ポサコナゾール投与による肝機能障害は、重大な副作用として特に注意すべき事象です。臨床試験では、重度の肝機能異常が0.6%、胆汁うっ滞が0.4%、肝毒性が0.2%、黄疸が0.1%で認められました。特に重篤な基礎疾患(血液悪性腫瘍など)を有する患者では、重度の肝機能障害が発現し致死的な転帰をたどるおそれがあります。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/medical_interview/IF00003760.pdf
国内第III相試験では、肝機能異常が副作用として14.0%に発現し、投与中止に至った副作用として2例報告されています。肝酵素上昇、ビリルビン血症、胆汁うっ滞性肝炎、肝不全、肝炎なども頻度不明ながら報告されており、投与開始前および投与中は定期的な肝機能検査(AST、ALT、γ-GTP、ビリルビンなど)の実施が必須です。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/ishinkin/61/1/61_19-00015/_pdf
肝機能障害のリスク因子としては、既存の肝疾患、併用薬剤との相互作用、長期投与が挙げられます。特にCYP3A4で代謝される薬剤との併用では、相互に血中濃度が上昇し肝毒性が増強する可能性があります。
参考)薬物動態:薬物間相互作用
ポサコナゾール投与によるQT延長は1.4%で報告されており、心室頻拍(トルサード・ド・ポアントを含む)も重大な副作用として添付文書に記載されています。国内臨床試験では、心電図QT延長が副作用として7.0%(PSCZ群)に認められました。
QT延長のリスク因子として、電解質異常(低カリウム血症、低マグネシウム血症、低カルシウム血症)、QT延長症候群の既往、不整脈の既往、QT延長を引き起こす薬剤との併用が重要です。本剤投与前および投与中は定期的に心電図検査および電解質検査を行い、必要に応じて電解質を補正することが推奨されています。
参考)薬物動態:心電図に及ぼす影響(外国人データ)
海外の臨床試験では、189例を対象にQTcF間隔のベースラインからの変化量を評価しており、投与後12時間の心電図データを併合して解析した結果が報告されています。トルサード・ド・ポアントなどの致死的不整脈を予防するため、カリウム値を4.0 mEq/L以上、マグネシウム値を正常範囲内に維持することが重要です。
参考)https://www.pmda.go.jp/RMP/www/170050/54ac58f0-567e-4cbf-a2c1-9a5a938e005f/170050_6179002H1029_007RMP.pdf
低カリウム血症はポサコナゾール投与時の重大な副作用であり、発現頻度は4.7%と報告されています。国内第III相試験では、15.8%に低カリウム血症が認められ、主要な副作用の一つとなっています。
ポサコナゾールによる低カリウム血症の機序として、見かけのミネラルコルチコイド過剰症候群(syndrome of apparent mineralocorticoid excess)が報告されています。これはポサコナゾールおよびイトラコナゾールがCYP11B1を阻害し、副腎皮質でのコルチゾール生合成を障害することにより発症します。海外では低用量のポサコナゾールでも難治性低カリウム血症を呈した症例が報告されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6021675/
低カリウム血症はQT延長や不整脈のリスク因子となるため、定期的な電解質測定が必須です。特に利尿薬併用患者、下痢・嘔吐のある患者、栄養状態不良の患者では注意が必要です。カリウム値が低下した場合は速やかに補正し、重症例では経静脈的カリウム投与を考慮します。
ポサコナゾール投与時の頻度の高い副作用として消化器症状があります。国内臨床試験では、悪心が7〜9%、下痢が7%、嘔吐が5〜6%、腹痛が5%程度報告されています。これらは多くの場合軽度から中等度ですが、投与継続に影響する場合があります。
参考)医療用医薬品 : ノクサフィル (ノクサフィル錠100mg)
その他の全身性副作用として、発熱が22.8%と高頻度に認められ、特に日本人患者での国内試験で目立ちました。高血圧も14.0%に発現し、食欲減退が10.5%に認められています。発熱に関しては、投与中止に至った副作用として3例報告されており、基礎疾患との鑑別が重要です。
希少ながら重篤な副作用として、溶血性尿毒症症候群(HUS)、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)、皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)、脳卒中、汎血球減少症、白血球減少症が報告されています。これらは頻度不明または0.1%程度ですが、早期発見と適切な対応が生命予後を左右します。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/medical_interview/IF00003762.pdf
副腎機能不全も0.1%で報告されており、長期投与例では副腎機能の評価も考慮すべきです。
ポサコナゾールはCYP3A4を強力に阻害するため、多数の薬物相互作用が知られています。CYP3A4で代謝される薬剤との併用により、それらの血中濃度が上昇し、重篤な副作用を引き起こす危険があります。
参考)ポサコナゾール - Wikipedia
特に注意すべき併用禁忌薬として、ビンカアルカロイド系抗悪性腫瘍剤(ビンクリスチン、ビンブラスチンなど)があります。併用により神経毒性、痙攣発作、末梢性ニューロパチー、抗利尿ホルモン不適合分泌症候群、麻痺性イレウスなどの重篤な副作用を引き起こすおそれがあります。ビンカアルカロイド系薬剤投与患者は、他の抗真菌剤を使用できない場合を除き、ポサコナゾール併用を避けるべきです。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00068469.pdf
その他の併用禁忌薬には、エルゴタミン製剤、シンバスタチン、アトルバスタチン、ピモジド、キニジン、ベネトクラクス(用量漸増期)、スボレキサント、フィネレノン、エプレレノン、アゼルニジピン、ルラシドン、ブロナンセリン、ボクロスポリン、トリアゾラム、リバーロキサバンなど多数あります。
参考)「禁忌を含む注意事項等情報」等
ワルファリンとの併用では、著しいINR上昇があらわれることがあるため、プロトロンビン時間測定およびトロンボテストの回数を増やすなど慎重な投与が必要です。免疫抑制剤タクロリムスとの併用では、タクロリムス血中濃度/投与量比が約2〜5倍に上昇するため、適宜用量調節が必要です。
参考)KAKEN href="https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-21H04235" target="_blank">https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-21H04235amp;mdash; 研究課題をさがす
ポサコナゾール投与時には、計画的な副作用モニタリングが患者安全の鍵となります。投与開始前には、肝機能検査(AST、ALT、γ-GTP、総ビリルビン、ALP)、腎機能検査(血清クレアチニン、eGFR)、心電図検査、電解質検査(カリウム、マグネシウム、カルシウム)、血球数検査を実施し、ベースライン値を確認します。
投与中は定期的に同様の検査を実施します。肝機能検査は少なくとも週1回、安定後は2週間ごとに実施することが推奨されます。心電図と電解質検査も定期的に行い、特に低カリウム血症はQT延長のリスク因子であるため、カリウム値が3.5 mEq/L未満となった場合は速やかに補正します。
海外では治療薬物モニタリング(TDM)の有用性が報告されており、予防目的ではトラフ値0.7 μg/mL以上、治療目的では1.0 μg/mL以上が推奨されています。日本では保険適用外ですが、一部の施設で血中濃度測定が実施されており、特に効果不十分例や副作用発現例では測定を考慮する価値があります。海外の報告では、血中濃度が5000 ng/mL以上で症候性副作用が80%に認められたとされています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10414342/
高齢者、腎機能障害患者、体重120kg超の患者では、薬物動態が変動する可能性があるため、より慎重なモニタリングが必要です。重度腎機能障害患者(eGFR<20 mL/min/1.73m²)では、本剤の曝露量が大きくばらつくおそれがあり、真菌症の発症を注意深く観察します。
MSD Connect - ノクサフィル添付文書情報(禁忌・副作用の詳細情報)
日本医真菌学会雑誌:ポサコナゾールの国内臨床試験結果(安全性と有効性データ)
PMDA医薬品リスク管理計画書(重要なリスク情報の詳細)