吸収剤では一酸化炭素発生は起こらないため、乾燥した吸収剤の使用を避けることが重要です。anesth+4

イソフルランとセボフルランの循環器系への影響の違い

イソフルランとセボフルランの循環器系への作用には明確な相違点があります。セボフルランは心係数を低下させ、用量依存的に体血管抵抗を減少させることで血圧低下を引き起こしますが、イソフルランに比較して心拍数の増加はみられません。一方、イソフルランでは血管拡張から生理反応で心拍数が上昇する傾向があります。anesth+3
両薬剤とも心筋収縮力を抑制しますが、セボフルランでは心拍数が比較的保たれるため、結果的には心拍出量への影響が少ないとされています。すべての吸入麻酔薬は心血管系に対して用量依存性に抑制性の変化を生じますが、セボフルランは循環抑制作用が比較的弱いため、高濃度導入であっても血圧低下をきたしづらく、循環器疾患を合併している症例に対しても安全に麻酔導入することが可能です。dbarchive.biosciencedbc+2
イソフルランは肝腎への影響が少ないという利点がありますが、臭いが強いという欠点があります。一方、セボフルランは肺、腎への影響が少なく、体内での代謝が低いという特徴を持ちます。セボフルランでは脳圧亢進はみられませんが、脳圧亢進のある患者では過換気など脳圧を下げる処置を行いつつ注意して使用する必要があります。これらの循環器系への影響の違いを理解することで、患者の基礎疾患や手術内容に応じた適切な麻酔薬の選択が可能となります。airimaq.kyushu-u+6

イソフルランとセボフルランの小児麻酔での使い分けと覚醒時興奮

小児麻酔におけるイソフルランとセボフルランの使い分けには、気道刺激性と覚醒時興奮という2つの重要な観点があります。セボフルランは気道刺激性が低く、高濃度を投与しても喉頭痙攣や気道反射を起こしにくいため、小児の麻酔導入には必須の薬剤と言っても過言ではありません。静脈路が確保できない小児に対して吸入麻酔薬を用いたマスク導入が一般的に行われており、セボフルランは単独での導入が可能という利点があります。knight1112jp.seesaa+4
しかし、覚醒時興奮(emergence agitation)の発生頻度には明確な違いがあり、セボフルランはイソフルランに比べて有意に高い覚醒時興奮のリスクを示します。8件の無作為化比較試験(523人の小児)を対象としたメタ解析では、イソフルラン後の覚醒時興奮の発生率は、セボフルランと比較して有意に低く(リスク比:0.62、95%CI:0.46-0.83)、前投薬または術中全身性鎮痛剤を投与された患者のサブ群においても、イソフルランの保護効果が有意でした。jstage.jst+2
覚醒時興奮は3~9歳の小児で有意に多く、セボフルランやデスフルランといった血液ガス分配係数の小さい揮発性麻酔薬の使用が高率に覚醒時興奮を引き起こすことが問題となっています。抜管までの時間、覚醒時間、麻酔回復室の持続時間には有意差はありませんでしたが、覚醒時興奮のリスクが高い患者の維持麻酔には、セボフルランよりもイソフルランを考慮すべきであると提案されています。麻酔覚醒時に覚醒時興奮と呼ばれる興奮状態になる場合があり、これは患者の安全管理や医療者の負担増加につながるため、薬剤選択において重要な考慮事項となります。年齢、民族性、緊急手術、長時間手術が覚醒時興奮の有意なリスク因子として報告されており、これらの因子を持つ患者ではより慎重な麻酔薬選択が求められます。knight1112jp.seesaa+4

 

 




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