チラミン食品一覧と発酵食品の含有量・血圧上昇リスク

チラミンを含む食品の種類や含有量はどのくらいか、また発酵食品に多く含まれる理由や血圧上昇などの健康リスクについて、医療従事者の視点から詳しく解説します。あなたは患者さんに正しい食事指導ができていますか?

チラミン食品一覧と発酵食品

チラミンを多く含む主な食品カテゴリ
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発酵・熟成チーズ

特にチェダー、ブルーチーズ、カマンベール、パルメザンなど熟成期間の長いチーズに高濃度で含有

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大豆発酵食品

納豆、醤油、味噌などの伝統的な発酵食品にチラミンが生成される

🍷
加工・発酵食品

赤ワイン、ビール、サラミ、ソーセージ、燻製魚、チョコレートなどの加工品

チラミンとは何か:発酵食品に含まれる成分の基礎知識

 

チラミンは、アミノ酸の一種であるチロシンが微生物による脱炭酸反応を受けて生成される生体アミンの一種です。通常、体内ではモノアミン酸化酵素(MAO)によって代謝され不活化されますが、食品中に高濃度で含まれる場合や特定の薬剤を服用している場合には、血圧上昇などの健康リスクを引き起こす可能性があります。チラミンは動物および植物に広く分布し、特に食物中のタンパク質が微生物により分解を受けることにより腐敗アミンとしても産生されます。
参考)チラミン - Wikipedia

発酵食品や熟成食品にチラミンが多く含まれる理由は、製造過程における微生物の活動にあります。発酵や熟成の過程で、微生物が持つ酵素がチロシンを分解してチラミンを生成するため、長期間発酵・熟成させた食品ほど高濃度のチラミンを含む傾向があります。特に、常温や高温での発酵ではチラミンの生成が促進されるため、保存温度も含有量に影響を与える重要な要因となります。
参考)「頭痛を引き起こす成分とは」

医療従事者として理解すべきは、チラミンは加熱調理によっても消失しないという特性です。このため、調理方法ではチラミン含有量を減らすことができず、食材の選択と保存方法が重要になります。患者指導においては、新鮮な食材の選択と適切な冷蔵保存の重要性を強調する必要があります。
参考)チラミンを避けるべきである薬href="https://www.health-jp.com/2020/07/foods-high-in-tyramine.html" target="_blank">https://www.health-jp.com/2020/07/foods-high-in-tyramine.htmlamp;#12289;チラミン含有食品…

チラミン食品一覧:発酵食品と熟成食品の詳細

チーズ類は最もチラミン含有量が高い食品群として知られています。研究によると、チェダーチーズでは0~1,500μg/g、ブルーチーズでは27~1,100μg/g、カマンベールでは20~2,000μg/gと、製品によって大きなばらつきがあることが報告されています。特にスティルトンブルーチーズでは460~2,170μg/gと高い値を示し、熟成期間や製造条件によって含有量が大きく異なります。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/cookeryscience/47/6/47_341/_pdf

大豆発酵食品では、醤油が最も高いチラミン含有量を示します。調査では、醤油のチラミン濃度は最小値1.7mg/kgから最大値1,550mg/kgまで幅広く、平均値は374mg/kg、中央値は175mg/kgでした。一方、味噌は最大値72mg/kg、平均値3.4mg/kgと比較的低く、納豆の一部には高濃度のチラミン(最大956mg/kg)を含むものがありますが、平均値は41mg/kgと中程度です。
参考)https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/papers_posters/pdf/106th_eisei3.pdf

その他の高チラミン食品として、加工肉類(サラミ、ソーセージ、ハム)、燻製食品(燻製魚)、アルコール飲料(赤ワイン、ビール)、チョコレート・ココア製品、鶏レバー、漬物類、イチジク、バナナ、アボカド、柑橘類などが挙げられます。ニシンの塩漬けやたらこなどの魚卵加工品にも注意が必要です。
参考)公益社団法人 福岡県薬剤師会 |質疑応答

チラミン含有量の測定データ:食品別の具体的数値

チーズの詳細な含有量データを見ると、製品間の差異が顕著です。東京都健康安全研究センターの調査では、チーズ中のチラミン含有量は平均値790.1μg/g、最高値3,210.4μg/g、検出率100%と他の食品に比べても極めて高い値を示しています。チーズの種類によっては3,000μg/gを超えるものがあることを医療従事者は認識する必要があります。
参考)https://www.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/files/archive/issue/kenkyunenpo/nenpou55/55-2.pdf

発酵食品の比較では、醤油が最も高頻度で高濃度のチラミンを検出します。ヒスタミン含有量も醤油では最小値<1.0mg/kgから最大値379mg/kg、平均値102mg/kgと高く、チラミンと同様に注意が必要な生体アミンです。味噌ではヒスタミン検出率が92%でLOQ(定量下限)未満であり、チラミンも78%がLOQ未満と比較的低い含有量でした。​
納豆のチラミン含有量は、大部分の製品では比較的低いものの、一部の製品で956mg/kgという高値を示すことがあります。これは製造条件や発酵過程の違いによるものと考えられ、製品選択の際には注意が必要です。ヒスタミンについても、納豆では検出率73%で平均値4.3mg/kg、中央値2.7mg/kgと個体差が見られます。​

チラミンの血圧上昇作用:メカニズムと健康リスク

チラミンが血圧上昇を引き起こすメカニズムは、その間接的な交感神経刺激作用にあります。チラミンは腸管から吸収されると、アドレナリン作動性神経終末に取り込まれてノルアドレナリンの遊離を促進します。これにより交感神経の活動が亢進し、血管収縮、心拍数増加、血圧上昇などの症状が現れます。
参考)https://mab.co.th/jp/product-detail.php?id=2824amp;cat=102

通常、健康人は400~800mg以上のチラミンを摂取しても、腸や肝臓に存在するMAOによって速やかに分解されるため、重篤な症状を起こすことは稀です。しかし、MAO阻害薬を服用している患者では、わずか6mgのチラミン摂取でも高血圧クリーゼ(急激な血圧上昇)が惹起される危険性があります。このため、MAO阻害薬服用中の患者に対しては、チラミン含有食品の厳格な制限が必要です。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsma1939/44/3/44_3_299/_pdf/-char/ja

チラミン過剰摂取による主な症状として、頭痛、顔面紅潮、発汗、動悸、悪心、嘔吐、胸痛、発熱、脈拍異常などが報告されています。特に偏頭痛患者では、チラミンによる血管収縮作用が脳血流を減少させ、酸素供給不足により頭痛が誘発される可能性があります。セロトニンの分泌増加とその急激な増減も、偏頭痛発作の誘発因子となります。
参考)㈼-1-5 片頭痛の誘発因子としてどんなものがあるか

チラミン制限が必要な薬剤と患者への食事指導

MAO阻害薬を服用する患者は、チラミン含有食品の摂取に最も注意が必要です。代表的なMAO阻害薬として、抗結核薬のイソニアジド、抗うつ薬のフェネルジン、トラニールシプロミン、モクロベミド、パーキンソン病治療薬のセレギリン(商品名:エフピー)、ラサギリン(商品名:アジレクト)などがあります。これらの薬剤はチラミンの代謝を阻害するため、通常は無害な量のチラミンでも危険な血圧上昇を引き起こします。
参考)内服薬と組み合わせ禁忌の食品【一覧表】

患者への具体的な食事指導として、特に含有量の多い熟成チーズ、サラミなどの燻製食品、醤油、赤ワイン、ビールなどの大量摂取を控えるよう指導します。チーズ以外にも、ニシン、たらこ、サラミ、ソーセージなどはチラミン含有量が多い食品として注意が必要です。また、チョコレート、コーヒー(大量)、発酵させた大豆製品、加工した肉類・魚類、イチジクなども制限対象となります。
参考)薬と食品|健康情報

医療従事者として留意すべき点は、チラミン含有量が食品によって大きく異なることです。そのため、多量に含むものは原則として摂取を控え、中等量では少量または制限量ならば摂取可とし、少量しか含まない場合では摂取可とする段階的な指導が推奨されます。また、新鮮な食材の選択と冷蔵保存(4℃以下)により、チラミン生成を抑制できることも指導内容に含めるべきです。
参考)服用中にチーズを食べない方がいい薬って?|薬物相互作用クイズ…

チラミン中毒の予防と患者管理における独自の視点

チラミン中毒の予防において、従来の食品制限だけでなく、食品の鮮度管理と保存方法の指導が重要です。チラミンは農畜水産物の収穫後放置や損傷・破損、保存、発酵、熟成、スモーク過程で発生する成分であり、低温で生成が抑制されるという特性があります。このため、患者には鮮度の高い新鮮な食べ物を選び、冷蔵庫を適切に利用することを指導します。​
発酵食品を選択する際には、摂氏30度以下の低温発酵された食品を選ぶことで、チラミン含有量を低減できます。また、保管と流通が摂氏4度以下に維持された食品を選ぶことも重要な予防策です。特に夏季や高温環境では、食品の温度管理がチラミン生成に大きく影響するため、季節に応じた指導が必要となります。​
偏頭痛患者に対しては、MAO阻害薬服用者とは異なる視点での食事指導が求められます。すべての偏頭痛患者がチラミンに敏感なわけではないため、個々の患者で症状日記をつけることで、どの食品が頭痛を誘発するかを特定することが効果的です。チラミンを含む食品を摂取後、数時間以内に偏頭痛、嘔吐、光や音への敏感性、手足のしびれなどの症状が現れる場合は、その食品の制限を検討します。一方で、症状との関連が明確でない場合は、過度な制限により栄養バランスが崩れることを避けるため、柔軟な対応が必要です。​
多職種連携による栄養管理も重要な視点です。医師、看護師、薬剤師、管理栄養士が連携し、患者の服薬状況と食事内容を総合的に評価することで、より安全で効果的な栄養管理が実現できます。特に入院患者では、入院時から退院後まで切れ目のない栄養管理を提供し、食物アレルギーや禁忌食品の情報を多職種で共有することが重要です。また、退院時には患者が地域で安心して療養生活を送れるよう、訪問看護や転院先の医療機関への情報提供を行うことも、医療従事者の重要な役割となります。
参考)栄養管理部メニュー

チラミン関連の症状と対応:医療現場での実践的知識

チラミン誘発性高血圧危機の初期症状を早期に認識することは、医療従事者にとって極めて重要です。主な初期症状として、首の硬直、激しい頭痛、顔面紅潮、発汗、悪心、嘔吐、胸痛、発熱、脈拍異常などが挙げられます。特にMAO阻害薬服用中の患者でこれらの症状が現れた場合は、速やかに医療機関への受診を勧める必要があります。​
ヒスタミンとの相互作用にも注意が必要です。MAO阻害作用により、食品中のヒスチジンから変化したヒスタミンの代謝も阻害されるため、発汗、掻痒、悪心などの症状を起こす可能性があります。ヒスタミンを多く含む食品として、マグロ、ブリ、ハマチ、サバ、サンマ、イワシなどの青魚や、それらの干物が挙げられます。特に鮮度が低下した魚類では、細菌等によりヒスチジンがヒスタミンに変化しやすいため、鮮度管理が重要です。​
栄養指導の実施タイミングも重要な考慮事項です。医師の包括的な指導を受けて、管理栄養士が適切な実施時期を判断し、栄養指導を行うことが推奨されています。特に手術前管理のための栄養食事指導や、低栄養状態の改善、治療食の説明など、患者の病状に応じた個別化された指導が必要です。また、患者に対する栄養指導では、クリティカルパスによる明示などを活用し、多職種間で情報を共有しながら、一貫性のある指導を提供することが重要です。
参考)切れ目のない栄養管理

日本薬剤師会のチラミン・ヒスチジン含有食品に関する注意事項の詳細情報
農林水産省による大豆発酵食品中のヒスタミン及びチラミン濃度調査の公式データ
東京都健康安全研究センターの発酵食品に含まれるアミン類に関する研究報告