グルコン酸の効果と医療的意義

グルコン酸は電解質補給や腸内環境改善など多様な効果を持つ有機酸です。カルシウムやカリウムなどとの塩として医療現場で広く活用されていますが、その具体的な作用機序をご存知でしょうか?

グルコン酸の効果

グルコン酸の主な医療的効果
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電解質補給作用

カリウムやカルシウムの補給源として低電解質血症の治療に使用されます

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腸内環境改善

ビフィズス菌を増殖させ、腸内フローラを健全化します

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殺菌消毒効果

クロルヘキシジンとの塩として広範囲な抗菌作用を発揮します

グルコン酸カリウムの電解質補給効果

 

グルコン酸カリウムは低カリウム血症の治療に広く使用される医薬品です。グルコン酸カリウムは陰イオン部分がほとんど薬理作用を示さないカリウム塩で、電解質平衡(酸−塩基平衡に伴う)の調節等の作用を示します。腸管から吸収されたのち、カリウムイオンとして電解質平衡の調節などの作用を発揮します。
参考)くすりのしおり : 患者向け情報

低カリウム血症の治療において、血漿カリウム濃度が3.0~3.5mEq/Lの軽症例では低用量から投与開始することが望ましいとされています。原発性アルドステロン症による低カリウム血症の場合は抗アルドステロン剤の併用が、低クロール血症性アルカローシスを伴う低カリウム血症の場合は本剤とともにクロールを補給することが望ましいとされています。
参考)【低カリウム血症】経口カリウム製剤の使い分け (診断フローチ…

医療用医薬品データベース:グルコン酸カリウム製剤の詳細な添付文書情報
代謝性アルカローシスが存在する患者に有機酸カリウムを投与しても、塩化カリウム投与に比べるとカリウムとしては40%ほどしか血中に残らないと推測されており、代謝性アルカローシスがある場合は塩化カリウムでの補充が推奨されます。一方、下痢や遠位尿細管性アシドーシスなどの代謝性アシドーシスを伴う低カリウム血症の病態でのカリウム補充には有機酸カリウム製剤が有効とされています。​

グルコン酸カルシウムの作用機序と臨床応用

グルコン酸カルシウムは低カルシウム血症の治療に最も使用されるカルシウムの形態です。血清カルシウムの低下状態に対して、カルシウム値を上昇させることにより作用を発現します。テタニー等の神経系疾患ではカルシウムを補給することにより、筋細胞の神経筋興奮性の閾値を上昇させ、刺激に対する興奮をやわらげます。
参考)http://image.packageinsert.jp/pdf.php?mode=1amp;yjcode=3213001X1045

グルコン酸カルシウムは無水物で9.3%、1水和物で8.9%のカルシウムを含みます。低カルシウム血症に起因するテタニーやテタニー関連症状の改善、および小児脂肪便におけるカルシウム補給に用いられます。
参考)グルコン酸カルシウム - Wikipedia

患者向け医薬品情報:カルチコール注射液の使用方法
動物実験において、甲状腺・副甲状腺を摘除して急性あるいは潜在性テタニーを誘発したイヌに20%グルコン酸カルシウム5mLを静脈内注射したとき、注射直後にテタニーは消失し、10分後に血清カルシウムは増加して正常となりました。高カリウム血症の治療においても、グルコン酸カルシウムはカルシウムイオンによって心臓の収縮力増強作用をもたらします。
参考)https://kango-oshigoto.jp/hatenurse/article/8327/

グルコン酸のビフィズス菌増殖効果と腸内環境

グルコン酸は腸内環境改善において重要な役割を果たす有機酸です。特筆すべき点は、グルコン酸は小腸でほとんど吸収されず約8割は大腸に到達することです。一方、腸内フローラの主役であるビフィズス菌のすみかは小腸ではなく大腸であるため、大腸まで届くグルコン酸が養分となり、ビフィズス菌を増やすことに貢献します。
参考)【ビフィズス菌が喜ぶ蜂蜜】良好な腸内環境は体の免疫機能を高め…

グルコン酸は、ビフィズス菌を増やすことが知られている唯一の有機酸とも言われています。ハチミツに含まれる有機酸の約70%がグルコン酸であることから、「ハチミツ酸」とも呼ばれています。グルコン酸だけでなく、グルコノデルタラクトン、グルコン酸ナトリウム、グルコン酸カリウム、グルコン酸カルシウムにもビフィズス菌の増殖効果が認められています。
参考)https://fusokk.co.jp/wp-content/uploads/2019/06/file01-1-1.pdf

扶桑化学工業:グルコン酸のビフィズス菌増殖効果に関する研究データ
動物実験において、グルコン酸の摂取により排便回数の増加が認められ、腸内細菌によるグルコン酸の資化性も確認されています。豚を用いた研究では、グルコン酸投与により盲腸および中位結腸で酪酸の相対モル百分率が増加し(グルコン酸0、9、18g/kgでそれぞれ盲腸で10.0、12.9、14.7%)、抗炎症性サイトカインと生存シグナル伝達レベルが上昇しました。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10074721/

グルコン酸クロルヘキシジンの殺菌消毒効果

グルコン酸クロルヘキシジンは1954年に英国で製造されたビグアナイド系の殺菌消毒剤です。広範囲な細菌(グラム陽性菌グラム陰性菌)の細胞膜阻害などにより殺菌作用を示します。通常、手指・皮膚の消毒、手術部位(手術野)の皮膚や医療機器の消毒に用いられます。
参考)医療用医薬品 : クロルヘキシジングルコン酸塩 (クロルヘキ…

グルコン酸クロルヘキシジンの最大の特徴は「貯留性」と「徐放性」の2つです。歯や粘膜に吸着すると、長い間蓄積し、その時間は最大12時間に及びます。グルコン酸クロルヘキシジンが口腔内に留まり、長時間にわたって殺菌効果を発揮することで、菌の繁殖・付着を抑制します。
参考)「グルコン酸クロルヘキシジン」の特徴

健栄製薬:クロルヘキシジンの消毒薬としての特性と使用方法
手指消毒に関する研究では、0.5 w/v%グルコン酸クロルヘキシジンエタノールローションと4 w/v%グルコン酸クロルヘキシジンスクラブの手指消毒効果および経済効果の比較が行われています。0.5w/v%グルコン酸クロルヘキシジンおよび0.2w/v%塩化ベンザルコニウム含有エタノール製剤との比較検討も実施され、医療現場での最適な消毒剤選択に関するエビデンスが蓄積されています。
参考)302 Found

グルコン酸のミネラル吸収促進効果

グルコン酸はミネラル吸収促進物質として、主に胃および小腸内でのミネラル吸収を促進する作用を持ちます。グルコン酸は、ミネラルをキレート化合物として結合させ、吸収させやすくすることができます。グルコン酸亜鉛は、他の亜鉛化合物と比べて吸収率が高く、約60%が体内に吸収されるといわれています。
参考)微量ミネラル「グルコン酸亜鉛10」サプリ - 巣鴨千石皮ふ科

グルコン酸亜鉛をヒトが経口摂取した場合、絶食状態では亜鉛の吸収が早くなり、最高血中濃度(Cmax)も高くなります。各亜鉛化合物の平均吸収率を比較すると、クエン酸亜鉛で61.3%、グルコン酸亜鉛で60.9%、酸化亜鉛で49.9%であり、グルコン酸亜鉛は高い吸収率を示します。
参考)https://www.mhlw.go.jp/shingi/2004/06/dl/s0616-4j1.pdf

医療機関による微量ミネラル「グルコン酸亜鉛」の解説
ただし、他のミネラルとの相互作用として、カルシウムは亜鉛の吸収に関して拮抗関係があり、また亜鉛は銅および鉄と吸収が拮抗することが報告されています。グルコン酸は単糖であるため、胃および小腸中において吸収されやすく、大腸中においてミネラル吸収過程に関与する比率は僅かですが、胃および小腸中におけるミネラルの吸収を促進することを目的として使用されます。
参考)https://www.fsc.go.jp/fsciis/attachedFile/download?retrievalId=kai20040520te1amp;fileId=112

グルコン酸製剤の副作用と注意事項

グルコン酸製剤には、いくつかの重要な副作用と注意事項があります。グルコン酸カリウム製剤では、過量投与により高カリウム血症があらわれるおそれがあり、血清カリウム値および特有な心電図変化(T波の尖鋭化、QRS幅の延長、ST部の短縮、P波の平坦化ないしは消失)に十分注意する必要があります。一時に大量を投与すると心臓伝導障害があらわれることがあります。
参考)https://jp.sunpharma.com/assets/file/medicalmedicines/product/detail/file/medicalmedicines/product/detail/10812/480866_3229007C1032_3_04.pdf

グルコン酸カリウム製剤の使用に際しては、患者の血清電解質および心電図の変化に注意し、特に長期投与する場合には血中または尿中の電解質を定期的に測定することが重要です。全症例5,983例中、副作用発現数201例、副作用発現率3.36%であり、主な副作用は食欲不振61件(1.02%)、悪心・嘔吐60件(1.00%)等でした。
参考)https://vet.cygni.co.jp/include_html/drug_pdf/yueki/JY-13196.pdf

感染制御情報:グルコン酸クロルヘキシジンとポビドンヨードの副作用について
グルコン酸クロルヘキシジン含有製剤については、ショック(アナフィラキシー)の国内症例が報告されており、使用後すぐに皮膚のかゆみ、じんましん、声のかすれ、くしゃみ、のどのかゆみ、息苦しさ、動悸、意識の混濁等があらわれた場合は直ちに医師の診療を受ける必要があります。また、グルコン酸クロルヘキシジンは、使用部位と使用濃度を厳守しなければならない薬品です。
参考)https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11121000-Iyakushokuhinkyoku-Soumuka/0000184827.pdf

高齢者では一般に生理機能が低下しているので減量するなど注意が必要であり、妊婦または妊娠している可能性のある婦人には治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与することとされています。​