カテコールとピロカテコール違いは名称のみ、構造用途医薬品

カテコールとピロカテコールは同一化合物を指す別名であり、構造や化学的性質に違いはありません。両者はベンゼン環にオルト位のヒドロキシ基を持つ重要な有機化合物として、医薬品中間体や重合防止剤など多様な用途で利用されています。この二つの名称にはどのような歴史的背景があり、実際の化学的性質や医療現場での応用にはどのような特徴があるのでしょうか?

カテコールとピロカテコールの違い

カテコールとピロカテコールの基本情報
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同一化合物の別名

カテコールとピロカテコールは同じ化学物質を指す異なる呼称です

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化学構造

ベンゼン環のオルト位に2個のヒドロキシ基を持つ有機化合物

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医薬品用途

医薬品中間体、重合防止剤、写真現像薬として広く利用

カテコールの名称と由来

 

カテコール(catechol)という名称は、マメ科アカシア属のペグ阿仙薬(Acacia catechu)に含まれていたカテキンの乾留成分から発見されたことに由来します。一方、ピロカテコール(pyrocatechol)は、「ピロ(pyro-)」が火や高熱を意味する接頭語であり、カテキンの熱分解物から得られたことを示しています。両者は同一物質を指す別名であり、化学式C6H6O2、分子量110.11の同じ化合物です。
参考)カテコール - Wikipedia

日本の化学物質管理においては、「カテコール(別名:ピロカテコール)」または「ピロカテコール(別名:カテコール)」として記載され、どちらの名称も公式に認められています。IUPACの命名法では1,2-ジヒドロキシベンゼン(1,2-Dihydroxybenzene)またはo-ジヒドロキシベンゼン(o-Dihydroxybenzene)とも呼ばれます。
参考)https://www.mhlw.go.jp/shingi/2010/05/dl/s0521-6n.pdf

カテコールの化学構造と性質

カテコールは、ベンゼン環上のオルト位(隣接する位置)に2個のヒドロキシ基(-OH)を有する有機化合物です。この構造は、ヒドロキシ基の位置が異なる構造異性体であるヒドロキノン(パラ位、1,4-体)およびレゾルシノール(メタ位、1,3-体)と区別されます。
参考)https://mh.rgr.jp/memo/mz0118.htm

物理的性質として、常温常圧で無色の固体であり、融点104-106℃、沸点245℃を示します。密度は1.344 g/cm³であり、水、アルコール、エーテルに可溶です。重要な化学的特性として、カテコールは昇華しやすく、酸化されやすい性質を持ちます。特にアルカリ溶液では空気中で変色しやすく、長期間空気中に放置すると淡いピンク色から茶色に変色します。
参考)カテコール

カテコールは強い還元力を有し、o-キノンとの間に酸化還元系を形成し、生体内電子伝達系の一つとして機能します。銀鏡反応を示し、フェーリング液を還元する作用があります。
参考)カテコールとは? 意味や使い方 - コトバンク

カテコールの医薬品中間体としての用途

カテコールは医薬品、香料などの有機合成原料として重要な役割を果たしています。特に医薬品中間体としての用途が広く、生体物質の骨格に含まれる構造として医学的に重要です。
参考)120-80-9・ピロカテコール・Pyrocatechol・…

ウルシオール(漆の主成分)、カテコールアミンレボドパドーパミンノルアドレナリン、アドレナリン)、カテキンなどのポリフェノールといった多くの生体物質の骨格にカテコール構造が含まれています。このため、これらの医薬品や生理活性物質の合成において、カテコールは重要な出発物質または中間体となります。
参考)カテコール(Catechol)

カテコールを含む化合物は、抗酸化作用が強いとされ、医薬品データベースの調査では、8659の薬物のうち78のカテコール構造を有する化合物(カテコリック)が同定され、そのうち17がFDAにより処方されています。カテコール型化合物の分子特性として、強い電子供与性置換基の排除や適切なClogP値の制御が、毒性を回避するために重要であることが示されています。
参考)https://www.mdpi.com/1420-3049/12/4/878/pdf?version=1403112450

カテコールの重合防止剤と工業用途

カテコールは、モノマーの重合防止剤として工業的に広く使用されています。ビニルモノマーやスチレンなどの重合性化合物の保管や輸送時に、意図しない重合反応を防ぐために添加されます。この用途では、カテコールの強い抗酸化作用と還元力が活用されています。
参考)https://www.ube.com/ube/contents/chemical/fine/

写真現像薬としても重要であり、p-メチルアミノフェノール(メトール)と組み合わせて使用されます。また、アルカリ溶液中で金属と錯体を形成する性質を利用して、チタン、鉄、コバルトなどの金属イオンの分析用試薬としても用いられます。​
染料の原料や止血剤としての用途もあり、半導体製造の際にも使用されます。酸化防止剤としての応用も知られており、ポリフェノールに含まれる構造として天然物中にも見出されます。
参考)https://www.prtr.env.go.jp/factsheet/factsheet/pdf/fc00343.pdf

カテコールの毒性と安全性管理

カテコールは日本法において劇物に指定されており、適切な取り扱いが必要です。急性毒性として、ラットの経口LD50値は260-300 mg/kg、経皮LD50値は600 mg/kgとされ、区分3(有毒)に分類されています。ウサギの経皮LD50値は800 mg/kgです。
参考)https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/120-80-9.html

カテコールはフェノールよりも急性毒性があり、イヌでの致死経口用量は約0.3 g/kg、モルモットでは0.16 g/kgとされています。胃腸管および無傷の皮膚から容易に吸収され、吸収後の一部はポリフェノールオキシダーゼによってo-ベンゾキノンに酸化されます。別の画分は体内でグルクロン酸、硫酸などと結合し、少量は遊離カテコールとして尿中に排泄されます。
参考)フェノールおよびフェノール化合物

発がん性については、IARCによりグループ2B(ヒトに対して発がん性の可能性がある)、ACGIHによりA3、日本産業衛生学会により第2群Bに分類されています。労働安全衛生法では規制化学物質に指定され、PRTR法(化学物質管理促進法)の対象物質でもあります。
参考)カテコール (----)

作業時には適切な保護具の使用が義務付けられており、皮膚刺激性および皮膚吸収性有害物質として管理されています。光や空気に対して影響を受けやすく、酸化剤と激しく反応し、火災や爆発の危険を生じる可能性があるため、保管時には遮光や不活性ガス雰囲気下での管理が推奨されます。
参考)http://www.showa-chem.com/MSDS/03148250.pdf

厚生労働省職場のあんぜんサイト:カテコールの安全データシート(化学物質の取り扱い、保護具、応急措置の詳細情報)
厚生労働省:カテコールの有害性評価書(毒性データ、健康影響、リスク評価の専門的情報)