サイトメガロウイルス症状と初感染から再活性化の臨床像

サイトメガロウイルス感染症は健常者では無症状のことが多いものの、免疫不全患者や妊婦では重篤な臓器障害を引き起こす可能性があります。初感染、先天性感染、再活性化それぞれの症状と診断・治療について医療従事者が知るべき重要ポイントは何でしょうか?

サイトメガロウイルス症状の概要

サイトメガロウイルス感染症の主な病型
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先天性CMV感染症

妊娠中の母体感染により胎児に感染し、低出生体重、小頭症、肝脾腫、難聴などの症状を呈する

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健常者の初感染

乳幼児期は無症状が多いが、思春期以降の初感染では伝染性単核症様の発熱、倦怠感、肝機能異常を示す

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免疫不全患者の再活性化

移植患者やHIV感染者で潜伏ウイルスが再活性化し、肺炎、網膜炎、腸炎などの重篤な臓器障害を引き起こす

サイトメガロウイルス先天性感染症の症状

 

先天性サイトメガロウイルス感染症は、妊婦が妊娠中にCMVに初感染した場合、胎盤を通じて胎児に感染することで発症します。日本における先天性CMV感染の発生頻度は出生児の約0.3%とされており、母体から胎児への感染率は初感染で約40%に達します。
参考)サイトメガロウイルス(CMV):症状は?感染経路は?検査や治…

症候性の先天性感染では、出生時から低出生体重、小頭症、肝脾腫、黄疸、紫斑(点状出血)などの特徴的な症状を呈します。さらに、脳室周囲石灰化、脳室拡大、肝機能異常、血小板減少、網膜炎といった重篤な臓器障害も認められます。感音難聴は先天性CMV感染症の代表的な後遺症であり、出生時は無症状であっても、その後の発達過程で難聴、精神運動発達遅滞、てんかんなどの遅発性障害が出現することがあります。
参考)先天性サイトメガロウイルスとは

無症候性の先天性感染は全体の85~90%を占めますが、これらの児においても約5~17%で遅発性の難聴や学習障害が生じる可能性があるため、長期的なフォローアップが重要です。最重症例では死亡に至るケースも報告されており、早期診断と適切な治療介入が求められます。
参考)https://medicalnote.jp/diseases/%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%83%88%E3%83%A1%E3%82%AC%E3%83%AD%E3%82%A6%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%82%B9%E6%84%9F%E6%9F%93%E7%97%87

サイトメガロウイルス伝染性単核症様症状の特徴

健常な成人が思春期以降に初めてサイトメガロウイルスに感染すると、伝染性単核症様の症候群を呈することがあります。乳幼児期の初感染は無症状の不顕性感染であることが大多数ですが、青年期以降の初感染では臨床症状が顕在化しやすくなります。​
伝染性単核症様症状の主な特徴は、38℃以上の持続的な発熱、全身倦怠感筋肉痛関節痛、頚部リンパ節腫脹です。発熱は午後から夕方にかけて高くなる傾向があり、1週間以上持続することがあります。CMV感染による伝染性単核症はEBウイルスによるものと類似していますが、咽頭痛はEBウイルス感染ほど強くないという特徴があります。
参考)若い人に多いEBウイルス・サイトメガロウイルス感染 — 医学…

肝機能異常は頻繁に認められる所見であり、肝脾腫を伴うこともあります。血液検査では異型リンパ球の出現が特徴的で、診断の手がかりとなります。健常な若年者では多くの場合自然に軽快しますが、全身倦怠感は数週間から数カ月持続することがあり、患者のQOLに大きな影響を与えます。
参考)サイトメガロウイルス肺炎(CMV. Cytomegalovi…

サイトメガロウイルス免疫不全患者における再活性化症状

免疫抑制状態にある患者では、体内に潜伏感染していたサイトメガロウイルスが再活性化し、重篤な臓器障害を引き起こします。造血幹細胞移植や臓器移植を受けた患者、HIV感染者(特にCD4数が50/µL未満)、長期ステロイド治療を受けている患者などが高リスク群です。
参考)https://www.jstct.or.jp/uploads/files/guideline/01_03_01_cmv05corr.pdf

再活性化によるCMV感染症の症状は多岐にわたり、侵される臓器によって異なる病態を示します。CMV肺炎では持続的な咳嗽、呼吸困難、胸痛が主症状であり、労作時の息切れが顕著になります。進行すると低酸素血症が進行し、生命を脅かす状態となることがあります。
参考)https://www.med.kobe-u.ac.jp/cmv/feature.html

CMV網膜炎は視力低下や飛蚊症で始まり、治療が遅れると失明に至る可能性があります。特徴的な網膜所見のみで診断可能であり、眼底検査が重要です。CMV腸炎では悪心、嘔吐、腹痛、下血が主症状で、内視鏡検査により消化管潰瘍やびらんが確認されます。CMV脳炎では意識障害、性格変化、認知機能の低下といった神経症状が出現し、予後不良となることがあります。
参考)https://primary-care.sysmex.co.jp/speed-search/disease/index.cgi?c=disease-2amp;pk=10

全身症状としては38℃以上の発熱が持続し、倦怠感、関節痛、筋肉痛を伴います。発熱のみが唯一の症状である場合もあり、原因不明の発熱が続く免疫不全患者ではCMV感染症を鑑別に挙げる必要があります。
参考)https://www.radionikkei.jp/kansenshotoday/docs/kansenshotoday-230710.pdf

サイトメガロウイルス肺炎の特異的症状

サイトメガロウイルス肺炎は主に免疫抑制状態の患者に発症する重篤なウイルス性肺炎で、造血幹細胞移植後の患者で特に問題となります。CMV肺炎の進行パターンは患者の免疫状態によって大きく異なり、初期段階では風邪に似た軽微な症状から始まることが多いのが特徴です。
参考)サイトメガロウイルス肺炎|病気症状ナビbyクラウドドクター

初期症状は微熱と倦怠感で始まり、中期には高熱と咳嗽が出現します。後期になると呼吸困難と胸痛が顕著となり、日常生活に支障をきたすレベルになります。咳は乾性または湿性で持続性があり、悪化傾向を示します。呼吸困難は労作時に特に顕著で、深呼吸時に胸痛が増強することがあります。​
全身症状として、38℃以上の持続的な高熱、強い全身倦怠感、食欲不振が認められます。全身倦怠感は日常的な活動が困難になるほど強く、体重減少を伴うこともあります。画像検査では両側性のびまん性間質性陰影が特徴的で、肺機能検査では拡散能の低下が認められます。​
CMV肺炎とニューモシスチス肺炎(PCP)は臨床像の鑑別が困難なことがあり、CMVアンチゲネミア検査やPCR検査による確定診断が重要です。早期診断と抗ウイルス薬による治療開始が予後改善の鍵となります。
参考)https://www.kansensho.or.jp/uploads/files/journal/extract/84_1.pdf

サイトメガロウイルス感染症の診断と検査方法

サイトメガロウイルス感染症の診断には、活動性感染の証明と臓器障害の確認が必要です。検査方法は血清学的検査とウイルス学的検査に大別され、患者の状態や感染時期に応じて適切な検査を選択します。
参考)サイトメガロウイルス感染の検査

血清学的診断では、CMV IgG抗体とIgM抗体の測定が基本となります。急性感染の診断には、ペア血清(急性期とその2週間以上後)でIgG抗体価が4倍以上上昇することを確認するか、IgM抗体陽性を確認します。妊婦のスクリーニングでは、妊娠初期と妊娠後期の抗体測定により、妊娠中の初感染を検出することが可能です。
参考)妊婦サイトメガロウイルス感染の検査とカウンセリング

活動性CMV感染の証明には、CMV抗原血症(アンチゲネミア)検査が広く用いられています。この検査は末梢血白血球をウイルスの前初期抗原pp65に対する抗体で免疫染色し、ウイルス抗原陽性細胞数を測定する方法です。1個でも陽性細胞が検出されれば活動性感染と判断され、特に移植患者のモニタリングに有用です。​
PCR法によるウイルスDNA検出は、血液、尿、髄液気管支肺胞洗浄液など様々な検体で実施可能です。PCR法は抗原血症検査よりも高感度であり、白血球数が少ない患者でも検査可能という利点があります。先天性CMV感染症の確定診断では、生後3週間以内に採取した新生児尿または臍帯血からPCR法でウイルスを検出することが必須です。
参考)先天性サイトメガロウイルス感染症 概要 - 小児慢性特定疾病…

臓器障害の評価には、侵襲臓器から採取した検体や生検組織での病理学的検査が重要です。網膜炎は特徴的な眼底所見のみでも診断可能ですが、他の臓器では組織診断が診断確定に必要となることが多くあります。画像検査では、先天性感染では頭部超音波やCT、MRIで脳室周囲石灰化や脳室拡大を確認します。​
神戸大学医学部附属病院のサイトメガロウイルス感染検査に関する詳細情報(検査法の種類と適応について専門的に解説)

サイトメガロウイルス感染症の治療と抗ウイルス薬

サイトメガロウイルス感染症の治療は、患者の免疫状態と臓器障害の程度によって異なります。健常者の伝染性単核症様症状は自然軽快することが多く、対症療法が中心となります。一方、免疫不全患者や重症例では抗ウイルス薬による積極的治療が必要です。​
主要な抗ウイルス薬には、注射薬のガンシクロビルホスカルネット、および経口薬のバルガンシクロビルがあります。ガンシクロビルは第一選択薬として広く使用され、CMV DNAポリメラーゼを阻害することでウイルス複製を抑制します。投与量は通常、導入療法として5mg/kgを1日2回点滴静注し、その後維持療法に移行します。
参考)サイトメガロウイルス(CMV)感染症|移植なび 造血幹細胞移…

バルガンシクロビルはガンシクロビルのプロドラッグであり、経口投与可能という利点があります。体内で速やかにガンシクロビルに変換され、静注薬と同等の血中濃度が得られます。2023年には症候性先天性CMV感染症に対する保険適用が承認され、新生児期からの早期治療開始が可能となりました。先天性感染に対する治療では、生後1カ月以内に開始し6カ月間継続することで、聴力悪化の予防や神経発達予後の改善が期待できます。
参考)https://cmvtoxo.umin.jp/cmv/09.html

ホスカルネットはガンシクロビル耐性ウイルスや骨髄抑制のためガンシクロビルが使用できない患者に対する代替薬として用いられます。主な副作用として電解質異常、特にカルシウムやマグネシウムの低下に注意が必要です。​
抗ウイルス薬の主な副作用は骨髄抑制であり、好中球減少、血小板減少が高頻度で認められます。治療中は定期的な血液検査によるモニタリングが必須で、重篤な骨髄抑制が生じた場合は減量または中止を検討します。腎機能障害も重要な副作用であり、投与量は腎機能に応じて調整する必要があります。
参考)医療用医薬品 : バリキサ (バリキサ錠450mg 他)

造血幹細胞移植患者では、CMV抗原血症やPCRでウイルス検出が確認された時点で、発症前に抗ウイルス薬を開始する先制治療が標準的戦略となっています。この戦略により、重症CMV感染症の発症率が大幅に低下しました。​
日経ラジオ社「サイトメガロウイルス感染症の診断と治療」(抗ウイルス薬の使い分けと投与方法についての詳細な解説資料)

サイトメガロウイルス症状から見た予防と管理の重要性

サイトメガロウイルス感染症の予防は、特に妊婦と免疫不全患者において重要です。ウイルスは唾液、尿、母乳、血液、性的接触を介して感染するため、標準的な衛生予防策が基本となります。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7389047/

妊婦に対する予防教育は、先天性CMV感染症を減少させる最も効果的な方法です。特に上の子どもがいる妊婦は、子どもの唾液や尿を介した感染リスクが高いため、おむつ交換後の手洗い、子どもとの食器やタオルの共有を避けることが推奨されます。しかし、日本では妊婦のCMV感染に関する認識が不足しているという課題があります。
参考)先天性サイトメガロウイルス感染症について

免疫不全患者では、CMV血清抗体陰性のレシピエントに対してCMV陰性血液製剤を使用することが初感染予防に有効です。造血幹細胞移植患者では、移植前のCMV抗体検査によりドナーとレシピエントの血清学的状態を把握し、リスク層別化を行います。​
移植後の定期的なCMVモニタリング(抗原血症検査やPCR検査)により、無症候性のウイルス再活性化を早期に検出し、症候性感染症への進展前に先制治療を開始することが標準的管理となっています。モニタリング頻度は通常、移植後100日までは週1~2回実施されます。​
医療従事者は、CMV感染症の多様な臨床像を理解し、高リスク患者における早期発見と適切な治療介入を行うことが求められます。特に、原因不明の発熱、呼吸器症状、消化器症状、視力障害を呈する免疫不全患者では、常にCMV感染症を鑑別診断に含めることが重要です。
参考)https://ubie.app/byoki_qa/clinical-questions/fr0ads8uvd

先天性CMV感染症については、新生児期の尿CMV検査によるスクリーニング体制の整備が進められており、早期診断と治療介入により長期予後の改善が期待されています。無症候性感染児においても遅発性難聴のリスクがあるため、定期的な聴力検査を含む長期フォローアップが必要です。
参考)https://www.jspid.jp/news/kansensho/cmv-approval-info/