ナイアシンは水溶性ビタミンB群の一種で、ニコチン酸とニコチン酸アミド(ナイアシンアミド)の総称です。医療従事者として押さえておくべきは、ナイアシンアミドが2018年に厚生労働省から「シワ改善」「美白」「肌荒れ防止」の3つの効果で医薬部外品有効成分として承認された、科学的根拠のある美容成分であるという点です。体内ではNAD+の前駆体として機能し、エネルギー代謝やDNA修復に関与しますが、外用としても多彩な皮膚科学的効果を発揮します。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11811021/
ナイアシンアミドは化粧品として使用する際、ビタミンAやビタミンCと比較して皮膚刺激性が低いという特徴を持ちます。このため敏感肌やアトピー性皮膚炎の患者にも比較的安全に使用でき、幅広い年齢層や肌質の方に推奨できる成分といえます。医薬部外品での配合量は化粧水で0.1~1%、クリームや乳液では0.1~3.5%が上限とされています。
参考)https://www.laroche-posay.jp/dermclass/article-015.html
ナイアシンアミドの最も基礎的な作用は、肌のバリア機能を強化することです。この成分は角質層におけるセラミド合成を促進する作用を持っており、細胞間脂質の産生を増加させます。セラミドは角質細胞間に存在し、水分を抱え込みながら外部刺激から肌を守る重要な脂質成分です。
参考)ナイアシンアミドならのだ皮膚科へ
ナイアシンアミドはセラミドの前駆体であるグルコシルセラミドやスフィンゴミエリンの生成を促進し、さらにセラミド合成そのものを亢進させます。この作用により、経表皮水分蒸散量(TEWL)が減少し、角質層の水分保持能力が向上します。臨床研究では、ナイアシンアミド配合製品の使用により角質層の水和状態が改善され、バリア機能が回復することが確認されています。
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興味深いのは、ナイアシンアミドが外から補給したセラミドとは異なるアプローチをとることです。セラミドを直接補給する化粧品が「外から守る」のに対し、ナイアシンアミドは「内からつくる力をサポート」します。この二重アプローチにより、セラミドとナイアシンアミドを併用することで相乗効果が期待できます。
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アベンヌ公式サイト - ナイアシンアミドのバリア機能への作用メカニズムについて詳細に解説
ナイアシンアミドは厚生労働省に美白有効成分として認可されており、そのメカニズムは二段階で作用します。第一に、メラニン生成過程で重要な役割を果たすチロシナーゼ酵素の活性を抑制することで、メラニンの産生そのものを減少させます。第二に、メラノサイトで生成されたメラニンがケラチノサイトへ移送される過程を阻害します。
参考)ナイアシンアミドとは? 効果や製品について解説
この二重のメカニズムにより、ナイアシンアミドは紫外線による色素沈着を予防するだけでなく、既存のシミを薄くする効果も期待できます。メラスマ(肝斑)患者を対象とした二重盲検ランダム化比較試験では、4%ナイアシンアミドクリームが4%ハイドロキノンクリームと同等の美白効果を示し、かつ刺激性が低いことが報告されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3142702/
5%ナイアシンアミド配合化粧品を使用した臨床研究では、色素沈着の改善が確認され、新たなシミの形成予防効果も実証されました。さらに、ナイアシンアミドは単に色素沈着を防ぐだけでなく、肌全体のトーンを明るくし、くすみを改善する効果も報告されています。この作用には血管拡張による血流促進効果も関与していると考えられています。
参考)ナイアシンフラッシュと美肌について
ナイアシンアミドがシワ改善有効成分として承認されたのは、真皮層の線維芽細胞に直接作用してコラーゲン産生を促進する能力によります。加齢や紫外線ダメージにより真皮のコラーゲンは減少しますが、ナイアシンアミドはこのコラーゲン減少を抑制し、新たなコラーゲン合成を亢進させます。
参考)美肌の万能成分「ナイアシンアミド」完全ガイド - アイシーク…
12週間の臨床試験では、5%ナイアシンアミドの使用により細かいシワの減少、肌の黄ぐすみ改善、肌弾力の向上が確認されています。この効果は、コラーゲンだけでなくエラスチンなどの細胞外マトリックス成分の産生も促進することによるものです。さらに、ナイアシンアミドは抗糖化作用も有しており、コラーゲンと糖が結合して生じる糖化最終産物(AGEs)の形成を抑制します。
参考)https://www.mdpi.com/1420-3049/27/4/1276/pdf
注目すべきは、ナイアシンアミドがレチノール(ビタミンA)と異なり、「A反応」と呼ばれる赤みやかゆみなどの初期刺激が少ないことです。レチノールは強力なシワ改善効果を持ちますが、使用初期に肌トラブルを引き起こすことがあるため、刺激を避けたい患者にはナイアシンアミドが第一選択となります。ただし、レチノールとの併用により相乗効果が得られる可能性も示唆されています。
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ラ ロッシュ ポゼ公式 - ナイアシンアミドのシワ改善メカニズムと臨床データ
ナイアシンアミドは皮脂分泌を直接抑制する作用を持ち、これによりニキビや毛穴トラブルの予防に寄与します。過剰な皮脂産生は毛穴の詰まりやアクネ菌の増殖を招き、炎症性ニキビの原因となりますが、ナイアシンアミドはこの皮脂産生をコントロールします。
参考)”ナイアシンアミド”の効果
さらに、ナイアシンアミドには抗炎症作用があり、炎症性サイトカインの産生を抑制することで、既存のニキビの炎症を鎮静化させます。軽度から中等度のニキビ患者を対象とした分割顔試験では、セラミドとナイアシンアミドを含む保湿剤と局所抗ニキビ治療を併用した群で、優れた効果と忍容性が示されました。
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日本人女性を対象とした8週間のオープンラベル試験では、多酸複合体とナイアシンアミド2%を含む美容液が軽度ニキビに有効であることが確認されています。インナードライ肌(乾燥による過剰皮脂分泌)の患者にも、ナイアシンアミドは保湿と皮脂コントロールの両面からアプローチできるため、特に推奨できます。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12007656/
ナイアシンアミドは基本的に安全性が高く、重篤な副作用が報告されることは稀です。しかし、高濃度製品の使用や敏感肌の患者では、赤み、ピリピリ感、かゆみ、軽度の炎症などが生じる可能性があります。これらの症状が現れた場合は、濃度を下げた製品への変更や使用頻度の調整を検討すべきです。
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経口摂取時に注意が必要なのは「ナイアシンフラッシュ」です。これは主にニコチン酸(ナイアシンの一形態)の大量摂取で生じる血管拡張反応で、顔面紅潮、上半身のほてり、かゆみを伴います。ナイアシンアミドはニコチン酸と比較してこの反応が起こりにくいですが、高濃度の外用製品でも稀に発生することがあります。
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食事からのナイアシン摂取については、成人男性で13-16mgNE/日、成人女性で10-12mgNE/日が推奨量です。ナイアシンは魚介類(たらこ、まぐろ、かつお、さば)、肉類(鶏むね肉、鶏ささみ、レバー)、きのこ類、穀類に豊富に含まれます。水溶性ビタミンのため、煮物やスープにする場合は汁ごと摂取することで栄養損失を防げます。
参考)https://www.bioderma.jp/blogs/skincare-column/article23
| 食品名 | 100gあたりのナイアシン含有量 |
|---|---|
| たらこ | 50~57mg |
| まぐろ | 15~21mg |
| 鶏むね肉(焼き) | 17~18mg |
| かつお | 15~18mg |
| 炒り落花生 | 17~23mg |
スキンケアとしての取り入れ方については、朝晩1日2回の使用が効果的です。洗顔後、化粧水、美容液、クリームの順に使用し、ナイアシンアミド配合製品は美容液やクリームの段階で取り入れます。レチノールやビタミンC誘導体との併用も可能で、むしろ相乗効果が期待できます。日中使用する場合は、紫外線対策として日焼け止めの併用が推奨されます。
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クリニックフォア - ナイアシンアミドの効果的な取り入れ方と摂取量ガイド
医療従事者として患者指導を行う際は、ナイアシンアミドが「シワ改善」「美白」「ニキビ予防」「バリア機能強化」という複数の効果を一つの成分で実現できる点を強調し、特に刺激に敏感な患者や複数の肌悩みを抱える患者に対して推奨できることを伝えるとよいでしょう。