アリロクマブ エボロクマブ違い|PCSK9阻害薬作用機序と適応

アリロクマブとエボロクマブは、いずれもPCSK9阻害薬として脂質異常症治療に使用されます。両薬剤の投与方法、臨床効果、安全性にはどのような違いがあるのでしょうか?

アリロクマブとエボロクマブの違い

PCSK9阻害薬の主な特徴
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共通の作用機序

PCSK9に結合しLDL受容体の分解を抑制、LDL-Cを劇的に低下させます

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投与間隔の違い

アリロクマブは2週に1回、エボロクマブは2週または4週に1回投与可能です

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臨床効果の差

LDL-C低下率や心血管イベント抑制効果に微妙な違いがあります

アリロクマブとエボロクマブの基本的作用機序

 

アリロクマブ(プラルエント)とエボロクマブ(レパーサ)は、いずれもPCSK9(プロテインコンバーチェスサブチリシン/ケキシン9型)を標的とするヒト型モノクローナル抗体です。PCSK9は肝臓の細胞表面に存在するLDL受容体に結合し、その分解を促進することで血中LDLコレステロール濃度を上昇させるタンパク質です。両薬剤はPCSK9の働きを阻害することでLDL受容体の数を増加させ、血中からLDLコレステロールを効果的に除去します。
参考)アリロクマブ(プラルエント) href="https://kobe-kishida-clinic.com/metabolism/metabolism-medicine/alirocumab/" target="_blank">https://kobe-kishida-clinic.com/metabolism/metabolism-medicine/alirocumab/amp;#8211; 代謝疾患治療薬…

両薬剤とも完全ヒト型モノクローナル抗体として開発されており、PCSK9とLDL受容体の結合を阻害する点で作用機序は共通しています。これにより、従来のスタチン製剤では十分な効果が得られなかった患者においても、LDLコレステロールを大幅に低下させることが可能になりました。
参考)PCSK9阻害薬(レパーサ・プラルエント)と新しい注射製剤の…

両薬剤は皮下注射により投与され、スタチンとの併用により相乗効果を発揮します。PCSK9阻害薬は特に家族性高コレステロール血症や心血管疾患の高リスク患者において重要な治療選択肢となっています。
参考)https://pharmacista.jp/contents/skillup/academic_info/dyslipidemia/2455/

アリロクマブの投与方法と用量設定

アリロクマブの基本投与量は、通常成人において75mgを2週間に1回皮下注射することです。効果が不十分な場合には、1回150mgへ増量することが可能です。HMG-CoA還元酵素阻害剤(スタチン)による治療が適さない場合には、150mgを4週間に1回投与することもでき、効果不十分時には150mgを2週間に1回へ増量できます。
参考)https://www.pmda.go.jp/RMP/www/780069/29eee7c3-7c8c-4576-92fb-8c579d2d2f46/780069_2189402G3027_002RMP.pdf

臨床試験では、アリロクマブの用量はLDLコレステロール値25~50mg/dLを目標に盲検下で調節されました。この用量調整により、個々の患者の状態に応じた最適な治療が可能となっています。
参考)スタチンにアリロクマブ追加で、ACS症例のイベント抑制/NE…

アリロクマブは腹部または大腿部の皮下に注射されます。同じ部位への連続注射は避け、前回とは別の部位に投与することが推奨されています。投与間隔が比較的短いため、患者の自己注射による在宅治療も可能です。
参考)https://www.pref.hiroshima.lg.jp/uploaded/attachment/331898.pdf

エボロクマブの投与方法と用量設定

エボロクマブの投与方法は病態により異なります。家族性高コレステロール血症ヘテロ接合体および高コレステロール血症の場合、通常成人にはエボロクマブとして140mgを2週間に1回、または420mgを4週間に1回皮下投与します。一方、家族性高コレステロール血症ホモ接合体の場合、通常420mgを4週間に1回投与し、効果不十分な場合には420mgを2週間に1回へ増量可能です。
参考)https://repatha-pts.jp/member_only/repatha_pts/nl_amd-repatha4.asp

エボロクマブの特徴として、420mgという高用量を月1回投与できる選択肢があり、患者の通院頻度を減らすことができます。これは特に長期治療において患者の治療継続性(アドヒアランス)向上に寄与します。
参考)医療用医薬品 : レパーサ (レパーサ皮下注140mgペン)

注射部位は腹部または大腿部の皮下で、アリロクマブと同様に前回とは異なる部位に投与することが推奨されています。LDLアフェレーシスの補助として使用する場合には、開始用量として420mgを2週間に1回投与することもできます。
参考)https://www.amgen.co.jp/-/media/Themes/CorporateAffairs/amgen-co-jp/amgen-co-jp/pdf/3,-d-,0/3,-d-,3/Repatha/repatha_rmp_guide.pdf

アリロクマブとエボロクマブのLDL-C低下効果比較

両薬剤のLDLコレステロール(LDL-C)低下効果には若干の差異が報告されています。エボロクマブはLDL-Cを60%~70%減少させることができ、臨床試験では中央値30mg/dLまで到達したと報告されています。一方、アリロクマブはLDL-Cを50%~60%減少させ、ODYSSEY OUTCOMES試験では中央値が53mg/dLから38mg/dLへ低下しました。
参考)https://www.ahajournals.org/doi/10.1161/JAHA.124.035809

複数の臨床試験のメタ解析では、エボロクマブがアリロクマブと比較してLDL-C低下効果がやや大きい傾向が示されていますが、両薬剤間に統計学的有意差は認められませんでした。FOURIER試験では、エボロクマブにより心筋梗塞・脳卒中・冠動脈再灌流のリスクが15%低下したことが示されています。
参考)CareNet Academia

実臨床における比較研究も行われており、アリロクマブからエボロクマブへの切り替えによる効果の違いを検証する臨床試験が日本で実施されています。急性冠症候群患者を対象とした研究では、エボロクマブはLDL-C低下効果が大きく、アリロクマブは主要心血管イベント(MACE)減少傾向が強いという特徴が報告されています。
参考)CareNet Academia

アリロクマブ・エボロクマブの心血管イベント抑制効果

両薬剤は心血管イベントの抑制において重要な役割を果たします。無作為試験のメタ解析によると、アリロクマブとエボロクマブはプラセボと比較して、心筋梗塞、脳卒中、冠血行再建のリスクを低下させることが示されています。ODYSSEY OUTCOMES試験では、アリロクマブ使用により急性冠症候群後の再発抑制に有効であり、心血管イベントが12.5%対14.5%と改善しました。
参考)https://www.tcross.co.jp/news/ehj/3770

エボロクマブに関しては、FOURIER試験において主要心血管イベントを26%低下させたという報告があります。LDL-Cを70mg/dLから40mg/dL以下へ低下させることにより、心血管リスクは約25%減少することが示されています。
参考)https://www.j-athero.org/jp/wp-content/uploads/outline/pdf/pcsk9_shishin_2024.pdf

両薬剤の心血管イベント抑制効果には微妙な違いがあり、エボロクマブはより強力なLDL-C低下を、アリロクマブはMACE減少においてより良好な傾向を示すという特徴が報告されていますが、統計学的有意差は認められていません。いずれの薬剤も、脂質異常症またはアテローム動脈硬化性心血管疾患患者において有効性が確認されています。​

アリロクマブとエボロクマブの副作用と安全性プロファイル

両薬剤の安全性プロファイルは概ね良好であり、報告されている薬剤関連の有害事象は低頻度です。主な副作用として、注射部位での軽度の皮膚局所反応が報告されていますが、多くの場合投与中止後に改善します。臨床試験では、いずれの投与群でも16週時における中止率や有害事象に全般的な傾向は確認されませんでした。
参考)開発中の経口PCSK9阻害剤のMK-0616、第2b相試験で…

メタ解析の結果、アリロクマブとエボロクマブはプラセボと比較して安全性の問題は認められなかったと報告されています。オンゲリシマブとアリロクマブがより良好な安全性プロファイルを示すという研究もありますが、両薬剤とも重篤な有害事象の報告は少数です。
参考)半年に1回の注射で治療できる脂質異常症治療薬レクビオについて…

両薬剤の安全性には明らかな差がないと報告されていますが、新しい薬剤であるため常に最新の副作用情報に注意を払う必要があります。実臨床では臨床試験で投与対象外とされた患者(例えば中等度以上の肝障害)に投与される可能性があることに留意が必要です。長期使用における安全性については、継続的なモニタリングと市販後調査により評価が進められています。
参考)https://www.nisseikyo.or.jp/gyousei/tsuuchi/images/2023/231127/231127-05.pdf

PCSK9阻害薬使用における医療経済的考察

PCSK9阻害薬は高い治療効果を持つ一方、薬価が高額であることが課題となっています。エボロクマブ(レパーサ)の薬価は、2週間に1回の注射140mgあたり24,302円と設定されており、年間使用すると約60万円の費用がかかります。アリロクマブも同等のコストであり、両薬剤の費用対効果は重要な検討課題です。
参考)PCSK9阻害薬の適正使用フローチャート 動脈硬化学会が見解…

費用対効果の観点から、日本動脈硬化学会は2018年にPCSK9阻害薬の適正使用に関する見解を発表し、家族性高コレステロール血症および冠動脈疾患二次予防の高リスク症例に限定して使用すべきとしています。未診断のままで不十分な治療が行われていたり、スタチンの最大耐用量を用いずにPCSK9阻害薬を使用しているケースに対する注意喚起も含まれています。​
アメリカの研究では、PCSK9阻害薬は1QALYを増やすごとに45万ドルかかると見積もられ、目標の10万ドル以内に収めるには71%の値下げが必要と計算されました。日本での薬価は比較的適正に近いとされていますが、保険制度の維持可能性の観点から、適正使用が強く求められています。高額医療費問題は世界的な論点であり、必要な薬を必要な人に届けるためのバランスが重要です。
参考)コレステロールを下げる注射は高すぎるのか?費用対効果の推計

PCSK9阻害薬適正使用に関する日本動脈硬化学会の最新指針(2024年改訂版)では、各薬剤の詳細な適応基準と使用方法が解説されています
エボロクマブの日本における市販後調査の結果では、実臨床での安全性と有効性が詳細に報告されています
アリロクマブとエボロクマブの無作為試験メタ解析では、両薬剤の心血管イベント抑制効果の比較データが提示されています