ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬(NaSSA:Noradrenergic and Specific Serotonergic Antidepressant)は、従来のSSRIやSNRIとは異なる独特な作用機序を持つ抗うつ薬です。
NaSSAの主要な作用メカニズムは以下の通りです。
この独特な作用機序により、SSRIやSNRIが抗うつ効果発現まで2~4週間を要するのに対し、NaSSAは約1週間という短期間で効果が現れるとされています。MANGA studyと呼ばれる大規模な抗うつ剤比較研究では、ミルタザピンは最も有効性が高いという評価を受けており、その臨床的有用性が実証されています。
現在日本で使用可能なノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬は、ミルタザピンを主成分とする製剤のみです。以下に詳細な製剤一覧を示します。
先発品(ブランド品)
後発品(ジェネリック医薬品)
特に注目すべきは、通常の錠剤に加えてOD錠(口腔内崩壊錠)の製剤も複数のメーカーから販売されている点です。OD錠は嚥下困難な患者や高齢者に対して服薬コンプライアンスの向上に寄与します。
ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬の薬価には、先発品と後発品で大きな差が見られます。以下に主要な製剤の薬価を示します。
先発品の薬価
後発品の薬価(代表例)
薬価比較から明らかなように、後発品は先発品の約5分の1程度の価格となっており、医療経済的なメリットが大きいことがわかります。特に15mg製剤では、先発品が61.9~76.3円に対し、後発品は13.3円と大幅な差が見られます。
ただし、製剤によって若干の薬価差があり、例えばミルタザピン錠30mg「TCK」は46.1円/錠と他の後発品より高価に設定されている点にも注意が必要です。
ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬は、その特殊な作用機序により、他の抗うつ薬とは異なる副作用プロファイルを示します。
主要な副作用
その他の副作用
興味深いことに、NaSSAによる眠気と食欲増進の副作用は、不眠や食欲不振を呈するうつ病患者にとっては治療上有益な作用として機能することがあります。この特性を活かし、睡眠障害や体重減少を伴ううつ病患者に対して積極的に選択される場合もあります。
重篤な副作用
まれではありますが、以下の重篤な副作用も報告されています。
これらの重篤な副作用については、定期的なモニタリングと早期発見が重要です。
ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬の臨床使用において、他の抗うつ薬との併用療法は重要な治療戦略の一つです。特に注目されるのは、SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)との併用療法です。
SNRI併用療法(カルフォルニアロケット療法)
ミルタザピン(NaSSA)とサインバルタ(デュロキセチン)やイフェクサー(ベンラファキシン)などのSNRIとの併用は「カルフォルニアロケット療法」と呼ばれ、治療抵抗性うつ病に対して高い有効性が報告されています。この併用により。
併用時の注意点
増強療法としての活用
抗うつ薬単独治療で十分な効果が得られない場合、非定型抗精神病薬を併用する増強療法も検討されます。NaSSAはこの増強療法のベースとなる抗うつ薬としても適用可能で、特に。
これらの組み合わせが治療選択肢として考慮されます。
離脱症状への対策
NaSSAの長期服用後の急激な中止は、頭痛、めまい感、全身倦怠感などの離脱反応を引き起こす可能性があります。併用療法から単剤療法への移行時や治療終了時には、段階的な減量が必要です。特に、1回の飲み忘れでも離脱反応が出現することがあるため、患者への服薬指導の徹底が重要です。
薬事情報に関する詳細情報は日本医薬情報センター(JAPIC)のデータベースで確認できます。
ミルタザピンの詳細な薬事情報と副作用データ
うつ病治療における薬物療法の最新ガイドラインについては、日本うつ病学会の治療ガイドラインを参照することを推奨します。