ドラベ症候群では、ナトリウムチャネルを強く阻害する抗てんかん薬の使用が禁忌とされています。具体的には、カルバマゼピン(CBZ)、フェニトイン(PHT)、ラモトリギン(LTG)などが該当し、これらの薬剤を投与すると、ミオクロニー発作やけいれん発作を悪化させる可能性が報告されています。
参考)https://shizuokamind.hosp.go.jp/epilepsy-info/news/n15-6/
ドラベ症候群患者の70~80%にSCN1A遺伝子のヘテロ接合性変異が認められ、電位依存性ナトリウムチャネルα1サブユニットの機能低下が病態の基盤となっています。ナトリウムチャネル阻害薬はこの機能低下をさらに増強してしまうため、発作悪化を招くメカニズムが考えられています。
参考)https://med.nippon-shinyaku.co.jp/product/fintepla/guide/choice.php
MSDマニュアル・プロフェッショナル版:発作型に応じた薬剤選択の表
禁忌薬剤に関する詳細な情報が記載されています。
その他、欠神発作ではフェノバルビタール、カルバマゼピン、ガバペンチンで増悪する可能性があり、ミオクロニー発作ではラモトリギン、カルバマゼピン、ガバペンチンで増悪することが知られています。
ドラベ症候群の治療は、バルプロ酸ナトリウム(VPA)を第一選択薬として開始し、クロバザム(CLB)を追加することが一般的です。この2剤で効果が不十分な場合に限り、ドラベ症候群専用の抗てんかん薬であるスチリペントール(STP)を併用することができます。
参考)Dravet症候群|疾患情報【おうち病院】 / おうち病院 …
スチリペントールは重積発作の軽減やミオクロニー発作、欠神発作に対する効果が認められていますが、食事の影響を受けやすく、食欲低下や体重減少といった副作用があります。また、バルプロ酸やクロバザムの血中濃度を上昇させる相互作用があるため、経験豊富な専門医による管理が必要です。
参考)ドラべ症候群
かけはしメディカルクリニック:ドラベ症候群治療の詳細
推奨治療薬の使い分けと副作用管理について解説されています。
その他の治療選択肢として、臭化カリウムやトピラマートが使用されることがあり、最近では新規抗てんかん薬であるペランパネルの有効性も報告されています。カンナビジオールやフェンフルラミンなど、ドラベ症候群に対して承認された新規薬剤も選択肢となっています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8927048/
ドラベ症候群でナトリウムチャネル阻害薬により発作が悪化する理由は、SCN1A遺伝子変異によるNav1.1タンパク質の機能低下と関連しています。この遺伝子変異により脳の神経細胞におけるNaV1.1タンパク質のレベルが不十分となり、特にGABA作動性の抑制性介在ニューロンの機能が低下します。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10067575/
ナトリウムチャネル阻害薬を投与すると、すでに機能が低下しているNav1.1チャネルの活動がさらに抑制され、抑制性ニューロンの機能障害が増強されてしまいます。その結果、脳内の興奮と抑制のバランスがさらに崩れ、けいれん発作やミオクロニー発作が悪化すると考えられています。
興味深いことに、成人期のドラベ症候群患者では、長期間使用していたラモトリギンやカルバマゼピンを中止することで発作が増悪したという報告も存在します。これは小児期と成人期で病態が異なる可能性を示唆しており、薬剤の選択や変更には慎重な判断が求められます。
参考)ラモトリギン中止およびスチリペントール投与で発作増悪したDr…
ドラベ症候群では複数の抗てんかん薬を併用することが多いため、薬物相互作用に十分な注意が必要です。スチリペントールとクロバザムの併用では、クロバザムとその活性代謝物であるノルクロバザムの血中濃度が上昇し、眠気が増強される可能性があります。
スチリペントールとバルプロ酸の相互作用では、消化器症状(悪心、嘔吐など)が増加することが報告されています。カンナビジオールはクロバザムと双方向性の相互作用を示し、7-OH-CBDとノルクロバザムの血中濃度を上昇させるため、有害事象のリスクが高まります。
明治製菓ファルマ:ドラベ症候群の治療と相互作用
薬物相互作用の詳細なメカニズムと臨床的な注意点が記載されています。
複数の抗てんかん薬を併用している場合、眠気が強く出現したり、それぞれの血中濃度が適切に上がらなくなる場合があります。また、薬剤の組み合わせによっては発作が悪化する可能性もあるため、投薬後の全身状態や発作頻度の変化を常に注意深く観察する必要があります。
抗てんかん薬のみでコントロールが困難な場合、ケトン食療法という食事療法が選択肢となります。ケトン食療法は低炭水化物・高脂肪食を摂取することで体内にケトン体を産生維持し、薬剤抵抗性のてんかん発作を抑制する治療法です。
参考)ケトン食療法連携チーム:女子医科大学 小児科
ただし、ケトン食療法には低血糖、悪心・嘔吐、便秘・下痢、体重減少、活動性低下などの副作用があるため、必ず医師の指導のもとに行うべき治療法です。糖質を制限し脂質を増やすことでケトン体を糖分の代わりに脳のエネルギー源とすることが基本的な考え方となっています。
参考)https://tokyo-esc.ncnp.go.jp/download/231210_document_04_2.pdf
日常生活では、体温上昇がけいれん発作の誘発因子となるため、体温管理が非常に重要です。高気温での外出や炎天下での活動を避け、保冷剤を収納できる衣服を活用することが推奨されます。入浴時にも注意が必要で、湯温を38℃前後に設定し、長湯を避けてシャワー浴にするなどの工夫が有効です。
参考)Q95:ドラベ症候群の特徴や治療方法、日常生活での注意点につ…
ドラベ症候群家族会ハンドブック
体温管理や急性脳症の予防に関する実践的な情報が記載されています。
発熱時には早めにジアゼパム坐薬を使用し、光の点滅など発作が誘発される刺激を避けることも重要です。ドラベ症候群患者は汗をかきにくく体温調節が苦手な傾向があるため、夏場は冷却用品の使用やこまめな体温測定、衣服の調節などの対策が必要です。
参考)生活|てんかん専門|日本橋神経クリニック。小伝馬町駅の脳神経…