亜硝酸塩陽性原因と尿路感染症診断のポイント

尿検査で亜硝酸塩が陽性となる原因には、グラム陰性菌による尿路感染症が最も多く、大腸菌などが硝酸塩を還元することで生じます。膀胱炎や腎盂腎炎の診断に重要な指標となりますが、偽陰性・偽陽性もあり得ます。正確な判断には、どのような検査の組み合わせが必要なのでしょうか?

亜硝酸塩陽性の原因

亜硝酸塩陽性が示す主な原因
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グラム陰性菌感染

大腸菌などの腸内細菌が硝酸塩を亜硝酸塩に還元することで陽性反応を示します

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膀胱内貯留時間

細菌が硝酸塩を還元するには膀胱内に4時間以上尿が貯留している必要があります

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細菌性尿路感染症

膀胱炎や腎盂腎炎などの尿路感染症で陽性となり、診断の重要な手がかりとなります

亜硝酸塩陽性とグラム陰性菌感染の関係

 

亜硝酸塩陽性反応は、尿路感染症の原因菌を推定する上で非常に有用な検査項目です。食事から摂取された硝酸塩は腎臓で濾過され尿中に排泄されますが、通常の尿からは亜硝酸塩は検出されません。しかし、尿路に細菌が侵入し繁殖すると、特定の細菌が持つ亜硝酸還元酵素により、硝酸塩が亜硝酸塩へと変化します。
参考)膀胱炎−季節の変わり目に注意!−

この反応を起こす代表的な細菌は、尿路感染症の主要な原因菌である大腸菌を含むグラム陰性桿菌です。大腸菌は尿路感染症全体の75~95%を占める最も頻度の高い病原菌であり、肺炎桿菌(Klebsiella)やプロテウス属などの腸内細菌も亜硝酸塩陽性を示します。一方で、緑膿菌は還元に時間がかかり、腸球菌や連鎖球菌では亜硝酸を還元できないため陰性となることが知られています。
参考)試験紙法による尿細菌検査(亜硝酸塩)

尿中に亜硝酸塩が検出された場合、感染の原因が大腸菌などのグラム陰性桿菌である可能性が高いと判断できます。亜硝酸塩試験の特異度は高く、陽性の場合は細菌尿が強く疑われるため、尿路感染症の診断において重要な指標となります。
参考)尿検査で分かること - 大久保駅前・林クリニック

亜硝酸塩陽性と尿路感染症診断における白血球検査の重要性

亜硝酸塩検査単独では尿路感染症の診断が不十分なため、尿中白血球(白血球エステラーゼ)との組み合わせが臨床的に重視されています。白血球は体内に侵入した細菌などの異物を排除する免疫細胞であり、炎症を起こしている場所に集まる性質があります。
参考)尿検査で「白血球が多い」と言われたら?膀胱炎・腎炎のサインと…

膀胱炎などの尿路感染症では、尿中に細菌と白血球が共に出現するのが典型的なパターンです。尿試験紙検査では、顆粒球に含まれる白血球エステラーゼという酵素を検出することで、尿中の白血球の存在を確認します。白血球エステラーゼの感度は高く、亜硝酸塩とともに陰性であれば尿路感染の可能性は低くなります。
参考)https://hamamatsushi-naika.com/files/98.pdf

しかし、白血球のみが陽性で細菌を認めない「無菌性膿尿」というケースも存在します。この場合、結核菌や真菌などの特殊な病原体、間質性腎炎、尿路結石による刺激、あるいは抗菌薬投与後の状態などが原因として考えられます。尿培養陽性と各項目との陽性一致率は、尿混濁92%、白血球反応89%、潜血反応80%、亜硝酸反応72%であったという報告があり、複数の検査項目を総合的に評価することの重要性が示されています。
参考)https://www.nagoya2.jrc.or.jp/content/uploads/2021/08/455513c3f370a7cf355f787de3eaf794.pdf

亜硝酸塩陽性における偽陰性の原因と注意点

亜硝酸塩試験は感度がやや低く、40~50%前後の感度であることが報告されており、陰性でも尿路感染症を否定できない点に注意が必要です。偽陰性を呈する主な原因として、まず膀胱内での尿の貯留時間が4時間未満の場合が挙げられます。
参考)神奈川県労働衛生福祉協会|健康のとびら

細菌が硝酸塩を亜硝酸塩に還元するには最低4時間以上の反応時間が必要とされており、膀胱炎で頻尿がある場合や、起床後すぐに排尿してしまった後の随時尿では、膀胱内に尿が停滞している時間が短く、偽陰性となる可能性があります。そのため、早朝尿での検査が望ましいとされています。
参考)http://kansenjuku.com/wp-content/uploads/2016/02/%E5%B0%BF%E6%A4%9C%E6%9F%BB%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6%E6%8E%B2%E8%BC%89%E7%94%A8.pdf

また、硝酸塩還元能のない細菌や還元能が弱い細菌による感染でも偽陰性となります。腸球菌(Enterococcus sp.)や腐性ブドウ球菌(Staphylococcus saprophyticus)は亜硝酸を還元できないため陰性を示し、緑膿菌は還元に時間がかかるため検出されにくい傾向があります。さらに、ビタミンC製剤(アスコルビン酸)の服用により偽陰性を示すことがあり、嘔吐や過度の食事制限で硝酸塩が少ない場合も偽陰性の原因となります。
参考)https://osaka-amt.or.jp/bukai/saikin/hakinji/hakkinjipdf/200612.pdf

尿試験紙の亜硝酸塩陽性、尿沈渣で細菌陽性の検体を培養検査に提出すると、検査結果が陰性となることがあります。この乖離の原因として、抗菌薬の影響、細菌の種類(嫌気性菌など)、培養検査の適切性、検体の取り扱いや保存方法などが考えられます。特に、尿路感染症の治療のため既に抗菌薬投与がなされていると、死菌のため培養陰性となる場合があり、鏡検時は生菌であっても、培養検査までに時間を要すると、細菌が治療中の抗菌薬に長時間曝露され続けるため検査結果は陰性となります。
参考)Q 尿試験紙の亜硝酸塩(+),尿沈渣で細菌(+)の検体を培養…

亜硝酸塩陽性における偽陽性と検体管理の重要性

亜硝酸塩試験は偽陽性が少ない検査として知られており、陽性の場合は腸内細菌などの存在を強く示唆することが可能です。しかし、偽陽性反応を呈する状況も存在するため注意が必要です。
参考)http://journal.kansensho.or.jp/kansensho/backnumber/fulltext/61/676-680.pdf

主な偽陽性の原因として、採尿後の検体の長時間放置が挙げられます。採尿後放置が長引き、容器内で細菌が繁殖した場合、本来は陰性であった検体でも亜硝酸塩が陽性化することがあります。尿検査までに時間がかかると、白血球反応には影響が少ないものの、亜硝酸塩は陽性化する可能性があるため、診療所ではすぐに検査ができますが、施設から持参する尿検体については結果の解釈に注意が必要です。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrm/64/5/64_789/_pdf

また、尿を赤色に発色する薬剤(フェナゾピリジンなど)で偽陽性化することがあります。検体の適切な管理と迅速な検査実施が、正確な診断には不可欠となります。採尿後の経過時間と温度が尿検査に及ぼす影響に関する研究では、糖添加尿においてプロテウス菌は室温5時間後、30℃で3時間後に陽性反応が見られ、その後も反応が持続したことが報告されています。一方、大腸菌は培養では室温5時間後に約10倍の菌量を確認できたものの、亜硝酸塩反応は認められず、30℃では4~5時間後に陽性反応を認めたが6時間後には消失したという結果も示されており、細菌の種類や検体管理の条件によって結果が変動することが明らかになっています。​
検体は尿道口の清拭後の中間尿を採ることが望ましいとされていますが、成人女性においては清拭を除いた中間尿でもコンタミネーション率は上がらないとされています。正確な検査結果を得るためには、採尿前に手を洗い、陰部の清拭を行ってから採尿することが大切です。​

亜硝酸塩陽性時の追加検査と医療従事者が知るべき鑑別診断

亜硝酸塩陽性が確認された場合、尿路感染症の確定診断と適切な治療選択のために、いくつかの追加検査が実施されます。尿沈渣検査は、尿を遠心分離して沈殿物を顕微鏡で観察する検査であり、白血球数、赤血球数、細菌の有無、円柱の有無などを評価します。尿沈渣で白血球が5個/視野以上検出され、感度が73%、特異度が81%であることが報告されています。​
尿培養検査は、尿路感染症の原因菌を特定し、適切な抗菌薬を選択するための重要な検査です。尿を培地で培養し、細菌の種類を同定するとともに、薬剤感受性試験(どの抗菌薬が効果的かを調べる検査)を行います。塗抹検査ではグラム染色によりグラム陽性菌は紫色、グラム陰性菌はピンク色に染まり、細菌の種類を推定できます。尿グラム染色で無遠心の検体を用いて微生物が確認されれば、尿路感染症の診断がより確実になります。
参考)https://www.chiringi.or.jp/camt/wp-content/uploads/2013/12/70fed17f82188e59023077fe6ccc1702.pdf

血液検査では、体内の炎症の程度を評価するために白血球数(WBC)やCRP(C反応性蛋白)を測定します。腎盂腎炎のような重篤な尿路感染症では、発熱や全身倦怠感に加え、血液中の白血球増多やCRP上昇などの全身性の炎症所見が認められ、腎機能を確認するために血液中のクレアチニン(Cr)も測定されます。腎臓で細菌が繁殖し炎症が広がると、腎機能が低下しクレアチニンの数値が上昇することがあります。​
亜硝酸塩陽性で白血球も陽性の場合は典型的な細菌性尿路感染症が疑われますが、亜硝酸塩陽性でも白血球陰性の場合や、逆に白血球陽性で亜硝酸塩陰性の場合には鑑別診断が必要です。無菌性膿尿(白血球のみ陽性)の場合、結核性尿路感染症、真菌感染症、間質性腎炎、尿路結石、尿路腫瘍、抗菌薬投与後の状態などが鑑別に挙げられます。
参考)https://www.kanazawa-med.ac.jp/~kansen/situmon/nyouchu_wbc.html

医療従事者としては、単一の検査結果に依存せず、臨床症状(排尿痛、頻尿、発熱、腰背部痛など)と複数の検査所見を総合的に評価することが重要です。亜硝酸塩陽性の意義を正しく理解し、その限界を認識した上で、必要に応じて追加検査を実施し、適切な治療方針を決定することが求められます。​
膀胱炎の診断における尿検査の詳細な解説(東邦大学医療センター大森病院臨床検査部)
試験紙法による尿細菌検査の詳細と臨床的意義(シスメックスプライマリケア)
細菌性尿路感染症の病因と診断(MSDマニュアル プロフェッショナル版)