グラセプターカプセルは、タクロリムス水和物徐放性製剤として臓器移植後の拒絶反応抑制に使用される免疫抑制剤ですが、添付文書において警告レベルで記載される重篤な副作用が複数報告されています。最も注意すべき副作用として、腎不全、心不全、感染症、全身痙攣、意識障害、脳梗塞、血栓性微小血管障害、汎血球減少症などが挙げられ、これらは致死的な経過をたどる可能性があります。そのため、緊急時に十分に措置できる医療施設及び本剤についての十分な知識と経験を有する医師による使用が求められています。
参考)グラセプターカプセル1mgの基本情報(副作用・効果効能・電子…
重大な副作用の中でも特に重要なものとして、リンパ腫等の悪性腫瘍、膵炎、糖尿病及び糖尿病の悪化、肝機能障害、黄疸などが添付文書に記載されています。また、中枢神経系障害として全身痙攣、意識障害、錯乱、言語障害、視覚障害、麻痺等の症状があらわれた場合には、神経学的検査やCT、MRIによる画像診断を行い、本剤を減量又は中止し、血圧のコントロール、抗痙攣薬の投与等適切な処置が必要です。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00055865.pdf
グラセプター投与時の腎障害は最も頻度の高い副作用の一つであり、23.1%の発現頻度でBUN上昇、クレアチニン上昇、クレアチニンクリアランス低下、尿蛋白などの腎障害が報告されています。腎障害の発現を防ぐために、血中濃度(投与24時間後のトラフ濃度)をできるだけ20ng/mL以下に維持することが重要です。特に血中トラフ濃度が20ng/mLを超える期間が長い場合、副作用が発現しやすくなるため注意が必要です。
参考)https://amn.astellas.jp/specialty/transplant/gra/navi_gra/serious_effects_01
急性腎障害やネフローゼ症候群などの重大な腎機能障害も報告されており、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止するなど適切な処置を行う必要があります。投与初期には頻回に臨床検査(クレアチニン、BUN、クレアチニンクリアランス、尿中NAG、尿中β2ミクログロブリン等)を行い、患者の状態を十分に観察することが求められます。
参考)https://clinicalsup.jp/jpoc/drugdetails.aspx?code=55865
血中濃度モニタリングは治療の成否を左右する重要な要素です。グラセプターは徐放性製剤であるため、1日1回の投与で血中濃度を維持できますが、プログラフなどの普通製剤とは体内動態が異なります。そのため、製剤の切り換えに際しては血中濃度を測定することにより製剤による血中濃度の変動がないことを確認することが添付文書で警告されています。
参考)https://amn.astellas.jp/specialty/transplant/monitoring
グラセプターによる免疫抑制作用により、患者は様々な感染症にかかりやすくなります。主な感染症として、サイトメガロウイルス感染、BKウイルス感染、帯状疱疹などが報告されており、これらは臓器移植後の管理において特に注意すべき合併症です。感染症は、外界からの伝染というよりも、本来レシピエントが体内で共存している病原体(細菌、真菌、ウイルスなど)による感染症であることが特徴的です。
参考)グラセプター|免疫抑制薬(内服薬)|くすり事典|よくわかる腎…
移植後の患者は一般病棟で管理可能であり、退院後も通常の生活を送ることができますが、免疫抑制剤内服中は感染症状(発熱、咳、痰、頻尿など)が現れた場合には速やかに医師に連絡する必要があります。特にタクロリムスなどのカルシニューリン阻害薬を使用している患者では、日和見感染症のリスクが高まるため、感染対策が重要です。
参考)タクロリムスカプセル0.5mg「VTRS」[自己免疫疾患用剤…
感染症と免疫抑制薬について(築地インターナルクリニック)- 免疫抑制作用がある薬剤の種類と感染リスクについての詳しい解説
グラセプターの特徴的な副作用として振戦(手足の震え)があり、これは用量依存性に発現する神経系の副作用です。少し手が震える程度であればそのまま服用を続けることができますが、生活に支障が出るほどの症状であれば主治医に相談し、投与量の調整が必要です。その他の精神神経系副作用として、しびれ、不眠、失見当識、せん妄、不安、頭痛、感覚異常なども報告されています。
参考)医療用医薬品 : グラセプター (グラセプターカプセル0.5…
代謝系の副作用として、糖尿病及び糖尿病の悪化、高血糖が重大な副作用として挙げられています。糖尿病の発現は、免疫抑制剤の長期使用において特に注意すべき合併症であり、頻回に臨床検査(血液検査、空腹時血糖、アミラーゼ、尿糖等)を行い、特に投与初期にはその発現に十分注意する必要があります。その他、高カリウム血症、高尿酸血症、低マグネシウム血症などの電解質異常も頻繁に認められます。
参考)https://amn.astellas.jp/specialty/transplant/gra/navi_gra
循環器系の副作用として血圧上昇が高頻度で発現し、浮腫、頻脈、動悸、心電図異常なども報告されています。血圧上昇は中枢神経系障害の発現リスクを高めるため、適切な血圧管理が重要です。
参考)https://amn.astellas.jp/specialty/transplant/gra/navi_gra/serious_effects_03
グラセプターの副作用が発現した場合、まず血中濃度の測定を行い、適切な投与量への調整を検討することが基本的な対処法となります。副作用の発現を防ぐため、定期的に血中濃度を測定し、投与量を調節することが望ましいとされています。特に移植直後あるいは投与開始直後は頻回に血中濃度測定を行うことが推奨されます。
参考)医療用医薬品 : グラセプター (商品詳細情報)
腎障害が悪化する可能性がある患者では、副作用の発現を防ぐため、定期的に血中濃度を測定し、投与量を調節することが特に重要です。また、肝機能障害患者では薬物代謝が遅延する可能性があるため、より慎重なモニタリングが必要です。
参考)いつもと異なる診療科を受診する時の注意 (その3:ホルモン剤…
長期管理においては、免疫抑制剤の投与量を段々減らしていきますが、最終的にはタクロリムス1剤だけの少量投与を一生継続していくことが原則です。ごく一部のレシピエントでは免疫抑制剤を完全に中止しても肝機能に影響がでず、免疫寛容状態になるケースがありますが、どういう組み合わせだとそうなるのかはまだ不明です。
参考)2)移植後中長期的合併症 - (3)レシピエントの合併症 -…
グラセプターカプセル副作用ナビゲーション(アステラスメディカルネット)- 各副作用の詳細な情報と対処法についての医療従事者向け資料
グラセプターカプセルとプログラフカプセルは、どちらも有効成分がタクロリムス水和物ですが、製剤的特徴が大きく異なります。グラセプターは徐放性製剤で1日1回投与、プログラフは普通製剤で1日2回投与であり、服薬後の体内動態も異なります。これらの薬剤が取り違えられて投与された場合、十分な薬効が得られないおそれ、あるいは副作用の発現につながるおそれがあります。
参考)https://www.pmda.go.jp/files/000265248.pdf
実際に、院外薬局で徐放製剤のグラセプターを後発医薬品のタクロリムス普通製剤に、用法は1日1回のまま処方された事例が報告されており、拒絶反応が発現した症例もあります。プログラフ経口製剤から本剤へ切り換える場合には、血中濃度を測定することにより製剤による血中濃度の変動がないことを確認することが添付文書で警告されています。
参考)お知らせ 日本移植学会
グラセプターとプログラフでは効能又は効果、用法及び用量、製剤特性が異なるため、処方・調剤時には十分な注意が必要です。2023年11月時点でグラセプターの後発医薬品は販売されておらず、タクロリムス後発医薬品はすべてプログラフの後発品であるため、一般名処方の際には特に注意が必要です。
参考)https://www.yakkyoku-hiyari.jcqhc.or.jp/pdf/sharingcase/sharingcase_2021_12_01C.pdf
| 項目 | グラセプター | プログラフ |
|---|---|---|
| 製剤特性 | 徐放性製剤 | 普通製剤 |
| 用法 | 1日1回 | 1日2回(臓器移植) |
| 規格 | 0.5mg、1mg、5mg | 0.5mg、1mg、5mg |
| 後発品 | なし(2023年11月時点) | あり |
| 血中濃度 | 朝服用直前の血中濃度は相対的に低め | トラフ値は相対的に高め |
グラセプターとタクロリムス普通製剤の取り違え防止資料(PMDA)- 製剤の違いと取り違え防止のための重要な情報