センナ センノシド 違い:成分、作用、臨床使用の観点

医療現場でよく処方される便秘薬の「センナ」と「センノシド」は、どのような関係にあり、どこが違うのでしょうか?

センナ センノシド 違い

センナとセンノシドの違い:3つの重要ポイント
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センナは生薬

マメ科植物の小葉から抽出される天然由来の生薬で、複数の成分を含有

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センノシドは有効成分

センナに含まれる特定のアントラキノン配糖体で、医薬品として精製された化合物

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臨床使用の違い

センノシドは作用が標準化され、医療現場で用量管理が容易な便秘薬として使用される

センナの基本的特徴と成分組成

 

センナは、アフリカ原産のマメ科植物であるアレキサンドリアセンナ(Cassia acutifolia Delile.)またはチンネベリセンナ(Cassia angustifolia Vahl.)の小葉を乾燥させた生薬です。古代エジプトの医学書「エーベルス・パピルス」にも記載されている歴史ある下剤で、アラビア医学でも古くから使用されてきました。
参考)センナ/新常用和漢薬集 | 公益社団法人東京生薬協会

センナには複数の生理活性成分が含まれており、主要成分としてアントラキノン類(chrysophanol、aloe-emodin、rheinなど)、ビアントロン類(センノシドA~D)、フラボノイド(kaempferolとその配糖体)が挙げられます。日本薬局方では、センナは総センノシドを1.0%以上含むことが規定されています。
参考)-薬用植物総合情報データベース

センナ葉の品質は栽培条件や収穫時期によって変動し、センノシド含量は開花前が高く、老熟葉より若齢葉の方が高い傾向にあります。このため、インドでは開花前に主茎葉を摘み、開花後に分枝葉を採取する二段階収穫が行われています。​

センノシドの化学構造と薬理作用機序

センノシドは、センナに含まれる主要有効成分であるジアンスロン配糖体の総称で、構造中に2つのグルコースを持つ配糖体です。特にセンノシドAとセンノシドBが医薬品として重要視されています。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/medical_interview/IF00002721.pdf

センノシドの作用機序は、腸内細菌による代謝を介した特徴的なものです。経口投与されたセンノシドは胃や小腸ではほとんど吸収されず、そのままの形で大腸に到達します。大腸に到達したセンノシドは、腸内細菌(特にBifidobacterium sp. SENなど一部の腸内細菌)の作用により、レインアンスロン(rhein anthrone)という活性代謝物に変換されます。
参考)センナ

このレインアンスロンが、大腸のアウエルバッハ神経叢(腸管筋層間神経叢)を直接刺激して高振幅大腸収縮波を惹起し、蠕動運動を亢進させます。また、センノシドは水分の腸内流入を高め、大腸の水分吸収を抑制することで便を軟らかくする作用も有しています。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/medical_interview/IF00002655.pdf

センノシドの作用発現時間は、通常経口投与後8~10時間で、就寝前に服用すると翌朝の排便が期待できます。
参考)https://med.skk-net.com/supplies/generic/products/item/SENS-if-2505.pdf

センナ センノシド 成分含有量の相違点

センナとセンノシドの最も重要な違いは、成分の標準化の程度です。センナは天然の生薬であるため、複数の活性成分を含み、その含有量は産地、栽培条件、収穫時期、保管状態などによって変動します。​
一方、センノシド製剤は医薬品として精製された化合物で、センノシドA・Bの含有量が厳密に管理されています。市販されているセンノシド錠12mgには、標準化されたセンノシド量が含まれており、投与量の調整が容易です。
参考)https://www.fuso-pharm.co.jp/med/wp-content/uploads/sites/2/2024/05/IF_20161020150708_199.pdf

センナ抽出物とセンノシド、センノシドAでは副作用プロフィールにも違いがあり、腎臓および肝臓に疾患のある患者がセンナを用いた製品を日常的に使用することには注意が必要です。動物実験では、センナ抽出物、センノシド、センノシドAがそれぞれ異なるアクアポリン(水チャネル蛋白)の発現変化を引き起こすことが報告されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8347161/

センナ センノシド 臨床使用における適用範囲

医療現場では、センノシド製剤が便秘治療の刺激性下剤として広く使用されています。センノシド錠12mgは、慢性便秘症患者30例を対象とした臨床試験で96.7%(29/30)の有効率を示し、副作用は軽度の腹痛を伴った2例のみでした。
参考)その便秘薬、今使っても大丈夫?薬の分類ごとの副作用を解説 href="https://www.kusurinomadoguchi.com/column/laxative-3383/" target="_blank">https://www.kusurinomadoguchi.com/column/laxative-3383/amp;…

センノシドは酸化マグネシウムと並ぶ二大便秘薬として位置づけられており、特に腸の運動が低下している弛緩性便秘に効果的です。日本のガイドラインでは、センノシドの慢性便秘症に対する使用推奨レベルはB(中程度の質のエビデンス)であり、推奨の強さは2(弱い推奨)となっています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/108/1/108_40/_pdf

一方、センナは日本では医薬品として分類されており(センナ茎は非医薬品)、主に生薬製剤や漢方製剤の原料として使用されます。センナに含まれる成分は便秘改善以外にも、α-グルコシダーゼやチロシナーゼ阻害作用など多様な生理活性が研究されています。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/b62db763e4695c4e0a77eacefaf1cf4465d029be

センナ センノシド 副作用リスクの比較分析

センノシドの主な副作用として、腹痛(頻度5%以上)、下痢、腹鳴、吐き気、嘔吐(頻度0.1~5%未満)、発疹、血圧低下、腎機能障害(頻度不明)が報告されています。
参考)センノシド錠の効き目

長期連用によるリスクは、センナ、センノシド製剤に共通する重要な問題です。刺激性下剤を長期間使用すると、耐性(習慣性)が生じ、同じ量では効果が薄れて徐々に使用量が増加する傾向があります。また、薬剤依存(常用性)の状態となり、薬なしでは排便できなくなることがあります。
参考)センノシドはやばい?効果と副作用、正しい使い方を医師が解説|…

特に注目すべき副作用として、大腸メラノーシス(腸管の黒色変化)があります。これはアントラキノン系下剤(センナ、大黄、アロエなど)を数ヶ月から数年にわたり連用することで、大腸粘膜にメラニン色素が沈着し黒っぽく変色する現象です。大腸メラノーシス自体が直接的に重大な健康被害をもたらすわけではありませんが、長期的な腸機能低下(アトニー腸)との関連が指摘されています。
参考)大腸メラノーシス(偽メラノーシス)とは

妊娠中の使用は、子宮収縮により早産のリスクがあるため禁忌とされており、授乳中も赤ちゃんが下痢をしたという報告があるため慎重投与が必要です。​

センナ センノシド 腸内細菌代謝の重要性

センノシドの薬効発現には腸内細菌による代謝が不可欠であり、この点が両者の違いを理解する上で極めて重要です。無菌動物にセンノシドを経口投与した場合、瀉下作用を示さないことから、その活性発現には腸内細菌が関与すると考えられています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/faruawpsj/58/6/58_567/_pdf/-char/ja

興味深いことに、センノシドは多くの腸内細菌が持つグリコシダーゼでは分解されず、Bifidobacterium sp. SENなどの一部の腸内細菌によりアグリコンに代謝された後、真の瀉下活性物質であるレインアンスロンに変換されます。この代謝過程は、センノシド→セニジン→レインアンスロンという段階を経て進行します。
参考)漢方薬などの薬効 - 薬と腸内細菌の関係③

食事による腸内細菌叢の変化は、センノシドを含む漢方薬(大黄甘草湯など)の効果を左右することが実験的に確認されています。このため、個人の腸内細菌叢の状態によって、センノシドの効果に個人差が生じる可能性があります。
参考)センノシド(プルゼニドⓇ)の効果時間はどのくらいですか?

センナ抽出物全体とセンノシド単独では、腸内細菌による代謝パターンにも違いがあり、それが副作用プロフィールの差異につながっている可能性が示唆されています。
参考)https://www.mdpi.com/1422-0067/19/10/3210/pdf

センナ センノシド 医療従事者向け使用指針

医療従事者がセンノシド製剤を処方する際には、いくつかの重要な注意点があります。まず、禁忌事項として、本剤に過敏症の既往歴がある患者、急性腹症が疑われる患者、痙攣性便秘の患者、重症の硬結便のある患者、電解質失調(特に低カリウム血症)のある患者への投与は避けるべきです。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/medical_interview/IF00007019.pdf

腹部手術後の患者には、腸管蠕動運動亢進作用により腹痛等がみられるため、消化管の手術後は特に注意が必要です。また、センノシドの作用機序から、胃および小腸運動にはほとんど影響せず、主に大腸の蠕動運動を亢進させることを理解しておく必要があります。​
長期連用を避けることは極めて重要であり、連用による耐性の増大等のため効果が減弱し、薬剤に頼りがちになることがあります。センノシドは基本的に「レスキュー薬」として、急に便が出にくいときだけ使用するのが望ましく、漫然とした長期使用は避けるべきです。​
患者への服薬指導では、就寝前の服用で翌朝の排便が期待できること、効果発現には8~10時間かかることを説明し、長期使用のリスク(耐性、依存、大腸メラノーシス)について十分に情報提供することが求められます。​
センノシド製剤と他の便秘薬(酸化マグネシウム、浸透圧性下剤、上皮機能変容薬など)との使い分けや併用についても、患者の病態に応じて適切に判断する必要があります。
参考)【便秘薬がクセにならないために】便秘外来│『自分に合う便秘薬…

センナ中のセンノシド含有量に関する詳細データ:日本食品衛生学会誌
センノシドAの薬理作用、毒性、代謝に関する包括的レビュー:Frontiers in Pharmacology
腸内細菌による生薬成分C-配糖体の代謝機序:日本薬学会誌