ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬種類一覧

ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬(NaSSA)の種類と一覧について、作用機序から薬価まで詳しく解説。どの製剤を選択すべきでしょうか?

ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬の種類と一覧

NaSSA製剤の基本情報
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主成分

ミルタザピンが唯一の有効成分として使用

効果発現

約1週間と他の抗うつ薬より早期

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作用機序

α2受容体阻害による神経伝達物質放出促進

ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬の基本的作用機序

ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬(NaSSA:Noradrenergic and Specific Serotonergic Antidepressant)は、従来のSSRIやSNRIとは異なる独特な作用機序を持つ抗うつ薬です。

 

NaSSAの主要な作用メカニズムは以下の通りです。

  • α2自己受容体阻害作用:中枢神経のシナプス前α2自己受容体を阻害することで、ノルアドレナリンの産生を促進します
  • α2ヘテロ受容体阻害作用:α2ヘテロ受容体の阻害により、セロトニン神経終末からのセロトニン放出を増加させます
  • 5-HT2・5-HT3受容体阻害:セロトニン受容体のうち副作用に関連する5-HT2および5-HT3受容体を阻害し、抗うつ作用に関連する5-HT1受容体を選択的に活性化させます

この独特な作用機序により、SSRIやSNRIが抗うつ効果発現まで2~4週間を要するのに対し、NaSSAは約1週間という短期間で効果が現れるとされています。MANGA studyと呼ばれる大規模な抗うつ剤比較研究では、ミルタザピンは最も有効性が高いという評価を受けており、その臨床的有用性が実証されています。

 

ミルタザピン系製剤の先発品と後発品の種類一覧

現在日本で使用可能なノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬は、ミルタザピンを主成分とする製剤のみです。以下に詳細な製剤一覧を示します。
先発品(ブランド品)

  • リフレックス錠(Meiji Seikaファルマ):15mg、30mg
  • レメロン錠(オルガノン):15mg、30mg

後発品(ジェネリック医薬品)

  • ミルタザピン錠「EE」(エルメッド):15mg、30mg
  • ミルタザピンOD錠「DSEP」(ジェイドルフ製薬):15mg、30mg
  • ミルタザピン錠「杏林」(キョーリンリメディオ):15mg、30mg
  • ミルタザピン錠「明治」(大蔵製薬):15mg、30mg
  • ミルタザピン錠「JG」(長生堂製薬):15mg、30mg
  • ミルタザピン錠「日新」(日新製薬-山形):15mg、30mg
  • ミルタザピン錠「YD」(陽進堂):15mg、30mg
  • ミルタザピン錠「ケミファ」(日本ケミファ):15mg、30mg
  • ミルタザピン錠「TCK」(辰巳化学):15mg、30mg
  • ミルタザピン錠「ニプロ」(ニプロ):15mg、30mg
  • ミルタザピンOD錠「ニプロ」(ニプロ):15mg、30mg
  • ミルタザピン錠「フェルゼン」(フェルゼンファーマ):15mg、30mg
  • ミルタザピンOD錠「アメル」(共和薬品工業):15mg、30mg
  • ミルタザピン錠「VTRS」(ダイト):15mg、30mg
  • ミルタザピン錠「トーワ」(東和薬品):15mg、30mg
  • ミルタザピンOD錠「トーワ」(東和薬品):15mg、30mg
  • ミルタザピン錠「サワイ」(沢井製薬):15mg、30mg
  • ミルタザピンOD錠「サワイ」(沢井製薬):15mg、30mg
  • ミルタザピン錠「KMP」(共創未来ファーマ):15mg、30mg

特に注目すべきは、通常の錠剤に加えてOD錠(口腔内崩壊錠)の製剤も複数のメーカーから販売されている点です。OD錠は嚥下困難な患者や高齢者に対して服薬コンプライアンスの向上に寄与します。

 

ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬の薬価比較

ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬の薬価には、先発品と後発品で大きな差が見られます。以下に主要な製剤の薬価を示します。
先発品の薬価

  • リフレックス錠15mg:76.3円/錠
  • リフレックス錠30mg:117.8円/錠
  • レメロン錠15mg:61.9円/錠
  • レメロン錠30mg:111.8円/錠

後発品の薬価(代表例)

  • ミルタザピン錠15mg「EE」:13.3円/錠
  • ミルタザピン錠30mg「EE」:24.4円/錠
  • ミルタザピン錠15mg「ケミファ」:13.3円/錠
  • ミルタザピン錠30mg「ケミファ」:24.4円/錠
  • ミルタザピンOD錠15mg「ニプロ」:13.3円/錠
  • ミルタザピンOD錠30mg「ニプロ」:24.4円/錠

薬価比較から明らかなように、後発品は先発品の約5分の1程度の価格となっており、医療経済的なメリットが大きいことがわかります。特に15mg製剤では、先発品が61.9~76.3円に対し、後発品は13.3円と大幅な差が見られます。

 

ただし、製剤によって若干の薬価差があり、例えばミルタザピン錠30mg「TCK」は46.1円/錠と他の後発品より高価に設定されている点にも注意が必要です。

 

ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬の副作用プロファイル

ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬は、その特殊な作用機序により、他の抗うつ薬とは異なる副作用プロファイルを示します。

 

主要な副作用

  • 傾眠(50.0%):最も頻度の高い副作用で、服薬開始初期に特に強く現れます
  • 体重増加(15.2%):抗ヒスタミン作用による食欲増進が原因とされています
  • 浮動性めまい:起立性低血圧に関連した症状として報告されています
  • 頭痛:初期の適応過程で一時的に現れることがあります

その他の副作用

  • 高プロラクチン血症
  • 乳汁漏出症
  • 女性化乳房
  • 体位性めまい
  • 感覚鈍麻
  • 振戦
  • 不眠症
  • 構語障害

興味深いことに、NaSSAによる眠気と食欲増進の副作用は、不眠や食欲不振を呈するうつ病患者にとっては治療上有益な作用として機能することがあります。この特性を活かし、睡眠障害や体重減少を伴ううつ病患者に対して積極的に選択される場合もあります。

 

重篤な副作用
まれではありますが、以下の重篤な副作用も報告されています。

  • 皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)
  • 多形紅斑
  • QT延長
  • 心室頻拍

これらの重篤な副作用については、定期的なモニタリングと早期発見が重要です。

 

ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬と他剤併用時の注意点

ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬の臨床使用において、他の抗うつ薬との併用療法は重要な治療戦略の一つです。特に注目されるのは、SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)との併用療法です。

 

SNRI併用療法(カルフォルニアロケット療法)
ミルタザピン(NaSSA)とサインバルタ(デュロキセチン)やイフェクサー(ベンラファキシン)などのSNRIとの併用は「カルフォルニアロケット療法」と呼ばれ、治療抵抗性うつ病に対して高い有効性が報告されています。この併用により。

  • セロトニンとノルアドレナリンの神経伝達がより強力に増強される
  • 単剤治療では改善困難な症例に対して効果が期待できる
  • 相互補完的な作用機序により、副作用の軽減も期待される

併用時の注意点

  • セロトニン症候群のリスク:過度のセロトニン増強により、発熱、錯乱、筋強剛などの症状が現れる可能性があります
  • 血圧変動:ノルアドレナリン作用の増強により、血圧上昇や起立性低血圧のリスクが高まります
  • 相互作用の監視:肝代謝酵素の競合的阻害により、血中濃度が予想以上に上昇する可能性があります

増強療法としての活用
抗うつ薬単独治療で十分な効果が得られない場合、定型抗精神病薬を併用する増強療法も検討されます。NaSSAはこの増強療法のベースとなる抗うつ薬としても適用可能で、特に。

  • アリピプラゾールとの併用
  • クエチアピンとの併用
  • オランザピンとの併用

これらの組み合わせが治療選択肢として考慮されます。

 

離脱症状への対策
NaSSAの長期服用後の急激な中止は、頭痛、めまい感、全身倦怠感などの離脱反応を引き起こす可能性があります。併用療法から単剤療法への移行時や治療終了時には、段階的な減量が必要です。特に、1回の飲み忘れでも離脱反応が出現することがあるため、患者への服薬指導の徹底が重要です。

 

薬事情報に関する詳細情報は日本医薬情報センター(JAPIC)のデータベースで確認できます。

 

ミルタザピンの詳細な薬事情報と副作用データ
うつ病治療における薬物療法の最新ガイドラインについては、日本うつ病学会の治療ガイドラインを参照することを推奨します。

 

抗うつ薬の包括的な治療情報とガイドライン